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嘘で塗り固めるしかなくなった安倍総理の支持率回復戦略

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(316)

文月某日

 衆参両院で行われた閉会中審査を見て、安倍総理が何のために国会を開かせたのか不思議に思った。疑惑は解消されるどころか膨らむ一方である。そしてこれからの安倍総理は嘘の上に嘘を積み重ねていくしか方法はない。

 「森友問題」が発覚以降「安倍総理が打つ手はことごとく裏目に出た」とフーテンはブログに書いてきたがそれが止まらない。政治には必ずシナリオライターがいて、先の先まで読みながら布石を打っていくものだが、3月以降の安倍政権のシナリオは信じられないほど拙劣なのだ。

 「森友問題」も「加計問題」も安倍総理夫妻の個人領域に関わることから誰もシナリオを書くことが出来ず、安倍総理の意向を「忖度」しながら対応するため一貫したシナリオにならず、「船頭多くして船山に登る」状態にあるのかもしれない。

 あるいは安倍総理の心の中に強気と弱気が混在し、その両極を行きつ戻りつするためにそれが混乱を招いているのかもしれない。そしてここまでくればどちらにせよ安倍総理は嘘で塗り固めていくしかないところに自らを追い込んだ。

 始まりは驚くほど強気だった。昭恵夫人が名誉校長の森友学園経営の小学校が国有地をタダ同然で手に入れた問題が発覚すると、安倍総理は「もし妻や自分や事務所が関係していたら総理も国会議員も辞める」と啖呵を切り、森友学園の前理事長を悪人に仕立てる「しっぽ切り」を企てた。

 フーテンは啖呵にも驚いたが「しっぽ切り」にも驚いた。政治家なら言わないしやらないことを安倍総理はやってのけた。安倍総理の思想信条に共鳴する人間を切り捨てたのは右派内部に確執でもあるのか、それとも「総理も国会議員も辞めざるを得ない」深刻な立場に自分を陥れたと逆恨みしたのか。逆恨みなら政治家としてあまりにも狭量である。

 いずれにしても「しっぽ切り」が何の得になるのかフーテンには理解できなかった。案の定、窮鼠猫を噛むことになり、森友学園側から安倍夫妻との関係を裏付ける事実が次々に明らかにされ、総理が献金していた事実まで暴露された。すると安倍政権は前理事長を証人喚問して逮捕に持ち込もうとする。

 しかし「しっぽ切り」された時点で逮捕を覚悟している前理事長にとって証人喚問は何も怖くない。むしろ喚問は昭恵夫人の秘書が国有地売却に関与した事実を暴露する機会となった。普通の国ならここで安倍総理はアウトである。国会は国政調査権を行使し、また捜査機関も乗り出して事実を明らかにするところである。

 しかしわが国ではそうはならずに問題は第二ラウンドを迎えた。国家戦略特区を使った加計学園の獣医学部新設問題が追及されるとここでも安倍総理は強気である。審査経過には「一点の曇りもない」と胸を張った。

 ところが「総理の意向」で加計学園に決まったことを示す文書や証言が文科省から出てきた。これには伏線がある。森友問題が疑惑の目で見られる重要な要素として財務省の全資料廃棄という信じられない隠蔽工作があり、それは安倍総理を守っているように見えるが、一方で国民に疑惑を抱かせる効果も十分に生み出した。

 官僚は総理を守らなければならない立場だから、嘘をついてでも守るのだが、嘘だとわかる嘘をつくことで国民に疑惑を抱かせる計算をする可能性がある。そしてそこに文科次官を辞任させられたばかりの気骨の人物が出てきた。前川前次官の告発によって「加計ありき」は説得力を持って社会に浸透した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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