二階幹事長が「他山の石」と言った資金提供疑惑は安倍前総理と菅総理に疑惑の目を向けさせる

フーテン老人世直し録(583)

皐月某日

 昨年の参議院広島選挙区の大規模買収事件を巡り、河井克之・案里夫妻側に1億5千万円の資金が自民党本部から提供されていた問題で、自民党の二階幹事長は17日と18日の両日にわたり記者会見で自らの関与を否定した。

 17日には「私は関係していない。関係していないから関係ないというのではなく、その事態をはっきりしておくために言っただけのことだ」と言い、18日には「党全般の責任が私にあるのは当然だが、収入、支出の最終判断をしており、個別の選挙区の選挙戦略や支援方針はそれぞれ担当において行っている」と重ねて関与を否定した。

 一方、17日の会見に同席した林幹雄幹事長代理は、「実質的に当時の選挙対策委員長が広島を担当していた」と解説し、安倍前総理の盟友である甘利明選挙対策委員長(当時)の関与をほのめかした。

 これに対し甘利氏は18日、「1ミリも、正確に言えば1ミクロンも関わっていない。関与していない以前に、党から給付された事実を知らない。これがすべてだ」と記者団に語り、林幹事長代理は「いろいろと幹事長も発言しているのだから、根掘り葉掘り、あまり党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」と記者団の質問を遮った。

 林幹事長代理は質問を遮ったが、そもそも問題に火をつけたのは二階幹事長サイドであり、質問を遮れば火の勢いが増すことを知っているのも幹事長サイドである。フーテンはいよいよ二階幹事長が政局の布石を打ち始めたように思った。

 フーテンは以前のブログで、二階幹事長が買収事件を「他山の石」と表現したのを野党やメディアが「他人事みたいに言うな」と批判したことを批判した。二階幹事長は自分の知らないところで行われ、安倍前総理や菅総理の責任に目を向けさせようとしたのだと書いたが、その通りだった。

 またフーテンは、4月25日の国政選挙自民全敗を受けて「5月は政局の予感」と書いた。政局の主役は菅総理と安倍前総理、そして二階幹事長である。そのトライアングルが新型コロナウイルスとワクチン接種の状況を見ながら、東京五輪開催を巡って綱引きを繰り広げ、それによって解散総選挙の時期も決まってくると書いた。

 自民全敗の選挙結果を受けて最初に動き出したのは安倍前総理だ。以前から予定されていた事ではあるだろうが、5月3日の憲法記念日に便乗し、BSフジのテレビ番組に総理辞任後初めて生出演し、翌4日の産経新聞には国際政治学者との対談が1面すべてを使って掲載された。

 それをメディアは国政選挙全敗によって菅総理の求心力が低下し、代わって安倍前総理が勢いづき、再々登板への意欲を示していると解説したが、フーテンはそうは思わない。

 河井案里氏の当選無効を受けて行われた参議院広島選挙区の再選挙で、そこが自民党宏池会の牙城であるのに自民党が敗北したことは、菅総理ではなく自民党広島県連会長で宏池会会長でもある岸田文雄氏を痛撃した。

 この敗北で岸田氏は9月の自民党総裁選に立候補できるかどうかが分からなくなった。菅総理に対する牽制のカードとして岸田氏を温存しておきたい安倍前総理にとっても、この敗北は痛手だった。3日のテレビ番組で安倍前総理は、菅総理の続投を支持せざるを得なかった。

 一方の菅総理や二階幹事長にとって、広島での自民党敗北は当面の政敵である岸田氏の凋落を意味するからむしろ好都合だった。菅総理は敗北を織り込み済みだったし、二階幹事長は敗北を機に広島選出で宏池会所属の自民党議員を切り崩し、二階派に入れる計略を練っていたと言われる。

 追い込まれた岸田氏は、何とか窮地を脱する道を探さざるを得ない。宏池会だけでなく派閥横断の勉強会を作り、菅政権に対抗する姿勢を示して9月の総裁選に備えようとしている。岸田氏に完全に潰れてもらっては困る安倍前総理も秘かに支援に回るのではないかと見られる。

 広島選挙区で自民党が敗れた原因は何と言っても「政治とカネ」の問題だった。岸田氏は12日に自民党本部に二階幹事長を訪ね、選挙敗北の原因になった1億5千万円の資金提供について国民に説明するよう求めた。

 それに対する回答が17,18両日の二階幹事長の発言なのかもしれない。まずは幹事長の知らないところで資金が提供されたという話を明らかにした。しかし1億5千万円もの大金が幹事長の知らないところで支出されることがあり得るのだろうか。誰しもが疑問に思う話である。それを二階幹事長はあえて明らかにした。

 そして林幹事長代理が安倍前総理の盟友である甘利明氏の関与をほのめかす。しかし甘利氏は関与を全否定し、資金提供など全く知らないと言い張る。まるで芥川龍之介の小説「藪の中」の世界だ。誰かが嘘をついている。誰が嘘をついているのか。そう思わせる目的で二階幹事長は一石を投じたように思う。

 自民党の資金を差配するのは幹事長の役目である。その幹事長が知らないと言うのだから、特別のことが起きたということだ。考えられるのは幹事長より偉い人が幹事長に知られないように支出したのである。幹事長より偉い人は自民党総裁しかいない。安倍前総理のことになる。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」次回日時:6月26日(土)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。皆様から寄せられた質問に答えます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。現在令和3年12月までの会員を募集中です。

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