外国人労働者の受け入れ拡大は日本の賃金水準と生産性を押し下げる
フーテン老人世直し録(401)
霜月某日
2日に安倍政権は外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法改正案を閣議決定した。深刻な人手不足に対応するため、これまで認めてこなかった単純労働分野への就労を可能とし、一部には永住の道も開かれるという。
安倍総理は「人手不足は成長の大きな阻害要因になる」と言い、この臨時国会で成立させ、来年4月1日に施行する考えを示した。それを受けてNHKニュースは人手不足で困っている事業者から賛成の声が挙がっていると報道した。
しかしフーテンは外国人労働者を増やせば、日本の賃金水準と生産性を押し下げ、結果として経済成長にはつながらないと考える。安倍総理はアベノミクス第二弾で生産性の向上と賃金上昇を目指すと言いながら、逆のことをやろうとしているのではないだろうか。
2012年に安倍総理がデフレからの脱却を宣言して打ち出したアベノミクスは、異次元の金融緩和を行って円安と株高を実現し、企業と富裕層を潤わせたが、そこまでだった。
米国の経済学者から日本のデフレは人口減少に原因があると指摘された安倍総理は、2015年に「一億総活躍社会」をスローガンにアベノミクスを転換し、少子高齢化に歯止めをかけるため、経済成長と子育て支援と安定した社会保障を目指すと宣言した。
そのためには「成長と分配の好循環」を作り出さなければならない。つまり賃金を上げて消費を促し、消費の底上げによって経済を成長させ、それによってまた賃金が上がるサイクルを作り出すのである。
そこで安倍総理は今年の通常国会を「働き方改革国会」と銘打ち、同一労働同一賃金と高度プロフェショナル制度の導入を抱き合わせで成立させた。これは生産性の高い米国を真似た雇用制度を導入し、生産性を上げる事で賃金も押し上げようというのである。
しかし通常国会では政府が国会に提出した裁量労働制のデータにでたらめが見つかり、また「森友疑惑」で廃棄されたはずの文書が財務省内から出てきたことなどから、働き方改革を巡る議論は充分になされなかった。米国の雇用制度を真似た働き方改革で「成長と分配の好循環」が生まれるのかを議論しないまま終わった。
通常国会終了後、「森友疑惑」で財務省に「借り」を作った安倍総理は、消費増税を表明せざるを得なくなる。経済成長どころか景気が失速しかねない消費増税のマイナス効果を減らすため、安倍政権はその対応に何でもありの状態である。菅官房長官は先月経団連幹部と会談し消費を冷やさないよう来春闘での賃上げ要請を行った。
そこに急に出てきたのが外国人労働者の受け入れ拡大である。急であるから人手不足の実態のデータも、受け入れのための環境整備の構想もないまま今国会で決め、来年4月1日から施行すると言うのだから無茶な話である。
昔から米国の経済界は、人口減少の日本が移民国家にならなければ、投資の対象とは考えないと言ってきたから、フーテンは裏に何があるのかを邪推したくなる。
そしてフーテンは素朴に思うのだが、外国人労働者を増やすことは日本の賃金水準を上昇させず、また人手不足で困っているのは労働集約的で生産性の低い事業者が多いから、それを生き残らせれば日本の生産性は上昇しない。
つまり外国人労働者の受け入れ拡大は、アベノミクス第二弾で目指す「生産性を上げ、賃金を上げて、成長と分配の好循環を作り出す」という目標を阻害する。フーテンは経済の専門家ではないが、米国と日本の仕組みの違いを高度経済成長期から現在まで自分の眼で見てきた。その経験からそう思う。
勿論、日本に外国人労働者の受け入れ拡大が必要な分野はあると思う。しかし精査もせずに拙速で決めれば、取り返しのつかないことになると危惧するのである。なぜそう思うかをフーテンの経験から説明する。
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