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なぜ新聞とテレビの報道がフーテンの見方と180度違うのか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(740)

如月某日

 コロナ・ウイルス、ウクライナ戦争、自民党裏金事件などを巡り、新聞とテレビの報道とフーテンの見方が180度違う。なぜそれほど違うのか。長年の取材経験を基に考えたフーテンの見方は間違っているのか。この4年間、フーテンは悶々とした日を送ってきた。

 それらの問題で新聞とテレビの報道は金太郎飴のように一色だ。それが猛烈な勢いで国民に浸透していく。しかしフーテンの経験で言えば、一色の報道が猛烈な勢いで国民に浸透する時、そこには何らかの意図が隠されている。フーテンはその正体が分かるまで一色の報道を受け入れることができない。

 4年前、コロナ・ウイルスの恐怖を世界中のメディアが煽り、行動制限が呼びかけられ、世界中の街角から人の姿が消えた時、フーテンは『ノー・ヌーク』という雑誌に、行動制限を一切行わないスウェーデンのやり方を真似すべきだという原稿を書いた。

 スウェーデンは学校も企業も飲食店も休業せず、マスクをつけることも強制しなかった。政府は「自覚を持って密集を作らないようにしよう」と呼びかけただけだ。周辺国から激しいバッシングを受けたが、それでもスウェーデンはやり方を変えなかった。結果、コロナによる4年間の死者数は2万5千人で大きな災厄には至らなかった。

 日本の死者数も4万人程度だった。インフルエンザの死者数をやや上回るが、しかし巷には行動制限を守らない人間や店を糾弾する「自粛警察」が生まれ、一方で国の予算が大量に注ぎ込まれたにもかかわらず医療崩壊が叫ばれた。新聞とテレビが国民の命を守ることを正義としてコロナの恐怖を煽ったことがそういう結果を生んだ。

 フーテンは平和主義を唱える日本人を戦争に進ませるのは簡単だと思った。新聞とテレビが恐怖を煽り、「国民の命を守れ」と叫べば、日本人はそれに盲従するのである。そうした中でフーテンの主張は無視され続けた。フーテンは日本人であることをやめたくなるほど憂鬱だった。

 最近になってようやくワクチンの弊害やワクチン接種を強制したことに対する疑問、さらには製薬会社や病院の利益至上主義が問題視されはじめ、人々は多少だが冷静さを取り戻したかのように見える。しかし煽った当事者が反省する様子はまるでない。

 2年前にロシア軍がウクライナに侵攻した時、新聞とテレビは一斉にロシアのプーチン大統領を「狂った侵略主義者」と批判した。フーテンはロシアとウクライナを取材した経験はないが、冷戦が終わった直後から10年余り米国のワシントンに事務所を置いて米国政治を取材した経験がある。

 その経験から、これは米国のバイデン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領にロシアを挑発させたことで始まった戦争だと思った。フーテンは『紙の爆弾』という雑誌に「ウクライナ戦争の全真相」と題する原稿を書き、「プーチンの侵略ではなくバイデンが始めた戦争」と書いた。

 フーテンの主張はシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授とフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏の主張と共通する。しかし連日の新聞とテレビの報道はそれとはまったく異なり、国を挙げてゼレンスキーを英雄視し、プーチンを攻撃しないと非国民扱いされる雰囲気がメディアによって作られた。

 テレビに登場する学者たちは侵攻前と侵攻後で主張を一変させた。侵攻前にゼレンスキーを批判していた学者が、侵攻後は一転してプーチン批判を始め、軍事問題の専門家たちも横並びでウクライナの勝利とロシアの敗北を主張した。

 フーテンは「テロとの戦い」でアフガンやイラクでの米国の戦争を見てきたが、米国の先制攻撃は「力による現状変更」そのものだったから、自分を棚に上げてロシアを批判する資格など米国にはない。

 そして米国はまず空爆で都市を破壊し尽くしてからでないと地上軍を侵攻させなかった。ところがロシアはキーウを空爆で破壊し尽くしていないのに最初から地上軍を侵攻させた。だからこれは和平交渉を有利にするための示威行動で、本気でキーウ占領を考えてはいないとフーテンは判断した。

 しかし米国政府は「ロシアはキーウ攻撃に失敗したと」と断言する。すると日本の軍事専門家も同じことを言った。日本にはオウムのように米国の口真似する学者と軍事専門家がいる。それを国民も思い込まされるのだから、ウクライナ戦争はフーテンに日本が米国の奴隷のような従属国であることを再認識させた。

 最もひどかったのはNHKの解説委員たちだ。どうしてここまで米国の言いなりなのかと思わせる解説のオンパレードだった。フーテンはおそらく岸田政権からお達しがあったのだろうと想像した。G7議長国になる日本にはそれ以外の選択肢はないからだ。

 そのNHKが最近「おやっ」と思わせる番組を2本放送した。1本は1月23日放送の「クローズアップ現代」で、元外務省分析官の佐藤優氏にインタビューし、佐藤氏は「他者を理解し合える世界」というテーマで、ウクライナにいる親露派の住民とウクライナ政府が共存することの必要性を説いていた。

 もう1本は2月26日放送の「映像の世紀バタフライエフェクト CIA 世界を変えた秘密工作」というドキュメンタリー番組である。米国はCIAに命じて世界各国の国民に洗脳工作を施し、反政府運動を組織して親米国家に転換させてきた事実を暴いている。

 冷戦時代のイラン、ハンガリー、チリでの国民洗脳工作を紹介し、最後にCIAが現在標的にしているのはロシアであると言った。つまりロシアの反体制運動の背後にCIAがいる。反体制活動家ナワリヌイ氏の死亡直後のタイミングでNHKはこの番組を放送した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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