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インタビュー渡會将士②「ツッコミどころ満載の“写真はイメージです”という言葉」にツッコむ新作が話題

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/Yuka Kikuchi

前編】から続く

「“写真はイメージです”という言葉から想像を広げていくと、何ともいえないおかしな世界が広がっているなって」

そして2024年。アニバーサリーイヤーとして新たな一歩を踏み出そうと、元旦から楽曲制作に打ち込んでいたところに能登半島地震が発生し、流れてくるニュースを見て大きなショックを受けたという。

「東日本大震災の時もそうでしたが、こんな時に何を歌ったらいいんだろう、どんなメッセージを伝えればいいんだろうって、曲を作る手が止まってしまいました。そんな時、目の前にあったパックのアイスコーヒーの裏面の、コーヒー豆やドリップしている4点の写真が目に入ってきて。その全てに“写真はイメージです”って書いてありました。何をそんなに恐れているんだろうって思って、それまで地震のこととかで頭がいっぱいだったのに、それを見た瞬間なんて滑稽なんだろうと思えて。同時になぜその文言をわざわざつけてまで、写真を載せなければいけないんだろうとか、クレームを入れる人がいるのかとか、色々考えました。自分も毒されているかもしれないけど、世の中ルッキズムだらけで、“写真はイメージです”という言葉から想像を広げていくと、何ともいえないおかしな世界が広がっているなって思いました」。

「人は誰でも信じたいものしか信じないし、そうじゃないものは調べようとしない。これがルッキズムにつながるのでは?」

Photo/Yuka Kikuchi
Photo/Yuka Kikuchi

確かに商品にもテレビにもネットにも“写真はイメージです”というどこか捉えどころがない言葉が溢れている。現代社会のおかしさを、端的に表している。

「ある意味自分が抱えてる問題や悩みを忘れさせてくれるほど、ツッコミどころ満載の言葉だと思います。この曲を聴くことによって想像を楽しむことができると思うし、それによって何か嫌なこととかを少しでも忘れられる時間に、遊びのような時間になったらいいなって。この言葉をきっかけに、他のありとあらゆる説明文も全部面白おかしく思えてきて、その時観ていた映画やドラマに出てくる『実際の人物・団体とは一切関係ありません』ということわりが出てきて、視聴者は意外とリアルとドラマの境界って曖昧だったりするのかなって考えてしまったり…。人って誰しも自分が没入したい、信じたいものしか信じないみたいなところってあるじゃないですか。だから信じ切ったまま調べようとしない。これがルッキズムにつながるのか、と再認識しました」。

「だから自分自身もこういう仕事をしていて、すごく勝手なイメージ持たれてるときもあるし、でもそこは諦め半分で受け入れてるというか、なるほどなと思うようにしています。brainchild’sでEMMAさんと一緒にいると、EMMAさんは日本を代表するロックバンドのスーパーギタリストなので、色々なイメージを勝手に持たれていたりする訳で、でもEMMAさんはそれを逆に演じてあげようしているところもあって、すごく勉強になります。自分にはできないですけど(笑)」。

「“写真はイメージです”は言い換えると“知らんけど”みたいな言葉」

「写真はイメージです」のMVも“正体不明”の不思議な世界観が広がっている。まさにこの曲のサビの<写真はイメージです ※幻を追いかけるな ってこと>ということを伝えている。

「今の人達は、生まれたときからスマートフォンがある世代で、自分の写真を加工するのは当たり前だったり、ひとり一個自分のアバター持っているような状況じゃないですか。それがネット上で出会って、実際にお会いしましょうってなった時に、全然写真と違うじゃん、みたいなことにならないのかが不思議で。“写真はイメージです”という言葉を言い換えると『知らんけど』のように、歌詞全体でこの言葉を色々な形で翻訳し直している感じです。MVもそうです」。

「写真はイメージです」と通底している「ほつれゆくニット」

ひと言ひと言が強い歌詞、アタックが強い歌、でもどこか情緒も感じさえてくれる。だからシニカルなことを歌っていても切なさが浮かび上がってくる。もう一曲の「ほつれゆくニット」もタイトルに想像力を掻き立てられ、解放されるような感覚を覚える歌詞が心に響く。

「歩いている時に浮かんでメモしていたタイトルです。元旦の地震で何となく自分が背負い込んでしまったものを、だんだん抜いていくという感じの中で、それがまるでニットがほつれるみたいだなっていう感覚があって。あとは家族間のルールというか暗黙の了解だったものが、実は変だったことに大人になって気づいたり、その人が長年思い込んでいたことが、他人から見るとそうじゃなかったり、そういうことが身の周りでいくつかあって、この言葉がピッタリだなって思いました。『写真はイメージです』という曲とも通底している感じがしました」。

「写真はイメージです」(4月24日発売)
「写真はイメージです」(4月24日発売)

「今回の2曲は、やっぱり言葉をメロディに乗せて届けるということが、自分の曲の根幹にあるということを再確認できたので、曲先でいいメロディを作ることや、かっこいい演奏も大切だけど、やっぱり言葉を伝えるために、後からメロディをつけるやり方も大事なんだなって。『ほつれゆくニット』は、もちろん日本語として伝わりやすいようにと思って歌っていますが、グルーヴ自体はソウルやヒップホップの要素を混ぜています」

2曲共ライヴで聴くと、さらに破壊力を増して伝わってきそうだ。

「2024年は皆さんのところにこれまで以上に積極的に会いに行きたい」

3月23日梅田シャングリラ(Photo/Maco Hayashi)
3月23日梅田シャングリラ(Photo/Maco Hayashi)

今年もいつもの年にも増して精力的にライヴを行なっていく。3月に春のツアーを東名阪で行ない、4月28日は「ARABAKI ROCK FEST.24」への出演も決定している。インストアライヴも積極的に行ない、聴き手にどんどん会いに行っている。

「去年仙台でフリーライブをやった時、たくさんの人が集まってくれて、遠くの陸橋の上からもずっと観てくれている人もいて、それがすごくいいなって思って。物価も上がって生活もなかなか大変な昨今なので、ライヴもまず最初の一歩を踏み出してもらわないことにはどうにもならないので、逆にこちらから伺って、インストアライヴやフリーライヴでまずは観てもらうことが大事だと思いました」

「20年で培ってきたものをちゃんと核心として認めた上で、これからも面白いことをどんどんやっていきたい」

3月23日梅田シャングリラ(Photo/Maco Hayashi)
3月23日梅田シャングリラ(Photo/Maco Hayashi)

まだ渡會将士の音楽を知らない人に届け、ずっと応援してくれている人とは、もっと近い距離でコミュニケーションをとることが、2024年の大きなテーマになる。聴き手と想いを交わす場所、時間としてのライヴを大切にしたいと改めて思った。

「音源を作ることとライヴがどこかで重なっていて、それを擦り合わせることがすごく大切だと思います。ライヴで再現できない曲を作っても仕方ないし、ライヴで想像より化ける曲もある。ライヴにこういう曲が必要だから作らなければとか、曲の制作と全く関係ないライヴだけのアレンジを考えたり、二つはどこまでも重なっているべきです。お客さんと曲とライヴという三つの要素が重なった瞬間、アーティストもお客さんも、得も言われぬ感動のようなものが湧いてくるのかもしれません。言葉を交わさずとも“交感”できた時の喜びがライヴの醍醐味だと思うので、今年はライヴを積極的にやって、そうすることでまた新たな発見があると思うし、それを手にまたその先に進みたいです。20年で培ってきたものをちゃんと核心として認めた上で、面白いことをどんどんやっていきたいです」。

渡會将士オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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