フーテン老人世直し録(648)

皐月某日

 ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、地元メディアのインタビューで「ロシア軍を2月24日の侵攻前までの状態に撤退させられれば勝利だ」と発言した。また「戦争は対話で終わる」とか「最も重要なのは多くの人命を守ることにある」とも発言したと報道されている。

 「2月24日の侵攻前までの状態」と言えば、クリミア半島は併合され、東部地域の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立をロシアが承認した状態である。これまでゼレンスキーはそれらすべてを「力で奪還する」と宣言していた。21日の発言が本当だとすればゼレンスキーはそれを諦めたことになる。

 ゼレンスキーが2月24日前の状態に戻すことを「勝利」だと言ったのは、現実にはロシア軍の侵攻によってそれ以上の地域が制圧され、それを軍事的に押し返すことが困難になったと認識したからに他ならない。

 だからゼレンスキーは、軍事的にではなく交渉で決着をつける道を探り、まずクリミア半島と「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を横に置き、それ以外の地域からロシア軍を撤退させれば、戦争を終わらせることができると判断したことになる。

 ゼレンスキーは本当に戦争の終結を望んでいるのだろうか。実はこれまでも軍事侵攻の4日後には停戦協議がウクライナとロシアの間で始まり、そのすぐ後にゼレンスキーは米国テレビのインタビューで「NATOに加盟するのが困難なことは前から分かっていた」と発言し、ロシアの要求を受け入れる可能性をちらつかせた。

 しかし停戦協議で「NATO加盟断念」が表明されたのはそれから1か月も経った後で、その後は停戦協議が進まなくなり、仲介役のトルコ外相は「NATOの中に戦争を終わらせたくない国がある」と言って、米国や英国が戦争を続けさせようとしていることを示唆した。

 その後はウクライナ側に「徹底抗戦」という強硬発言が続き、西側諸国からは武器や経済援助が継続された。しかし21日の発言が本当だとすれば、ゼレンスキーは考えを昔に戻したことになる。国民の犠牲をこれ以上増やさないためと、ロシアのプーチン大統領に向けて事実上の敗北宣言を行って反応を見ようとしたとフーテンには思えた。

 しかしこれは西側メディアが伝えている日々の戦況分析と大いに異なる。西側メディアはロシア軍の劣勢しか伝えていない。ウクライナ軍は6月頃から本格的な攻撃をロシア軍に浴びせ、ロシア軍をウクライナから追い出すことが可能という報道が流れている。

 それを証明するように米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙は20日、ウクライナ国防省の情報機関のトップであるキリル・ブタノフ情報総局長がインタビューに応じ、「南部クリミアを含め、ロシア軍をすべての領土から撤退させるまで戦いを続ける」と発言した記事を掲載した。

 またウクライナのポドリャク大統領府顧問も21日、ロイター通信のインタビューに答え、停戦合意の可能性を否定し、「領土の譲歩が絡むいかなる合意も受け入れない」と述べた。

 これを見るとウクライナ政府は、国内向けには「2月24日前の状態に戻すことを勝利」と言い、外向けには「すべての領土奪還まで徹底抗戦」を主張している。どちらが本音かと言えば、フーテンはゼレンスキー発言が本音で、外向けは軍事や経済面で支援されているためそう言わざるをえないという気がする。

 だとすると我々は実態とは異なる情報を日々見せられている可能性がある。そこでフーテンは西側メディアのネタ元を考えてしまうのだ。ウクライナ戦争の西側のネタ元は「戦争研究所」という米国のシンクタンクである。

 そこがロシア軍の侵攻状況を赤く塗りつぶしたウクライナの地図を西側メディアに提供し、戦況分析を行っている。それを専門家と称する人たちが受け売りでしゃべっているのが日本メディアのウクライナ関連ニュースだ。

 この「戦争研究所」の所長はキンバリー・ケーガンというネオコンである。その夫も、夫の兄も、夫の兄の妻もいずれ劣らぬネオコンの代表格で、夫の兄のロバート・ケーガンはネオコン幹部、その妻のヴィクトリア・ヌーランドはバイデン政権の国務次官で、ウクライナで親露派政権打倒を画策したいわくつきの人物だ。

 つまりウクライナを利用してプーチンの失脚を狙うネオコンが、総がかりで取り組んでいるのが今回のウクライナ戦争である。従って「戦争研究所」は偏向情報を流す可能性がある。ところが日本のメディアは軍事侵攻が始まった時点から、「戦争研究所」が発信する情報を確認もせず、裏も取らずに垂れ流す状態が続いてきた。