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服部隆之インタビュー・後編 祖父・服部良一と“ブギ”を語る。「ブギという言葉が持つマジックがある」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/木村辰郎

前編】から続く

「『ラッパと娘』は、趣里さんの歌とパフォーマンスの、その圧倒的な熱量を少しも逃すことなく伝えることができた名シーン」

『福来スズ子傑作集』(12月13日発売) 福来スズ子(趣里)が歌う笠置シヅ子のカバー曲『東京ブギウギ』『ラパと娘』等6曲収録。話題になった「大空の弟」もブギウギ ver.として初CD化&配信リリース
『福来スズ子傑作集』(12月13日発売) 福来スズ子(趣里)が歌う笠置シヅ子のカバー曲『東京ブギウギ』『ラパと娘』等6曲収録。話題になった「大空の弟」もブギウギ ver.として初CD化&配信リリース

――テレビで趣里さんのパフォーマンスを観てどう感じていらっしゃいますか?

服部 本当に素晴らしいです。特に「ラッパと娘」を歌うシーン(第30話)は凄かったです。あれだけ踊って息も切らさず歌うので、リップシンクということはわかっているはずなのに、ライヴを観たような感動があったと、スタッフの方にプロのミキサーの方から興奮した様子で連絡があったそうです。趣里さんの熱意と、録音した時の彼女の熱量ある歌が画面からキチンと出ていたということです。3分6秒のフル尺で、彼女の歌、パフォーマンスもパワーを少しも逃すことなく伝えることができたことが勝因ではないでしょうか。

ブギはダンスミュージック

――若い世代の方は「ブギ」ってなんだろうって思っている人が多いと思います。中納さんは「ハッピー☆ブギ」について「ブギですがポップなのでとにかく楽しく歌わせていただきました」、さかいさんは「ブギのメロディだけど昔のそれとは違うハイブリッドなブギ」と語っています。

服部 そうですよね、若い方達だけではなく多くの人がブギって何だろうって思っていると思います。例えば昭和世代であればダウンタウン・ブギウギ・バンドや南佳孝さんの「スローなブギにしてくれ」という曲でブギという言葉を耳にしていますが、でもダウンタウン・ブギウギ・バンドはロックだし「スローなブギにしてくれ」は三連のバラードのような曲で、音楽的にブキを取り入れているわけではないんですよね。アース・ウインド&ファイアーの「ブギー・ワンダーランド」もそう。あの曲も正確にいうとブギじゃない。だからブギはダンスミュージックということしか言えなくて、音楽的に細かいことをいえば色々あるんですけど、でもやっぱりブギウギという言葉が持っているマジックがあると思います。それを<何(なん)なの この リズム><魔法の言葉><体が自然に動き出す><ブギは希望のエナジー!>という「ハッピー☆ブギ」の歌詞にしました。ブギという言葉の響きを聞くだけで、ちょっと聴いてみたくなったり、どこかワクワク感があると思います。

ジャズとブギの関係

――調べたところによると、ブギはアメリカ南部のブルースから派生した躍動感あふれる音楽で、服部良ーさんがそれを取り入れた高揚感あるリズムと、底抜けに明るいメロディを作り出して、当時それはあまりに新鮮で斬新だった、と。隆之さんがおっしゃるようにダンスミュージックで、服部良一さんの自叙伝『ぼくの音楽人生』(日本文芸社刊)によると、当時は「ダンスミュージック」の総称が「ジャズ」だったようですね。そして「ジャズは楽しくなければいけない」とおっしゃっています。

服部 ジャズとブギは似ているものだと思います。昔はグレン・ミラー楽団の演奏でみんな踊っていたわけで、そのビッグバンドジャズの中にはブギのサウンドが結構あって、楽しく踊れて、そこにいる全ての人を陽気にするという部分では、ジャズもその一端を担っていたということだと思います。

「祖父は入手先は不明ですが、戦前にブギウギのスコアを手に入れていました。戦後、日本人を元気づけるタイミングで、数々のブギを世に送り出しています」

Photo/oyaming
Photo/oyaming

――服部良一さんは著書の中で「ジャズっていう言葉を聞くと、ジャズっていう言葉の響きだけでトランペットとかクラリネット、ピアノ、サックス、ドラムの混在したホットな音が聞こえてくる」とおっしゃっています。

