西側世界のリーダーとは思えないプーチンに助けられただけのバイデン大統領一般教書演説
フーテン老人世直し録(635)
弥生某日
米国のバイデン大統領は日本時間の2日午前、連邦議会上下両院の合同委員会で初の一般教書演説を行った。一般教書演説とは今年1年間の米国政治の課題を示し、それにどう臨むのかの方針を述べるものだが、通常は1月最後の火曜日に行われる。それが今年はコロナの影響などもあり3月にずれ込んだ。
すると演説のタイミングが、ロシアのプーチン大統領によるウクライナへの軍事侵攻と重なり、国際社会からプーチン大統領にごうごうたる非難が浴びせられる中で行われることになった。そのため演説は冒頭から激しいプーチン批判の展開となった。
これには党派を超えた議員の支持が集まり、議場は久々に一体感に包まれたが、しかしよく聞いていると、ロシア軍と戦っているウクライナ国民に「頑張れ」と言っているだけで、この戦争をどのように勝利に導くか、西側世界のリーダーである米国大統領がその道筋と決意を示したわけではない。
同盟国の結束を強調し、それとの対比でロシアの孤立を印象づけることに力を入れれば、リーダーとしての米国が何をどうするのかを示さなくとも、ウクライナは頑張り、同盟国も結束し、孤立したプーチンは敗れていくと思っているかのようだ。
バイデンはこの演説で米国はウクライナに軍を出動させないと改めて明言した。ウクライナが同盟国でないのがその理由である。それなら同盟国でない台湾にも米国は軍を出動できない。ウクライナと同様に武器は提供するが自分たちで侵攻に対処してほしいということになる。あれほど「台湾有事」を煽っておきながら米国はそれで良いのかと思う。
その一方でバイデンは、ロシア軍がNATOに侵攻することだけは許さないと言った。それはウクライナがロシアに占領され、それからさらにロシア軍がNATO加盟国に侵入しようとするまで軍事オプションを考えないということだ。
そこからあらぬ妄想が生まれる。米国は軍は出動させていないが、実はウクライナ軍を訓練する軍事顧問団は既に派遣している。2014年のクリミア併合の際、あまりにもウクライナ軍が弱かったので、その後に備え米国はウクライナ軍を強化してきた。
それが長期のゲリラ戦にウクライナ国民を駆り立てる動きに転じ、旧ソ連がアフガニスタンに侵攻した時、CIAに訓練されたムジャヒディーンのゲリラ戦に悩まされた挙句、アフガニスタンでの敗北がソ連崩壊の大きな要因となった。そして米国はロシア国内で反プーチン運動を激化させ、ソ連崩壊に次ぐロシア崩壊に導くという戦術だ。ウクライナ国民はそのためのゲリラ要員にされるかもしれない。
共和党の議員たちは、トランプが大統領であったならプーチンは軍事侵攻に踏み切らなかったろうと口々に言うが、トランプでなくとも世界最強国家を自負する米国大統領なら、自分たちの力で戦争を終わらせる姿勢を打ち出したはずだ。今回のバイデンの一般教書演説に見えるのは、米国にはもはや世界最強国家の振る舞いができない現実だ。
そもそも事の起こりはプーチンが米国に対し、NATOの東方拡大を停止しろと要求したことにある。それは冷戦を終わらせる時の約束だというのがプーチンの主張だ。さらにその背景には西側世界との緩衝地帯になってきたウクライナやジョージアがNATO入りすれば、ロシアの安全は著しく脅かされるという現実の恐怖心がある。
かつてキューバにソ連の核ミサイル基地が作られようとした時、米国のケネディ大統領は第三次世界大戦を覚悟してでも阻止しなければと考えた。それに等しい恐怖心だ。目と鼻の先に核ミサイルが配備されれば、その国は生きていけないのが核の時代の現実だ。
米国はソ連に向けてトルコに配備したミサイルを撤去することで、ソ連のキューバ基地建設を断念させた。その取引ができなければ第三次大戦が起きていたところだった。プーチンがしきりに核の脅しをかけるのは、これがキューバ危機に匹敵する問題だと言いたいのだろうとフーテンは思う。
つまりウクライナのNATO加盟は、ロシアにとって生殺与奪の権を米国に握られる問題だ。だから第三次大戦を覚悟してでも米国にそれをやめるよう要求する。これに対する米国の対応は原則論だ。主権国家のウクライナが求めるなら米国にそれをやめさせる権限はないと言う。
その一方でNATOはウクライナを加盟させようとはしていない。加盟させればそれに反発するロシアとの第三次世界大戦を覚悟しなければならないからだ。核を持つ国同士の戦争は世界の終わりを意味するから、ウクライナの要求をすんなり認めることはない。
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