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陰謀論を排するため安倍元総理暗殺事件の真相が裁判で明らかになることを望む

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(685)

睦月某日

 安倍元総理を銃撃し殺害した山上徹也容疑者は10日、170日間にわたる刑事責任能力の有無を調べる鑑定留置を終えて、大阪拘置所から奈良西警察署に移送された。奈良地検は責任能力を問えると判断し殺人罪と銃刀法違反の罪で起訴する方針だという。

 検察が精神鑑定としては異例の長さの鑑定留置を要求したことに、フーテンは一時は鑑定留置を口実に、この事件を不起訴にする方向にもっていこうとするのではないかと危惧した。 

 長期の鑑定留置の結果、山上容疑者の精神状態が不安定化し、それを理由に検察が山上容疑者の刑事責任能力を問えないと判断して不起訴にすれば、裁判は開かれずに事件の真相は明らかにされないまま終わる。

 それを危惧したのは、この事件が旧統一教会と岸信介氏の接点から始まる安倍家3代の関係に光を当て、しかもその背景には米国のCIAと韓国のKCIAが協力し、日本から金を吸い上げ米国や韓国の政界に流す仕組みが垣間見えたからである。

 しかし検察が起訴する方針を固めたことは、そうした不都合な真実を表に出さずに裁判を決着させる見通しが得られたためだと思う。戦後の日本、韓国、米国の闇の部分には踏み込まず、山上容疑者の個人的恨みに焦点を当てるだけで事件のストーリーは完結するのだろう。

 旧統一教会によって自分と家族の人生が目茶目茶にされたと思う山上容疑者は、旧統一教会に恨みを抱き、最初は韓鶴子総裁をターゲットにしたが、コロナ禍のため来日の可能性がなくなると、代わりに安倍元総理をターゲットに選んだ。

 従って事件の焦点は、なぜターゲットが安倍元総理に代わったかという点になる。これまで報道されてきた情報だけで言えば、21年9月に安倍元総理が旧統一教会の関連団体UPFのイベントに動画メッセージを寄せ、それを見た山上容疑者が殺害を決意したことになっている。

 ただ韓鶴子総裁に対する攻撃として考えられたのは殺害ではなかった。19年10月に韓総裁が来日した際、山上容疑者は火炎瓶を投げつけようと愛知県の会場に行くが、中に入れず計画を断念する。火炎瓶で殺害はあり得ず、騒ぎを起こすためだけだったと思われる。

 しかしこの時に名古屋で見た映画『ジョーカー』に山上容疑者は心動かされた。『ジョーカー』は母親と2人で貧しく暮らす心優しいコメディアンが、金持ちのおぼっちゃまで正義の味方となるバットマンに対抗し、凶悪な敵に成長するまでを描く。現代の格差社会を象徴する映画と評価された。

 心優しいコメディアンが悪に転ずるきっかけは、不良たちが女性に危害を加えるのを止めようとして逆に襲われ、他人から預かった拳銃でとっさに射殺したことから始まる。

 そして自分に嘘をついた母親を殺し、次にテレビカメラの前で尊敬する番組司会者を意識的に射殺する。こうしてコメディアンは悪の象徴となり、市民の暴動を扇動するのである。

 その映画を見た2年後に、山上容疑者は安倍元総理が旧統一教会の広告塔の役割を果たす動画を見た。それから手製の銃を作り始め、何度も試し打ちをして性能を高める。

 そしてイデオロギー的には安倍元総理のシンパと思われる山上容疑者が、旧統一教会を破壊するターゲットとして安倍元総理殺害計画を決意し、犯行に至るのである。

 韓国で生まれた旧統一教会は、岸信介氏と結びつくことで日本の政界に足がかりを作り、その義理の息子の安倍晋太郎氏を総理にすることで勢力を拡大しようとした。

 しかし中曽根元総理の裁定で総理の座は竹下登氏に奪われ、晋太郎氏が病没したことで野望はかなわなかった。

 そのまた息子の安倍晋三氏は、母親の忠告から旧統一教会と疎遠になるが、第一次政権が失敗に終わると、野党に転落した自民党は集票能力のある宗教票に目をつける。一方で旧統一教会側も安倍晋三氏との再接近を計画した。

 昨年暮れに放送されたBS―TBSの「報道1930」に出演した旧統一教会の最古参幹部は、第一次政権の失敗で落ち込んでいた安倍晋三氏を再度総理にするため、自分たちが12年4月に高尾山登山を計画したと証言している。

 その登山には後に総理秘書官となる経済産業省の今井尚哉、長谷川栄一氏らも参加し、それから安倍晋三氏は秋の自民党総裁選を勝ち上がり、その直後に民主党の野田総理が解散した総選挙にも勝利して、第二次安倍政権を誕生させた。

 それからは固い宗教票の威力をフルに発揮するため、選挙争点を分からなくして投票率を下げることに力を入れる。そのため投票率は戦後最低ラインを続け、それによって第二次安倍政権は6戦6勝という輝かしい選挙結果を勝ち得た。

 民主主義社会において政権に力を与えるのは選挙である。こうして安倍元総理も旧統一教会も野望を達成するかに見えた。しかし世界を襲ったコロナ禍が野望にストップをかけた。安倍元総理はコロナ対策に失敗し、一時的に総理を他の者に譲らざるを得なくなる。

 しかしそれでも安倍元総理の野望は消えず、自民党最大派閥を擁して菅政権も岸田政権も短命に終わらせ、再登板の機会を狙っていた。岸田総理とは積極財政か財政健全化か、親中国か親台湾かで対立し、昨年7月の参議院選挙後には安倍vs岸田の戦いが顕在化するとフーテンは見ていた。

 その矢先に安倍元総理が銃弾に倒れ、主なき最大派閥だけが自民党に残った。弱小派閥の岸田総理は、この最大派閥にそっぽを向かれては困る。安倍元総理の政治に迎合しながら、しかし少しずつ自分のカラーを滲ませていく構えを見せている。山上容疑者の裁判はそうした今後の政治の動きにも影響を与えることになる。

 安倍元総理の銃撃事件を巡っては、山上容疑者の犯行ではなく、他に真犯人がいるという説がまことしやかに流れた。真犯人の後ろには米国がいるという説や、中国だという説もあった。とにかく政治的暗殺だというのである。

 その根拠として山上容疑者は2度銃の引き金を引いたが、発射された弾丸の1発が見つかっていないと言われる。また死因とされた弾丸の軌道がおかしいという説もある。そうしたことから犯人は山上容疑者の発砲に合わせ、別の場所から安倍元総理を撃ったというのである。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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