服部 ジャズって、ともするとマニアックな音楽、紳士が聴くものと思われがちですが、元々は楽しいダンスミュージックだったんですよね。祖父は特に“リズム”というものに拘っていたようです。サンバ、タンゴ、ボレロ、洋楽から色々なリズムを選択して曲を作っていました。このリズムはウケるか、カッコよく思ってもらえるかを常に考えていたようです。入手先は不明ですが、戦前にブギウギのスコア(楽譜)を手に入れて、それを色々なところで試してみて、戦後、みんなを元気づけるタイミングでブギを世に送り出しています。そういう策略家の部分があったし、音楽に対する姿勢の強さや野心は父(克久)と僕にはないもので、そこは全然受け継がれてないです(笑)。晩年の優しい祖父のイメージしかないので、色々調べたり話を聞くにつれ、そんなアグレッシブなキャラクターだったことに驚きました。初代のパワーは凄いです(笑)。でも祖父のスコアを見ると音楽に対する並々ならぬ熱量は伝わってきます。

「祖父のスコアとここまで深く向き合ったのは初めて。色々な発見がありいい機会になった」

――今回劇伴を作るにあたって、良一さんのスコアと深く向き合ったと思います。その印象は?

服部 考えてみると、祖父のスコアとここまで深く向き合ったの初めてで、色々な発見があっていい機会になりました。とにかく緻密なんです。今回劇伴として作るにあたって、当時のスコアなので結構直しを入れなければいけないんだろうなって、覚悟して祖父のスコアを見てみたら、細かくしっかり書き込まれていて。例えばピアノのパートも今僕らはコードネームで済ませてしまうところを、左手はこう、右手はこうやって弾いて欲しいと全部指示していました。あれは当時のミュージシャンは大変だったと思います(笑)。なので今回はどの曲も85%いじる必要がなかったです。BPMを変えたり、今聴いてくれる人の気分があがるように少し加筆したり、修復作業というか100年前の画像が現代の技術でカラー仕立てになるのと同じような作業だと思います。

「『東京ブギウギ』は当時、まず劇場で演奏して、お客さんの反応を見ながら少しずつエンディングを変えてからレコーディングしています」

――当時は曲ができあがったらまず劇場で披露して、お客さんの反応を見て修正し最終的的にレコーディングに臨んでいたそうですが、ある意味理想的な音楽の作り方ですよね。

服部 そうなんです。ミュージシャンにもかなりこだわっていたようです。「東京ブギウギ」も劇場での初演からどんどん変わっていったみたいで、これは父から聞いたのですがお客さんの反応を見て少しずつエンディングを変えていったようで、それでレコーディングに臨むって最高ですよね。「東京ブギウギ」のレコーディングには米軍関係者も詰めかけて公開録音のようになったそうで、その時に米軍の人に「日本でこんなにまともなブギウギをやっている人がいるなんて」と言われ、祖父は「俺がやってきたことは間違いじゃなかった」と勇気付けられたそうです。

――今回劇伴は何曲手がけることになるのでしょうか?

『連続テレビ小説「ブギウギ」オリジナル・サウンドトラックVol.1』(12月20日発売) 主題歌「ハッピー☆ブギ」のインストバージョンやドラマの重要なシーンを彩るBGMなど29曲が収録
『連続テレビ小説「ブギウギ」オリジナル・サウンドトラックVol.1』(12月20日発売) 主題歌「ハッピー☆ブギ」のインストバージョンやドラマの重要なシーンを彩るBGMなど29曲が収録

服部 100曲です。なのでまだ1月までレコーディングが続きます。まず12月20日にオリジナル・サウンドトラックVol.1(29曲)が発売されましたが、これも続きます。

「祖父の誕生日の翌日にドラマがスタートし、笠置シヅ子さんの命日の翌日が最終回。このドラマは二人に見守られていると思う」

――今回のドラマ、服部家の方々はどんな思いで観ているのでしょうか。

服部 今回ドラマが始まったのが10月2日、祖父の誕生日の翌日で、ドラマの最終回の翌日が笠置シヅ子さんの命日なんです。なのでみんなでこのドラマは二人に見守られているね、と喜んでいます。個人的にはカツオ(服部克久)が登場した時は、父が帰ってきたような不思議な感覚になりました。羽鳥善一さん(服部良一)の家のことにどうしても触れるわけで、福来(笠置)さんが何回も訪れてくれるし、しかも福来さんは戦後2ヶ月くらい居候していたのでどうしてもシンパシーが湧いてしまいます。おばあちゃん(市川実和子)あんなに綺麗じゃないよなとか、あんなに背高くないよなとか思いながらも(笑)、ただあの夫婦関係はああいう感じだったんだろうなって納得できるとか、とにかく全員で楽しませていただいています。

※服部隆之氏の「隆」は、「生」の上に横棒が入る旧字体が正しい表記です。

連続テレビ小説『ブギウギ』オフィシャルサイト

日本コロムビア『ハッピー☆ブギ』スペシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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