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東京地検特捜部は疑惑の中心にいる森元総理を摘発できるのか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(663)

葉月某日

 東京地検特捜部は8月17日、東京五輪のスポンサー選定などを巡り、5100万円を受け取った受託収賄容疑で東京五輪組織委元理事の高橋治之容疑者と、贈賄容疑で紳士服大手AOKI前会長の青木拡憲容疑者ら3人を逮捕した。

 2020東京五輪は、招致の段階から疑惑にまみれた大会であることを海外メディアが伝えており、東京地検特捜部が捜査に乗り出したことに驚きはない。ただこれまで海外メディアが伝えてきたのは五輪招致に関わる買収疑惑で、今回の捜査がそれと結びつくのかが分からない。

 今回の容疑は、AOKIが大会スポンサーとして有利に取り払ってもらうよう請託したことに対し、高橋容疑者が金銭を受領してそれに応えたという話で、「疑惑にまみれた五輪の闇を解明する」と言えるような捜査ではない。

 いやこれは捜査の入り口で、今後は広がりを見せるという見方もあるが、海外メディアがこれまで問題にしてきた中心人物は、高橋容疑者より森喜朗東京五輪組織委前会長だ。現在のところ捜査がそちらに向かう気配はない。

 五輪招致疑惑の捜査に着手してきたフランスの司法当局は、日本の捜査当局が協力的でないと海外メディアに漏らしている。そんなこともありフーテンは、今回の捜査の本気度にいささかの懸念を抱いている。

 安倍政権が力を入れた東京五輪は、日本が「観光立国」を国是とするために取り組んだ国家事業と言ってよい。かつて「貿易立国」を掲げ高度経済成長を成し遂げた日本は、それが米国の怒りを買い、「貿易立国」を続けることができなくなったため「観光立国」を考えた。

 そのための突破口が東京五輪だった。だから東京五輪は「アベノミクス4本目の矢」と位置付けられ、「観光立国」を自らの重要政策と考える当時の菅義偉官房長官がこれを強力に支えた。その後ろにスポーツ界のドン森元総理がいて采配を振るった。これに検察が本気で切り込めるのかフーテンは疑っている。

 そこで招致に至る経緯と検察との関係を整理してみる。最初に2度目の東京五輪をやろうと考えたのは石原慎太郎東京都知事である。それは1964年の最初の東京五輪で米国の旗が何度も上がるのを見て悔しかったからだという。リベンジの東京五輪だ。

 しかし東京は招致合戦でリオデジャネイロに敗れた。そこで石原氏は五輪を断念、都知事もやめようとした。ところがそれを口説いて招致を続けさせたのが森元総理だ。息子の石原伸晃氏を総理にするため協力するのが条件だった。石原氏は都知事をやめ、招致活動は後任の猪瀬都知事に引き継がれる。

 2013年9月に東京は2020年の招致に成功した。理由はリオデジャネイロを真似て200万ドルでアフリカ票を買収したからだ。日本はリオがやったのと同じシンガポールの幽霊会社に金を振り込んだ。この時、招致委員会から高橋容疑者の口座に9億円が振り込まれ、同時に森氏が理事長を務める財団法人にも1億4千万円が振り込まれた。フランスの司法当局はそれを掴んでいるとロイターは伝えている。

 東京に決まった途端、猪瀬都知事に対し安倍元総理と森元総理から批判の声が上がった。猪瀬氏が民間人を東京五輪組織委会長に充てようとしたからだ。そしてすぐに東京地検特捜部は石原氏のスポンサーだった医療法人徳洲会の選挙違反事件捜査に乗り出した。その捜査から猪瀬氏が徳洲会から5千万円を受領していた事実が判明する。

 猪瀬氏は返金したが、金の趣旨を巡り都議会で追及された。そして検察は猪瀬氏に政治資金規正法違反で罰金刑を求刑する。これで猪瀬氏は都知事辞任を余儀なくされ、五輪組織委会長には森元総理が就任した。検察は森元総理に都合良く動き、あまり前例のない政治家の組織委会長が誕生した。

 検察が徳洲会を摘発したことで、石原氏とその後継者である猪瀬氏は東京五輪から遠ざけられ、安倍・森コンビが東京五輪を牛耳ることになった。すると2014年2月、米国のニュースサイト「デイリー・ビースト」は、「東京オリンピックはヤクザ・オリンピック」という記事を掲載した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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