任命拒否は野党に不信任案を出させて解散に持ち込む策略か?

フーテン老人世直し録(540)

神無月某日

 菅政権が誕生してから間もなく1か月が経つ。「安倍政治の継承」を掲げて総裁選を戦い、圧勝して最高権力者の座を獲得した菅氏だが、当初からフーテンは安倍政治を継承すると見せながら異なる路線を志向すると考えていた。

 派閥を持たない菅氏は自民党の力学から言えばほとんど無力である。最大派閥の細田派(事実上の安倍派)と第二派閥の麻生派を敵に回せば総裁選で勝つことはできない。権力を握るには「安倍政治の継承」を掲げる以外に方法はない。「安倍政治の継承」とはそういう意味だと考えていた。

 権力を握ってから最初の党役員・組閣人事に菅総理の考えが現れた。菅政権を短命で終わらせ、来年の総裁選挙で岸田文雄氏を担ぐ構えを見せる安倍―麻生連合に対し、それをさせまいとする思惑が前面に出たのである。

 菅総理は岸田氏を処遇せず、麻生氏の政敵である武田良太氏を菅政権の目玉政策である携帯電話料金値下げの担当大臣に抜擢した。また麻生派若手の河野太郎氏に行革担当大臣として縦割り撤廃の斬り込み役をやらせ、成果次第では菅総理が河野氏を総理候補に育てる構えも見せた。

 これに麻生氏は怒った。麻生氏は、菅(すが)政権をわざと菅(かん)政権と言い間違え、人事に対する不満を表明した。安倍―麻生連合が菅政権を短命に終わらせるためには選挙をやらせないことが必須だ。

 菅総理の元で選挙をやれば、自民党内の派閥力学が変化する。菅総裁と二階幹事長が公認する選挙では、二階派と菅総理の息のかかった新人が増え、党内の過半数を占める細田派(事実上の安倍派)、麻生派、岸田派の数が減る可能性がある。現状のまま来年の総裁選を迎えたいのが安倍―麻生連合の思惑だ。

 菅政権誕生前から永田町では、新政権誕生直後の臨時国会で解散し、10月25日投開票の衆議院選挙がしきりに言われ、野党もそれに身構えていた。すると解散をさせたくない側の仕掛けが次々に現れる。

 まずコロナのため延期されていた中曽根康弘元総理の合同葬が10月17日に決まった。これで10月25日投開票の選挙はやれないことが確実になる。誰がなぜこの日を決めたのか。

 次は総裁選の最中に出された安倍総理の「談話」である。「敵基地攻撃」を含む安保体制の見直しをまとめろと次期政権に宿題を課した。辞める総理が次期政権にこれをやれと「談話」を出すのは前代未聞だ。国民の不人気になる政策をやらせようとするのは解散・総選挙に対する牽制である。

 そして10月1日に日本学術会議の6人任命拒否が報じられた。勿論、任命権者は菅総理だから任命を拒否した責任は菅総理にある。しかし菅総理は自分が自分の判断で6人拒否を決めたと言わない。誰の判断でどのような基準で6人拒否が決まったのかが判然としない。フーテンはこの問題も解散・総選挙に絡む攻防の中から出てきたと考える。

 日本学術会議が105人の推薦文を政府に提出したのは8月31日、安倍前総理が辞任を表明した3日後だ。すると内閣府は9月2日、内閣法制局に2018年に作成された学術会議法の解釈を内閣法制局に問い合わせて再確認した。そこでは「総理は推薦通りに任命する義務があるとは言えない」と解釈されている。ここまでは安倍政権下の出来事だ。

 そして菅政権が誕生した1週間後に内閣府が起案し、それを28日に菅総理が決裁した。菅総理は記者会見で推薦文は見ていないと発言したが、自分はあまり深く関与していないと言いたかったのだろう。杉田官房副長官が関与して6人拒否が決まり、それを菅総理はそのまま了承した。国民から反発され、野党から攻撃されることを承知のうえで了承した。

 一方でフーテンが注目するのは、菅政権が誕生した翌朝の9月17日、いの一番に会食した相手が選挙プランナーの三浦博史氏だったことだ。菅総理が選挙に並々ならぬ関心を抱いていることが分かる。次の総選挙は自民党の議席が減るのは当たり前、どれだけ減るかが問題である。自民党は2017年の総選挙で安倍チルドレンが大量当選したので水ぶくれ状態なのだ。

 しかし政権交代するほど減るかと言えばそれはないと思う。政権交代は参議院で勝ってからでないと意味がない。参議院で自公が過半数を持っていれば、衆議院選挙で野党が勝っても「ねじれ」ができて政権運営は覚束ない。

 野党は次の参院選で勝つために、衆院選でどこまで与党に肉薄できるかが課題となる。菅総理からすれば数を減らしても責任論が出てこない程度にしなければならない。それより重要なのは自分を短命で終わらせようとする安倍―麻生連合の数をどれだけ減らせるかだ。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。89年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月29日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。日本と世界の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。令和3年12月までの会員を募集中です。

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