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経済的利益が期待された東京五輪は一部政治家の政治的利益でしかなくなった

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(566)

如月某日

 森喜朗前東京五輪組織委会長の「女性蔑視発言」から始まったゴタゴタ騒ぎは、森氏の「娘」を自称する橋本聖子五輪担当大臣が後任になることで一応の決着を見た。

 橋本大臣の後任には森氏が娘のように可愛がる丸川珠代参議院議員が就任するから、森氏が会長を辞任しても、裏で君臨する体制に揺らぎはない。2020東京五輪はこれからも森喜朗氏を頂点とする「森一族」が運営していく。

 橋本聖子氏を会長に推したのは菅総理と言われる。森会長が川淵三郎氏に後継を託そうと根回しを始めた時から異論を唱え、「透明性」をキーワードに橋本氏を会長にする工作に乗り出した。

 川淵案は一夜にして撤回され、組織委員会の中に候補者検討委員会が作られ、そこで一致して橋本氏を推薦する形が採られた。しかし選考過程はまったく「不透明」だ。8名の検討委員会のメンバーは何を基準に選ばれたのか。そのメンバーが現状をどう捉えていて、何を会長になる基準にしたのか、まったく分からない。

 非公開の理由を「人権問題があるから」と言った御手洗富士夫名誉会長の言葉には驚いた。菅総理が森氏の了解を得られる人選を行い、それを分からせないように非公開にしただけではないか。菅総理が「透明性が大事」と言いながら行ったことは人事への政治介入である。日本の政治に「透明性」ほど不似合いな言葉はないのだが。

 メディアは組織委会長、五輪担当大臣、都知事がすべて女性になったことで、日本が前進したかのように言うが、組織委会長と五輪担当大臣の裏には森氏の影があり、内実は「女性蔑視発言」前と全く変わらない。

 いやより悪くなるかもしれない。森氏は議員を退いて今さらギラギラしてはいないと思うが、3人の女性は現役の政治家である。橋本氏は自民党を離党したが、議員は辞職しないという。会長職をやりながら議員活動を行って歳費を貰うことができるのか。議員とはそれほど暇なものなのか。

 丸川氏と小池氏は選挙で戦った敵味方の関係である。しかも今年は選挙の年だ。都議会議員選挙もある。総選挙も必ずある。小池氏はコロナ禍の最中であるにも関わらず、千代田区長選挙で自派の候補の応援に駆け付け、自公候補を落選させた。

 従って3人の女性たちは五輪の準備を進めるにも、必ず選挙を意識しながら行うことになる。目には見えない火花が3人の間で飛び散る予感がフーテンにはある。そして菅総理が政治介入したことは、自分の「政治的利益」のためでしかない。

 東京五輪が中止になれば解散も打てない総理に成り下がるからだ。それを避けるためには、海外のスポンサーが「去るべき」と言った森氏を後ろに隠し、女性を表に並べて東京五輪を延命させるしかない。東京五輪は今や総理の「政治的利益」のために強行される運命にある。

 2013年に日本が東京五輪招致に成功した時は「アベノミクス4本目の矢」と位置付けられ、戦後日本の国是であった「貿易立国」に代わる「観光立国」の切り札として、その経済効果が大いに宣伝された。海外からの観光客の増加によって、国民の懐にも金が入ってくる夢が振りまかれた。

 東京五輪を主催するのは国ではなく東京都なのだが、招致に成功した猪瀬東京都知事も、その次の舛添東京都知事もなぜかスキャンダルにまみれて辞任を余儀なくされ、東京五輪を前面で推進したのは安倍総理である。森会長との子弟コンビで五輪推進のエンジンとなった。

 その体制に反逆したのが小池百合子衆議院議員だ。自民党東京都連や森会長の古い政治体質を批判して都知事選挙に出馬し大勝利を収めた。2016年のリオ五輪閉会式で五輪旗を引き継ぐセレモニーに小池都知事は出席したが、そのお株を奪うように、安倍総理がスーパーマリオの格好で突然登場し観衆を沸かせたのは、森氏の発案だという。

 ともかく東京五輪は安倍政権にとって「経済的利益」を得るための道具であり、それを補強するもう一つの目玉が2025年に予定されている「大阪万博」だった。さらに安倍政権は「観光立国」を推進するためIR推進法を成立させてカジノを日本に誘致しようとした。外国人富裕層を呼び込むためと言われた。

 それらの背後で裏方として動いたのが官房長官時代の菅総理である。「週刊新潮」によれば、ブラジルがリオ五輪招致に成功したのと同じ手法でセネガル人の元IOC委員を買収するため、菅官房長官はパチンコ機器メーカー「セガサミーホールディングス」の里見会長に、森氏が代表理事を務める「嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」に資金を振り込むよう依頼したという。

 見返りは「セガサミー」をカジノ経営に参入させることだった。カジノ誘致に積極的な菅官房長官は地元の横浜だけでなく、北海道と沖縄に誘致することを考え、北海道知事選挙と沖縄県知事選挙の応援に駆けつけ、沖縄は野党に敗れたが、北海道では自らが推薦した鈴木道知事を当選に導いた。 

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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