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天童よしみ 憧れのライヴ番組で音楽職人達と名曲をセッション。「歌う喜びや表現の仕方が一層広がった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

4人のアレンジャー、豪華ミュージシャンとセッション

日本の音楽シーンを牽引するアレンジャーが、一夜限りのアレンジを作り上げ豪華ミュージシャンとアーティストがセッションする、生演奏にこだわるライヴ番組『Sound Inn S』(BS-TBS)。4月20日(土)の放送には天童よしみが登場。

演歌一筋52年の天童がこの日は演歌を封印。ジャンルを超えていちシンガーとして大切な歌、大好きな歌を4人のアレンジャー、スーパーバンドと共にセッション。本分は演歌だが、これまで様々な歌にチャレンジし続けてきた50年を超えるキャリアが紡いだ、天童よしみというシンガーの物語が歌に表れていた。

尊敬する美空ひばりもカバーしたジャズのスタンダードナンバー「Lover, Come Back To Me」を、坂本昌之のアレンジで歌う

「毎週欠かさず観ています」と、この番組のファンだという天童はセッションを心から楽しんでいた。一曲目はパティ・ペイジやビリー・ホリディ、ナット・キング・コール等がカバーし、日本でも天童が尊敬する美空ひばりをはじめ、江利チエミやフランク永井等がカバーしたジャズのスタンダードナンバー「Lover, Come Back To Me(恋人よ我に帰れ)」(1928年)。アレンジは坂本昌之。11人のブラスセクションを含むビッグバンドが奏でる疾走感あるサウンドに乗り、スウィングする天童。

「美空ひばりさんのジャズの世界に憧れてずっと聴いてきました。それまで歌謡曲、演歌を歌ってきたひばりさんが突然ジャズナンバーを歌った時のリズムと発声法に衝撃を受けました」と、尊敬する美空ひばりのジャズアルバムに収録されているこの曲を「演歌(の歌い方)が出そうだったけど封印して、よく動きました(笑)」と、ノリノリで披露した。哀しい歌詞を軽快に歌うとことでより切なさが伝わってくるようだ。

「聴いている人の幸せ度数を上げてくださる素晴らしいエンターテイナー」(坂本)

坂本昌之
坂本昌之

天童の歌についてアレンジを手がけた坂本は「歌手というより“THE 天童さん”という感じで、聴いている人の幸せ度数を上げてくださる素晴らしいエンターテイナーです。その引力というかパワー、もの凄いエネルギーを感じさせてくれる方です。一緒にセッションさせていただいて、ただただ楽しかったです」と語っていた。

大阪府八尾市出身の天童は、子供の頃から「のど自慢あらし」として有名で、天才少女と呼ばれ、その歌唱力が注目されデビュー前にはアニメ『いなかっぺ大将』の主題歌「大ちゃん数え唄」を本名名義で発表。1972年14歳の時にテレビの歌謡選手権で10週勝ち抜き、最年少でチャンピオンになり本格デビューを果たす。当時のキャッチフレーズは「恐るべき天才少女」。華々しいデビューを飾ったが当時はポップス全盛で、2曲目以降思うように売れなかった。

心の支えになった美空ひばりの言葉

77年、一旦大阪に戻るという挫折を味わう。そんな時心の支えになったのが、美空ひばりからの言葉だったという。「『あなたは若いしもっと色々な歌を吸収しなさい。ひとつに固まらないでもっと色々な音楽を聴いて、好きになりなさい。そうしたら愛情を込めて歌えるようになるから。今はまだ与えられた曲をこなしている段階かもしれないけど、自分がこの歌を歌いたいと思う時が来ると思うから』とひばりさんにおっしゃっていただけて、音楽ってもっと楽しむものだし、自分が楽しめないとお客様も楽しめないのよっていうことを教えてくださいました」。

