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平成の終わりは世界大乱の様相である

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(409)

極月某日

 最近、世界で起きていることを見ると、世界規模での「戦争」が起きつつあるように思える。そしてそれが米国のトランプ大統領を巡る権力闘争に結びついているようでもある。現在、トランプ大統領はこれまでにない窮地に立たされているのではないか。

 フーテンがただならぬ動きを感じたのは10月2日に起きたイスタンブールでのカショギ氏暗殺に始まる。トルコのエルドアン大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子の関与を強くにじませる発表を行い、それをサウジアラビア政府は否定し、同時にトランプ大統領もムハンマド皇太子をかばう姿勢を取り続けた。

 それはトランプ大統領の中東政策に関与している娘婿のジャレッド・クシュナー氏がムハンマド皇太子と強いつながりを持っているためで、仮にムハンマド皇太子が失脚するとトランプの中東政策に狂いが出てくることになる。

 しかしトルコの情報機関が入手した音声記録は諜報世界のルートで米国のCIAも入手し、その音声記録をCIA長官が12月4日に民主、共和両党の上院議員幹部に非公開で聞かせて説明を行った。説明を聞いた上院議員らはカショギ氏関与を確信したという。

 サウジアラビアは米国製兵器を大量に購入し、トランプはその点を強調してサウジアラビアとの関係を維持しようとするが、サウジアラビアがイエメンに対して行っている戦争で飢餓に苦しむ難民が大量に出ていることから深刻な人権問題になっている。

 今後、米国議会がイエメン戦争にどのような姿勢を示すかが注目されるが、進展の具合によってはクシュナー氏追放が画策される可能性がある。また一方でサウジアラビアはロシアに接近し、ロシアから武器を買いつける動きと伝えられ、中東の覇権をめぐる争いは激しさを増す可能性がある。

 11月25日、ロシア軍はクリミア半島沖でウクライナの艦船3隻を攻撃し拿捕した。プーチン大統領は「ウクライナの艦船が停止要請を無視してロシア領海に入った」として「挑発」との見方を示している。このためG20での米ロ首脳会談は中止された。

 トランプ外交は台頭する中国を念頭にロシアとの関係を修復しようとするものだったが、この事件で米ロ関係は難しくなった。プーチンが言うようにこれが「挑発」だとしたら、ウクライナに「挑発」させた背後には米国の反トランプ勢力がいることになる。

 2014年の2月にウクライナで起きた親ロ派のヤヌコビッチ大統領に対する民衆蜂起は背後で米国のネオコンが支援し、これにすぐさま反応したプーチンはロシア系住民の多いクリミア半島を軍事的に制圧してロシア領に編入した。それに対し米国を中心とする国際社会は経済制裁を課して今日に至っている。

 経済制裁を解除させたいロシアが2016年の大統領選挙に介入してトランプ氏を勝たせたというのが「ロシア疑惑」である。11月の中間選挙が終わるとモラー特別検察官による捜査も山場を迎え、大統領の側近3人が司法取引を行って大統領に不利な証言を行ったとみられる。11月末から米国内では「ロシア疑惑」のニュースで持ち切りだ。

 そして極めつけは12月1日に中国の通信機器メーカー華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)孟晩舟氏がカナダで逮捕された事件である。その日はトランプ大統領と中国の習近平国家主席の米中首脳会談が行われ、貿易戦争の「一時休戦」が話し合われたばかりだった。

 この事件が明らかになったのは12月5日である。ボルトン大統領補佐官は事前に逮捕を知っていたと記者団に語ったが、トランプ大統領は知らなかったらしい。つまり対中強硬派が中国との貿易戦争で「落としどころ」を探っていたトランプ大統領の足を掬ったことになる。

 翌6日、カナダのトルドー首相は「米国の要請に応じただけでカナダは関与していない」と説明した。しかし中国は孟氏の逮捕に猛反発、11日にはロイター通信が中国当局がカナダの元外交官を拘束したと伝える。するとカナダの裁判所は孟氏を保釈金1000万カナダドル(8億5000万円)で保釈する決定を行った。

 今後は身柄を米国に引き渡すかどうかが焦点になる。その間に、米国からはファーウェイがイラン制裁に違反し、英国の金融大手を利用して米国の銀行を騙していたとする罪状や。また中国の通信機器大手のファーウェイやZTEが米国の情報を盗み出すスパイウェアを機器に埋め込んでいるとの情報が流れ、米国は同盟国に対しファーウェイとZTEの機器の使用禁止を要求した。

 これに対し英国、オーストラリア、ニュージーランド、日本は使用禁止に応じ、一方でドイツは使用禁止に応じていない。大国としての地位を確保したい中国はこれまでも米国の要求に屈することはせず、制裁を課されれば制裁をやり返す姿勢を見せてきた。従って今後は米国人の身柄拘束や米国の通信機器の不買運動などで反撃する可能性がある。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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