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対米従属を永久化する「なんじゃらほい」の改憲論議

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(300)

皐月某日

憲法施行70年に当たる今年、5月1日に安倍総理は憲法改正を目指す超党派議連の大会に出席し、「機は熟した。節目の年に必ずや歴史的一歩を踏み出す」と改憲に強い意欲をみせた。議連事務局によると現職総理が大会に出席したのは初めてだという。

議連会長の中曽根康弘元総理は「現行憲法の70年は、我々に豊かさをもたらしたが、憲法の欠陥とともに様々な問題に直面している」と挨拶した。平和憲法が日本国民にもたらしたのは「平和」というより「経済的繁栄」であるというのがフーテンの年来の主張で、その点では中曽根元総理と認識を同じくする。

戦後日本の「経済的繁栄」は朝鮮戦争の勃発を受けて再軍備を要求した米国に対し、平和憲法を盾にこれを拒否した吉田茂によって端緒を与えられた。日本は同時期に再軍備を受け入れて徴兵制を敷いたドイツとは対照的な道筋をたどる。

日独に共通したのは、米国の外交官ジョージ・ケナンによって編み出された「ソ連封じ込め戦略」により、「反共の防波堤」とされた日本とドイツに米国が大々的な経済支援を与えたことである。敗戦国のドイツはまもなく米国に次ぐ第二位の経済大国となり、次いで日本がドイツを抜き第二位の座に上り詰めた。

しかしドイツと異なり再軍備を受け入れなかった日本は朝鮮戦争に出兵せず、代わりに米軍のため武器弾薬を作る後方支援によって工業国として戦後経済をスタートさせた。それが朝鮮特需とベトナム特需によって高度経済成長を加速させドイツを追い抜く。しかしそれは東西対立の前線で軍事負担を負った韓国や台湾の犠牲の上に成り立っていた。

一方、日本の再軍備に失敗したマッカーサーは国内治安を名目に警察予備隊を作らせたが、それは米軍に訓練を施される事実上の軍隊で、後に自衛隊となるが法制上は国内法に縛られる警察組織である。国際法で行動する軍隊とはまるで性格が異なる。

またマッカーサーは憲法草案の制定過程で二度と日本が米国に歯向かえないよう、9条2項に「戦力不保持」と「交戦権の否定」を盛り込ませ、国家存立のための自然権である自衛権まで認めようとはしなかった。後に自衛権は認められるが軍隊を認めない2項と事実上の軍隊である自衛隊は矛盾する。

中曽根元総理が「憲法の欠陥」と言ったのはそのことだと思うが、冷戦が終焉する直前から米国議会を取材していたフーテンは、平和憲法によって「経済的繁栄」を追求する吉田路線は冷戦の終焉と共に終わりが来ることを予感していた。

平和憲法が施行された時の総理は吉田茂である。その内閣で農林大臣を務めたのは後に社会党左派の理論的支柱となる和田博雄で農地解放に尽力した。その年の施政方針演説で吉田総理は非武装中立の理想を熱心に説いた。

しかし冷戦の始まりと共に米国の姿勢は平和憲法から再軍備路線へと一変する。吉田は米国に従い警察予備隊を創設しながら野党に護憲運動を奨励し、それが冷戦時代の政治構図の基本となる。「55年体制」で社会党は政権獲得より護憲を重視し、自社が水面下で提携して米国に抵抗した。軍事負担の最小化は経済成長に貢献し日本は豊かになった。

一方で米国は日本の平和憲法を変えさせようとしたこともあるが、軍事で米国に全面依存する体制は永久に日本を従属させることを可能にする。冷戦が終わり反共の防波堤が必要なくなれば、日米安保体制は日本を豊かにするよりそれを梃子に日本から米国への富の移転を可能にする。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:5月26日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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