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大手レストラン予約サービスの従業員によるライバルへの執拗な虚偽予約は何が悪いのか?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

レストラン予約サービスによる迷惑行為

<レストラン予約サービスがライバルサービスでレストランの空予約する迷惑行為を繰り返していたことが発覚>という記事でレストラン予約サービスの騒動について触れられています。

レストラン予約サービス最大手「OpenTable」従業員がシカゴにある45軒のレストランに対して、ライバルのレストラン予約際サービス「Reserve」で、約3カ月にもわたり、数百回の嘘の予約を行っていたのです。

レストラン予約サービスによるフードテック(FoodTech)がレストランの大きな課題であるノーショー・ドタキャンのソリューションを提案したり、食品ロスを削減する効率的な仕組みを提供したりと、前近代的な飲食店の問題について素晴らしい解決策を提示しています。

そういった状況にあって、飲食店の未来に寄与するレストラン予約サービスの大手がライバルを不正に妨害していたのは大きな問題です。

では、どういった点が問題なのでしょうか。

私は次の観点において問題であると考えています。

  • 飲食店を守る
  • 客の利便性を高める
  • 業界を発展させる

飲食店を守る

少し遡ると、10年前までは電話でレストランを予約することが当たり前でしたが、今ではインターネットを介して、公式サイトやレストラン予約サービスで予約することが当たり前となりました。

公式サイトからの予約であれば最も安いと謳われることも多くなっています。しかし、特別なプランを選ぶことができたり、ポイントが蓄えられたりと、レストラン予約サービスからの予約であれば客にとって多くの価値が付与されているのです。

またレストラン予約サービスでは、地域やジャンルによる検索や他レストランとの比較も容易にできることから、ユーザーにとって非常に便利となっています。そうであるからこそ、レストラン予約サービスが発展しているのです。

ただ、レストラン予約サービスは通常、飲食店からひとつの予約あたりいくらといった委託料を課しています。これに加えて、掲載料ということで、予約がなかったとしても、ほとんどの場合には基本料金をもらっているのが現状です。

そう考えると、レストラン予約サービスはいくらユーザーにとって価値があると主張しても、飲食店があってこそ、飲食店に予約するという仕組みがあってこそ、成り立っている仕事であると言えるでしょう。

従って、レストラン予約サービスは飲食店の発展と共にあります。飲食店がどんどん少なくなっていったり、外食産業が衰えていったりしては、レストラン予約サービスが衰えていくのは自明です。

そういった立場にあるレストラン予約サービスは飲食店を守るべき立場にありますが、この事件ではレストラン予約サービスが虚偽の予約をして飲食店に損害を与えています。

レストラン予約サービスがレストランに損害を与えるようなことは決して起きてはなりません。

客の利便性を高める

レストラン予約サービスはレストランから委託料を得ているので、レストランと共存共栄していかなければならないことを述べました。

しかし、レストランとだけではなく、レストランを予約する客とも共存共栄していかなければならないのは当然のことでしょう。

レストラン予約サービスが存在する意味は、客にとってレストランの公式サイトから予約するよりも、価値があるからに他なりません。レストランの公式サイトから予約した方が価値が高いのであれば、誰もレストラン予約サービスで予約しないでしょう。

レストラン予約サービスの価値は、レストランの公式サイトよりも見易かったり、複数のレストランを比較して選べられたり、お得なプランがあったり、ディスカウントされていたりすることです。

こういった価値は非常に重要ですが、最も重要なことは信頼性でしょう。例えば、客にとってどれだけ価値のある予約プランを提供していたとしても、予約したのに実際に予約できていなかったとしたら、そのレストラン予約サービスは全く価値がありません。

この事件では、虚偽の予約を行ったために、普通に予約したかった客が予約できなくなった可能性があるので、客の利便性を損ねたと言えます。

本来は客に価値を与えるはずのレストラン予約サービスに属する従業員が、客に被害を与えるとは言語道断です。

業界を発展させる

レストラン予約サービスの存在意義は、レストランの発展に寄与し、かつ、客に価値を与えることに尽きます。そうでなければ、客はレストランに直接予約すればよいだけでしょう。

こういった観点からすれば、レストラン予約サービスは客と飲食店との橋渡しを担う必要性があります。

レストラン予約サービスはそれ自体があるだけでは決して成り立たず、加えて、たった1つのレストラン予約サービスが全ての飲食店の予約を網羅できるはずはありません。つまり、レストラン予約サービスは、レストラン予約サービス業界全体の発展を鑑みて行動する必要があるのです。

この事件では、レストラン予約サービスの従業員が、他のレストラン予約サービスで虚偽の予約を行ったことにより、レストラン予約サービスからの予約は信用ならないとネガティブなインパクトを与えました。

客と飲食店との関係を円滑にする存在であるはずのレストラン予約サービスが、客と飲食店との信頼を著しく破壊する活動を行ったことは極めて致命的であると言えるでしょう。

レストラン予約サービスの存在意義や影響量

不正を行ったレストラン予約サービスの従業員は自社のサービスの優位性を示すために虚偽の予約を行ったと述べています。

しかしこれは、非常に視野が狭いでしょう。

なぜならば、レストラン予約サービス全体の信頼性が低下すれば、他社はおろか自社のレストラン予約サービスですら、客から信頼されなくなるからです。

レストラン予約サービスはたった1社だけが存在しても意味はありません。たった1社だけで、例えば日本では全国70万店もの飲食店をカバーできることはないからです。飲食店に売上やサービスを向上させ、客に利便性や特典を提供し、さらには、客と飲食店の間に位置して業界の発展に寄与しなければなりません。

フードテックが注目されている現代において、その主役たるレストラン予約サービスは自身の存在意義や影響力を改めて鑑みなければならないと考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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