フーテン老人世直し録(649)

皐月某日

 バイデン大統領を乗せた米国の大統領専用機エアフォース・ワンは22日、日本の正面玄関ではなく横田にある米軍基地に着陸し、バイデンはそこからヘリコプターで六本木の米軍基地に移動、そして港区の米国大使公邸に向かった。一連の会談を終えた24日もバイデンは横田の米軍基地から米国に向けて飛び立った。

 これは日本の法律上、バイデンが入国もしていなければ出国もしていないことを意味する。日本の法律上入国していない人間が東京で開かれた日米首脳会談と日米豪印のクワッド会合に参加していたわけだ。この超法規的行動は、日本が米国の従属的地位にあることを物語る。

 しかしこのやり方はトランプ大統領の時代まではなかった。米国の歴代大統領は儀礼通り日本の玄関口羽田空港から入国した。しかしトランプは率直に米国の本音を行動で示した。日本は米国にとって敗戦国であり、植民地に等しいというのが彼らの本音である。「悔しかったらもう一回戦争して勝ってみろ」と日本人に向かって彼らは必ず言う。

 そしてもう一つの理由がある。かつての米国は本音ではそう思っていても、日本に対し礼を尽くす必要があった。米ソ対立の時代、米国は西ドイツと日本を「反共の防波堤」として大事にしなければならなかった。共産主義の膨張を抑えるために経済支援し、米国の味方にひきつけておく必要があった。

 日本はそれを利用し、「面従腹背」ではないが、米国の言いなりになっているように見せながら、実は国民に平和主義を刷り込み、軍備に金を使わずに経済成長に力を注ぎ、米国経済を侵食していった。米国の製造業は日本に潰されていったのである。

 しかし91年のソ連崩壊で事情は一変する。米国は日本を「反共の防波堤」とする必要がなくなった。それより日本経済がソ連の次の敵として米国の前に立ちふさがった。米国は「年次改革要望書」を送りつけて日本の経済構造を変える一方、台湾、韓国、中国の経済力を伸ばして日本経済を抑えにかかった。

 すると日本は「面従腹背」ではなく「面従腹従」になる。抵抗するどころか米国の要求を受け入れる一方になった。そうなると米国は日本を台頭する中国を抑えるための「駒」として使える程度にはしておくが、かつてのように警戒する必要もなく馬鹿にし始めた。

 オバマ大統領の時代、オバマは横田にこそ降りなかったが、日本訪問の到着時刻を直前まで知らせず、日本政府を混乱させても平気だった。安倍元総理が寿司屋で接待してもそこではほとんど食べず、違う寿司屋の寿司をホテルで食べたという噂も流れた。

 そして安倍元総理が大統領就任の前から駆けつけてすり寄る姿勢を見せたことが、トランプをして正面玄関から入らずに、日本が米国の植民地であることを両国民に知らしめる行動をとらせたとフーテンは思った。

 しかしバイデンは、ことごとくトランプのやることを変えようとする大統領だ。だが日本入国のやり方は変えなかった。それを見てフーテンは岸田総理がバイデンから見下されている印象を受けた。すべてにイエスと言うしか能がないと見られている証拠だ。

 今回のバイデンのアジア歴訪を伝える米国の報道を見ると、岸田総理や日本の存在感はまるでない。最も注目されたのは「台湾がウクライナのようになった時に、米国は軍事介入するか」と記者に問われてバイデンが「イエス」と答えた部分である。

 米国はこれまで台湾有事の軍事介入を「曖昧」にしてきたが、それが変更されたのかどうかが注目された。ホワイトハウスはすぐに「政策は変更されていない」と否定し、バイデンの失言であるかのように装ったが、フーテンから見ればすべて出来レースの馬鹿馬鹿しいやり取りである。

 米国はウクライナに軍事介入しない。その理由をウクライナがNATOに加盟していないからとか、核保有国のロシアと戦争すれば第三次世界大戦が起こるとか言うが、それらはすべて屁理屈で、本当の理由は国民が賛成しないからだ。

 米国メディアはウクライナの惨状を見せてプーチンへの憎悪を搔き立てるが、国民は米国が軍事介入することに反対だ。そんなことより物価高が大問題で、ウクライナ戦争が長期化して物価高が続けば、ウクライナへの武器支援やロシアに対する経済制裁に反発の声が上がり、「戦争を早くやめさせろ」となるかもしれない。

 バイデンは外交で失敗を繰り返し秋の中間選挙が危ない。中間選挙で敗北すれば次の大統領選挙を待たずに「死に体」になる。その第一の躓きがアフガン撤退だ。撤退するのは良いが、そのやり方が余りにもお粗末だった。同盟関係にある傀儡政権を見捨ててタリバン政権の復活を許したからだ。

 台湾は心底バイデンを信用できなくなった。他の同盟国も同じだ。その失点を取り戻さなければならない。それがウクライナ戦争に結びつく。プーチンを挑発して誘いをかけ、軍事侵攻に踏み切らせて国際世論を味方につけることには成功した。しかしそれは同時に世界最強の軍事大国の抑止力が効かないことも世界に知らしめた。

 戦争をウクライナにやらせて米国は武器の支援をするだけという姿は、過去の米国を知る者からすればいかに米国が衰えたかという印象を与える。だからバイデン政権が中国包囲網を作り、台湾有事を煽っても、それでは米国に何ができるか疑問になるのは当然だ。

 それをバイデンも分かっている。だから記者にあの質問をさせ、それにイエスと答えて注目を集める必要があった。いわば台湾や反中国の人間に対するリップサービスだ。だから一方では「政策の変更はない」と言わせて、結局は何が何だか分からないようにしている。