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新潟県知事選挙の与党勝利で安倍総理が信任された訳ではない

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(375)

水無月某日

 10日に行われた新潟県知事選挙で、自公に担がれた花角英世候補が野党統一候補の池田千賀子氏を破ったことで、安倍総理の自民党総裁3選が確実になったと報じられている。確かに野党統一候補が勝利していれば安倍総理には大打撃となり、自民党内に総裁選挙を巡る政局が起きたことは間違いない。

 しかし新潟の勝利によって国政が安定するかと言えばそうでもない。これで「森友・加計疑惑」が消えてしまう訳ではなく、また激動する世界の構造変化によって安倍外交の力量も問われ続けていく。むしろ国政レベルでは与野党対立が激しさを増していくのである。

 そもそも今回の知事選は、2016年の選挙で野党に担がれ知事に就任したばかりの米山隆一氏が女性スキャンダルを起こして突然辞職したために行われた。そのため当初から与党に有利と見られた選挙である。

 ただ問題は前回の選挙で原発再稼働が選挙争点となり、自公と連合が担いだ賛成派の元長岡市長が6万3千票の大差で米山氏に敗れたことから、原発再稼働を争点にすれば同じ過ちを繰り返す可能性があった。

 従って今回の選挙で自公に担がれた元新潟県副知事の花角英世氏は原発再稼働に慎重な姿勢を見せ、米山前知事の方針を継承すると訴えて原発再稼働を選挙争点から消すことにした。そして国土交通省の官僚だったキャリアを前面に出し、観光振興や交通インフラの整備を進め「人口減少」を食い止めると訴えた。

 これに対して柏崎市職員から市議、県議として地域行政に関わってきた野党統一候補の池田千賀子氏は、原発の地元で生まれ育った経歴から「原発再稼働反対」を前面に打ち出し、また応援に入った野党各党の幹部らは「森友・加計疑惑」で安倍政権批判に力を入れた。

 その結果、自民党が予想したより野党候補に勢いが出る一方、選挙の直前に自民党新潟県連と公明党との間に感情的対立が生まれ、一時は与党の勝利を楽観視することが出来なくなった。そのため公明党とパイプを持つ二階幹事長や菅官房長官が公明党に頭を下げ、自公は徹底した組織固めを行う戦術を取った。

 その結果が3万7千票差での花角氏の勝利である。これをどう読み解くか。各種調査では自民党支持者の7割、公明党支持者の8割が花角氏に投票したというから組織固めは成功した。また原発再稼働反対の無党派層からも支持を得たので争点隠しにも成功した。しかしそのことによって花角知事が原発再稼働に舵を切ることも難しくなった。

 一方で「森友・加計疑惑」という国政レベルの批判より、観光振興や交通インフラの整備による「人口減少」対策に耳を傾ける有権者が多かったのではないかとフーテンは思う。安倍総理や麻生副総理が選挙戦の前面に出る訳ではない地方選挙で「安倍・麻生批判」には距離感がある。やはり地元の振興が第一なのだ。その意味で自公の選挙戦術は成功した。

 そしてこの結果は安倍総理や麻生副総理に対する与党内の力学を変化させるとフーテンは思う。つまりこの選挙は与党の勝利ではあっても安倍総理や麻生副総理の勝利ではない。表では安倍総理の3選を有利にするが、裏では二階幹事長や公明党の力が増すことになる。

 現状で二階幹事長も公明党も安倍総理に疑惑はあっても疑惑は疑惑でしかないから「最高権力者を辞めさせる」とは言えない。安倍総理3選の流れは肯定するが、しかしこの選挙で力が増した分、それは自分たちの許容範囲での3選になる。現状と異なる流れが出てくればそちらに乗り換える可能性は残しておく。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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