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それでも敗北を認めないトランプとそれでも議員を辞めないアベ

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(558)

睦月某日

 米連邦議会下院は13日、トランプ大統領を弾劾訴追する決議案を賛成232対反対197で可決した。2度弾劾訴追された大統領はトランプが史上初めてである。投票には共和党から10人が賛成に回り、これは上院で行われる弾劾裁判の行方にも影響を与えそうだ。

 共和党上院議員17人が有罪判決に賛成すれば、トランプは米国史上初の弾劾された大統領となる。ただ弾劾裁判はトランプが大統領を退任する1月20日以後になると見られ、大統領でなくなった後の判決なので、大統領を辞めさせる意味はない。

 しかしトランプの行為を裁判で「有罪」にすることは、今回の大統領選挙でトランプがとった行為を将来的に起こさせない効果を生む。また「有罪」になれば、上院は過半数の賛成で、トランプが2024年の大統領選挙に出馬する資格をはく奪することができる。

 それでもトランプは、選挙に不正があったという主張を変えず、従って敗北を認めず、連邦議会を暴徒が占拠した暴力行為は非難するが、自分が扇動した責任も認めないものとみられる。7400万を超える得票数がトランプを支えている。

 その熱狂的なトランプ支持者が、一連の弾劾裁判とそれを主導する民主党、そして「トランプ離れ」を起こした一部の共和党に対し、どう反応するかが見ものである。それによって共和党の立ち位置や進路、また「融和」を訴えるバイデン民主党政権の政策にも影響が現れると思う。

 2021年の世界は、コロナとの戦いに目を奪われているが、年頭に起きた米国議会占拠事件は、民主主義の盟主を自認してきた米国の民主主義が機能不全に陥っていることを我々に見せつけた。コロナとの戦いの裏側では、民主主義の機能低下も進行しているのだ。

 日本では年明けからコロナ感染者数が急増し、メディアはコロナ報道一色になっている。しかも菅総理が「GoTo」に固執していたかと思えば、支持率低下に慌てふためき一転して「GoTo」を停止し、さらに慎重な構えを見せていた緊急事態宣言を知事たちの要請を受けて散発的に出し始めた。

 この受け身のやり方が、いかにもその場しのぎで、更なる支持率低下を招くという悪循環に陥っている。メディアにすれば格好の政権批判の材料となる。そのため連日コロナ報道が繰り広げられる。しかしここまで一色になると、そのために見るべきものが見えなくなっているのではないかという気になる。

 その筆頭が安倍前総理の「桜を見る会」前夜祭問題だ。東京地検特捜部は安倍事務所の公設第一秘書を略式起訴して罰金刑を課したが、当の安倍前総理は不起訴になった。秘書との共謀の証拠がないということである。そして前夜祭問題は安倍前総理が国会での虚偽答弁を修正するだけで幕引きとなった。

 これはまったく承服できない終わり方だ。前にも書いたが、同様の事件である小渕優子事件で東京地検特捜部は強制捜査を行った。小渕事務所の家宅捜索ではデータが入ったハードディスクがドリルで壊されているのが発見された。しかし「桜を見る会」で東京地検特捜部は強制捜査を行っていない。

 公設第一秘書を任意で取り調べ、安倍前総理に対しても任意で一度話を聞いただけだ。しかも安倍前総理の話では、前夜祭への後援会参加を地元で募集していたのは公設第一秘書だが、ホテル側と折衝していたのは東京の資金管理団体「晋和会」の会計責任者だという。

 安倍前総理に虚偽答弁をさせていたのも「晋和会」の会計責任者だ。その人物はかつて公設第一秘書だったが、定年で私設秘書の肩書になった。こちらが「桜を見る会」前夜祭の本命なのだが、どういう訳か東京地検特捜部は本命を調べていない。家宅捜索もやらないで幕引きした。

 要するに虚偽答弁を修正させるためだけの捜査をやったに過ぎない。衆議院の調査局によれば虚偽答弁は118回あったが、それは前夜祭に関係した虚偽答弁の数である。それ以外にも安倍前総理の虚偽答弁を探していけばもっと出てくるはずだ。例えば、あの「森友問題」で有名な「私も妻も関係していたら議員も総理も辞める」という答弁も虚偽であることは明白だ。

 「森友、加計、桜」で繰り広げられた虚偽答弁を丹念に探せば、おそらく桁が一つ違う千の台に乗るのではないか。千に三つしか本当のことを言わない人間を「千三つ」と言って「大ウソつき」の代名詞になるが、国会答弁で嘘をつくことは民主主義を腐らせる行為である。しかしそのことがいかにも軽く見逃されている。

 しかも後援会が主催の前夜祭をホテルが主催したように見せかけて、参加者とホテルが契約の主体であるという嘘を作り出したのが、秘書の進言であるとは到底思えない。仮にそれを秘書から聞いたとしてもおかしいと思わない安倍前総理がおかしい。複数の人間でひねり出した合作の虚偽答弁だと思う。そう思わない東京地検特捜部もおかしい。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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