北海道の地震報道になぜ違和感を感じるか
フーテン老人世直し録(391)
長月某日
9月6日午前3時8分に北海道で発生した震度7の地震について報道のされ方に違和感を感じている。地震後の対応に陣頭で当たっているはずの北海道知事や北海道電力の会見を目にすることがなく、遠く離れた東京の総理官邸と経産省がもっぱら対応に当たっているかのごとく、安倍総理、菅官房長官、世耕経産大臣らの発言が報道の中心になっているからだ。
災害が起きた時にまず対応に当たるのは地元自治体であり、政府はその支援を行うと思っていたのだが、今回の地震は自治体を超えて政府が対応の主役を演じている。現地のことなど知りもしない連中が自分たちの力で復興を行っているように演技しているのである。
それは今月中に行われる自民党総裁選と沖縄県知事選を意識しているためだという見方がある。自民党総裁選で石破氏の挑戦を圧倒的に粉砕し、沖縄県知事選でも与党候補を勝利に導くためである。それが本当だとすれば災害で得点を稼ぐ究極のポピュリズム政治と言わざるを得ない。
一般的に選挙中に災害が起これば政権与党に有利になると言われる。選挙運動をいったん切り上げ被災地を訪れて支援の約束をするのが一般大衆に支持されるからだ。支援を約束できるのは政権の座にある特権で財源は国民の税金なのだが、一般大衆にはそれが私益より公益を優先したと考えられるのである。
ただし災害で得点を稼ごうとして顰蹙を買ったポピュリズム政治家の例もある。7年前の東日本大震災で当時の菅直人総理が原発事故発生直後に現地を訪れ批判を浴びた。現地で原発の職員が必死の活動を行っている時に総理が現地入りすることは活動の妨げになるだけでプラスにならない。
当時フーテンも菅直人氏には最高権力者の資質がないと断じた。最高権力者は一人しかいないのだから災害の全容を把握しきるまでは決して視点を一か所に集中してはならない。全容を把握した後に災害復興の青写真をもって現地に入り、そこで被災者に希望を与える演説を行う。フーテンが見てきた最高権力者たちはどこの国でもそうした対応を採った。
しかし菅直人氏は原発事故と聞いて居ても立ってもいられなかったのだろう。何も考えずに現地を見に行った。それが権力者足りえない証左である。災害発生と同時に立ち上がり指示を出すリーダーは信用できない。必ず間違いを犯す。じっと考えそれから指示を出すリーダーこそ信用できる。フーテンの長年の取材経験はそう教えてくれている。
ところが今回の北海道地震について官邸は「地震発生1分後の3時9分に対策室を設置した」、「2分後の3時10分には安倍総理が指示を出した」とツイッターに書き込んだ。まさか!日本の総理官邸は地震発生を予知していたのか。でなければ1分後に対策室を設置することなどできない。2分後の午前3時10分に指示を出したという安倍総理も地震を待っていたかのようだ。
そうでなければ官邸のこのツイートは「嘘」である。「3時9分に対策室を設置した」とツイートしたのは午前3時45分で、「3時10分に安倍総理が指示を出した」とツイートしたのは午前4時10分だから、おそらく書き込む直前にしたことを「サバ」を読んで地震発生直後にしたと「嘘」をついたのではないか。
何のために。選挙のためにである。全力で対応に当たっていることを国民にアピールしなければならないと官邸の広報は思った。しかしそこまでやられると、フーテンは別の考えを持つようになる。
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