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有名YouTuberのサイゼリヤ大量食べ残し続編。本質的な3つの問題点

東龍グルメジャーナリスト
伊藤初美(ハツ)氏撮影

有名YouTuber炎上の続編

有名YouTuberのサイゼリヤ大量食べ残しはテレビと何が違うのか?で、食のインフルエンサーである伊藤初美(ハツ)氏のTweetがきっかけとなった有名YouTuberによる食べ残し事件を取り上げました。

その後どうなったかと言うと、サイゼ「食べ残し」YouTuberがまた「炎上」 謝罪翌日のネタ動画に「全く反省してない」でも紹介されているように、再び炎上しています。

前回はテレビと比較して考察しましたが、根本的に何がよくないのかについて考察したいです。

食品ロスに対する姿勢

まず、食べ残しに対するYouTuberの姿勢が問題に問われると考えています。

「もう耐えきれません 解散します」という動画で、反省して何かしら真摯な対応をみせるかと思いましたが、解散とは名ばかりで、チーム名を変更するだけという、オチとなっていました。

食べられるものを粗末にすることに対して少しでも悪いという気持ちがあるのなら、こういった反省する振りをする動画を作ったりしないでしょう。何が何でも全てを完食する必要はありませんが、故意に食べ物を残すことに対して何も感じず、むしろ、自身のネタにしていることは残念です。

テレビでも、ある店の全メニューを食べるというような、完食を目的とした番組がありますが、ほとんどの場合、出演者が全てを食べているわけではありません。しかし、最低でもテレビ製作においては、これをよくないことだと考えているので、スタッフが残りを食べたり、周囲の人が不快にならないように注意して、気遣っているのです。

番組の企画的に食べきれないのは仕方がないにしても、それに対する感じ方や対応の姿勢に違和感を覚えます。

料理や料理人に対する尊敬

次に、料理や料理人に対する尊敬の念です。正直なところ、ファミリーレストランと町場やホテルのファインダイニングとでは、食材のよしあし、費やす手間、必要となる技術力が全く異なります。しかし、ファミリーレストランであってさえも、調理する人やサービスするスタッフが存在しているのです。

こういった料理の奥にある人の介在を無視しているからこそ、「店の許可を取った」から好きに食べ残してよいと思うのではないでしょうか。ファミリーレストランの広報から企画に対してゴーサインが出たとしても、作り手のことを考えれば、少しは申し訳ないと考えるものです。

もちろん、テレビの場合でも全て、店の許可を取っています。それは最低限のことであり、撮影における出発点とも言えます。そこから関係者に配慮しながら、いかに企画を進めていくのかが、とても重要になるのです。

コンテンツの餌食

最後に指摘しておきたいことは、食が映像や動画のコンテンツの餌食にされることが問題であるということです。食の番組を作ることそれ自体が悪いのではなく、品のよくない企画や行き過ぎたお得な攻略方法など、食の文化の普及や食の地位向上に焦点が当てられないことを危惧しています。

生産者や食材そのもの、それを調理する人やできあがった料理など、それぞれに物語はあるはずですが、効率的かつ表面的なインパクトだけを求めると「全メニューを食べた」「大食いしてみる」「元をとれるのはどれか」「早食い競争した」など、何の深みもないコンテンツになりがちです。

多くの人の身近にあり、注目されるだけに、食は安易な企画にも用いられます。全てが深みのあるコンテンツである必要はありませんが、「マツコの知らない世界」のケーキバイキングでやってはならない5つのことでも述べたように、あまりにも浅いコンテンツが多くなっていると感じざるを得ません。

YouTubeで食育

フランスと比べると、日本は食育が遅れているため、日本にはたくさんの素晴らしい食材や料理や食文化があるにも関わらず、あまり日本人がそれを認識しておらず、むしろこのように、粗末にさえ扱っています。

若い世代はYouTubeの動画をよく観賞しているだけに、食に対する認識が歪められることを心配しています。

有名YouTuberはほぼ毎日動画をアップロードするので、あまり時間的な余裕がないことは承知していますが、食の素晴らしさを伝えるような動画がもっと出てくれば、若い世代にとってよい食育となるのではないでしょうか。

そして、日本の素晴らしい食を教授したYouTuberに尊敬の念を抱くことになり、長い目で見れば、YouTuber自身のためにもなるのではないかと私は考えています。

続編<YouTuberのサイゼリヤ大量食べ残し謝罪を通して、もうやめてもらいたい3つの食べる企画>もご覧ください。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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