同郷のアレンジャー・本間昭光と「また逢う日まで」をセッション

同郷のアレンジャー・本間昭光のアレンジで歌ったのは、天童が「パンチがあって、でもその中に哀感みたいなものがあって、ポップスの中で大好きな曲」という「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)だ。

本間昭光
本間昭光

「また逢う日まで」は「名曲中の名曲だけに、あまり複雑なことをやるよりもシンプルなアレンジの方が楽曲の良さも天童さんの声の良さも際立つと思いました。天童さんのキーに合わせてストリングスを少し煌びやかにしました」(本間)というように、14人のストリングスとハープが参加したバンドが、ゴージャスかつ煌びやかなサウンドを構築。圧巻の歌が広がっていく。

大好きな沢田研二の「時の過ぎゆくままに」を冨田恵一のアレンジで披露

3曲目は天童が大ファンだという沢田研二の「時の過ぎゆくままに」を冨田恵一のアレンジで披露。「部屋中ジュリーのポスターを貼っていました。この曲はイントロのカッコ良さからもうジュリー。リズムの変化といい気だるさといい、その妖艶な感じが好きで、私の歌の世界には全くない部分です。この曲を歌うことで自分の中で発見もありました」と、沢田研二への、この曲への愛が止まらない。

冨田恵一
冨田恵一

冨田は「最初はブルージーなアプローチにしようと思ったのですが、だんだんゴスペルの方に寄っていきました。そんなフィーリングの中で天童さんの存在感のある歌がど真ん中にあったらカッコいいと思いました」と語っているように、ツインギターが炸裂し、美しくクールなストリングスが彩りを与えるサウンドを作りあげ、それをバックにソウルフルに歌い上げた天童は「本当にカッコいいアレンジで夢心地でした」と感激していた。

冨田は「ファンである沢田研二さんのフィーリングを内包しながら、天童さんの歌になっているところが素晴らしいです。譜面づらだけで歌っている感じではなく、サウンドの動きや響きを敏感に感じて自由自在に歌ってくれました」と、その深く豊かな歌を絶賛していた。

沢田研二「コバルトの季節の中で」は、原曲のアレンジを手がけた船山基紀が天童のために48年振りにリアレンジ

船山基紀
船山基紀

4曲目は同じく沢田研二の「コバルトの季節の中で」を、船山基紀のアレンジで披露した。船山はこの曲のオリジナルアレンジを手がけていて、この日48年振りにリアレンジ。天童はこの曲について「ロマンチックで夢のある、とても好きな歌なんです。原曲のアレンジを手がけた船山さんのアレンジで今日歌えるなんて、感激です」と語り、本番に臨んだ。「原曲は少しフォーク調でしたが、天童さんが歌うということで、もうちょっとエネルギッシュなものにしたいと思い、ギターを厚くしてロック色が強いサウンドにしました」と、ギターとストリングスがドライブする新しい「コバルト~」を、天童はパワフルかつ繊細に、愛おしそうに歌っていた。

「4人のアレンジャーの方が歌の世界をもっと広げてくれ、私も新しい世界に連れていってもらいました」

全てのセッションを終えた天童は「この番組は音楽そのものを広げ、そして歌手にとっての見せ場なんです。今日も4人のアレンジャーの方が歌の世界をもっと広げ、私も新しい世界に連れていってもらいました。チャレンジでしたが夢のようなひとときでした」と、目を輝かせながら興奮気味に語っていた。演歌はもちろん、ジャズ、ロック、ポップス、クラシック系のメロディ、ジャンルレスな音楽を“天童よしみの歌”として届け、多くの人の心を潤す“ザ・シンガー”としての現在地を、鮮やかに映し出している。

天童よしみのパフォーマンスが楽しめる『Sound Inn S』は4月20日(土)、BS-TBS(18時30分~)で放送される。またTVerで見逃し配信される(配信期間4/21(日)12:00~5/5(日) 12:00)。

『Sound Inn S』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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