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小室哲哉インタビュー・後編 TM40周年、ソロ35周年、ガンダムを語る「埋もれない音楽を作り続ける」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ(ライヴ写真以外)

前編】から続く

「40周年のスタートをまず『シティーハンター』とエンターテインメントできたのは、来年に向けての助走にもなった」

先日終了した全国ツアー『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~』は、映画『シティーハンター』とリンクしたプロダクツで、TMが『CAROL』(88年)で仕掛けたアルバム、書籍、ライヴのメディアミックスに近いものが、今回も実現した。映画が先かライヴが先か、楽しみ方が広がる仕掛けをメンバーもファンも楽しんだ。

「ライヴ会場に足を踏み入れた瞬間から『シティーハンター』の世界観が展開されていたので、没入感があったと思います。今回は『シティーハンター』があったおかげで、いい意味で少しだけ楽でした(笑)。新宿=“街”をコンセプトにしようというアイディアや、こういう映像にしようとか、一曲目は『Whatever Comes』でしょとか、どんどん決まっていって、そういう意味で楽でした。40周年のスタートをまず『シティーハンター』とエンターテインメントできたのは、来年に向けての助走にもなったし、『Get Wild』以外のTMのヒット曲をやらない2時間というのも新鮮でした。それも終わってしまって、今は冴羽瞭というすごく仲のいい友達というか、頼りがいのあるナイスガイを失った感じでちょっと淋しいです(笑)」。

『Whatever ComesBlack』(Vinyl LP アビーロードカッティング/12月6日発売)
『Whatever ComesBlack』(Vinyl LP アビーロードカッティング/12月6日発売)

「Angie」(12月6日配信)
「Angie」(12月6日配信)

12月6日には「Angie」を配信リリース。同時に『Whatever Comes』をアナログレコード(9月発売の同タイトルCD収録曲をベースにした7曲入り12インチ(完全生産限定)盤)でリリースし、プロダクツを締めくくった。

「余韻に浸っていただいて、冴羽獠にはしばらく休んでもらってって感じです(笑)」。

「TMは40周年をやり切った先に何かが見えてくるのかもしれない」

Photo/Kazuyuki Sanada
Photo/Kazuyuki Sanada

宇都宮隆(Photo/Makiko Takada )
宇都宮隆(Photo/Makiko Takada )

木根尚登(Photo/Makiko Takada)
木根尚登(Photo/Makiko Takada)

TM NETWORKは2024年1月18日より全国ツアー『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~STAND 3 FINAL~』(全7会場9公演)を開催し、デビュー(1984年4月21日)40周年に向けて進んでいく。同時に小室がソロ35周年を迎える。小室哲哉という音楽家に改めて光が当たりそうだ。

小室哲哉(Photo/Kazuyuki Sanada)
小室哲哉(Photo/Kazuyuki Sanada)

「来年は40年間を出し惜しみしないヒット曲集のようなライヴをやって、やりきった方がいいのかなって思っています。最近40周年の先は?ということをインタビューで聞かれることもありますが、3人共普通に『え!』って言っちゃうくらい何も考えていなくて。怖さもありますけど、それこそやりきった先に何かが見えてくるのかもしれません。僕もソロ35周年なんですが、僕が90年代にプロデュースしたアーティストが、来年から次々と30周年を迎えます。また僕が作った音楽を皆さんに聴いていただける機会になると思うので嬉しいです」。

Photo/Kazuyuki Sanada
Photo/Kazuyuki Sanada

2024年1月公開の劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の主題歌「FREEDOM」を手がけ、再びガンダムの世界と向き合う

そんな記念すべき2024年の幕開けはTMのツアーと共に、1月26日公開の劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の主題歌「FREEDOM」を、小室が手がけ西川貴教が歌うというビッグプロジェクトにも注目だ。これまでアニメ『機動戦士ガンダムSEED』シリーズのオープニングテーマを担当してきた西川と、TM NETWORKとして、1988年に劇場公開された『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」を手がけた小室が初タッグ。西川貴教 with t.komuro として、西川がリスペクトする小室がプロデュースする。

「想像していなかったお仕事なので、お話をいただいた時はビックリしました。ガンダムの世界のスケール感と奥深さを改めて感じながら向き合いました。曲はもちろん、特に歌詞はガンダムファンの方にも納得していただけるように、渾身の力で制作に臨みました。日本のアニメが世界的に成功しているその一因として、普遍的な愛を露骨に示さないで、観念的に表現していくという形が全世界、全世代の人々の捉え方と合致していると思います。その人の判断という感覚で理解してもらう、という見せ方が大きな支持を得ている要因だと思っていて。ガンダムもそうで、単なる戦闘ものではなく、つまるところは愛なんだろうと思わせてくれるけど、それも明確に示しているわけではなくて。それは人類愛かも、LOVEかも、師弟愛かもしれない。様々な愛が包括されて作られているので、歌詞の中では少なくとも勝ち負けを描く必要はないな、と。勝ちも負けもないという無情な世界を目指しました」。

「西川君には、単位のわからないほどの距離まで届けるつもりで歌ってもらいました」

その上で、西川貴教という存在、スケール感のあるボーカルを重ねながら言葉とメロディを紡いでいった。

「西川君のあの全身を使って歌う歌。まるで吠えるようなというか、人が追い込まれてもうこれ以上後がない時、危機迫る時にどうやって自分を表現するかというと、やっぱり声だと思っていて。雄叫びじゃないですけど、シャウトするというか。それを西川君にやってもらおうと思って、何万キロ、何億キロという単位のわからない距離まで届けるような歌を歌ってもらいました。自分の存在を届かせる、そういうイメージで歌ってもらえる曲はどんな感じだろう、そのための言葉はどんな言葉だろうということを考えて作りました」。

「毎日膨大な数の音楽が生まれ、聴かれている。そこに埋もれない音楽を作り続けるしかない」

世界中に熱狂的なファンを持つ『ガンダム』で、小室メロディを改めて世界に届ける。「Angie」 という曲を作ったことで、音楽家としての次のステージを予感させてくれた小室哲哉は、これからどこに向かおうとしているのだろうか。

「今の若い世代のミュージシャンは、マーケットを国内に拘らなくても、ボーダレスにワールドワイドに世界に向けてすぐに音楽を発信することができて、羨ましいなと思うこともあります。80年代や90年代には考えられなかったけど、でも僕より上の世代のアーティスト、例えばシンセサイザー奏者の冨田勲さんは、アメリカのレーベルのA&Rが『こいついいな』と思って、アメリカでヒットさせました。当時そういう人に目を付けられる日本人アーティストっていないし、強運の持ち主だったかもしれないけど、やっぱり色々な作品を出し続けてきて、それが海の向こうのレコードマンの目と耳に留まったわけで」。

「世界中の人に聴いてもらうためには、いい作品を作り続け、出し続けるという準備を怠ってはいけない」

「でも今はその道筋というかマニュアルみたいなものはあると思うし、どうやればいいのかというのは、それこそネットやAIが教えてくれる時代です。サプライズハプニングのようなことが期せずして起こるかもしれないけど、でもそこに巡り合うためには、やっぱりいい作品を作り続け、出し続けるという準備が必要です。作品がないとそういうことも起きないので、そういう意味では今回のようにアニメーションと一緒に、音楽が海外の人の耳に触れるチャンスなので、この音楽作ったやつ誰だ?というインパクトを与えたいです。そのきっかけを作る楽曲をいつもどこかに残しておかないと、気がついてもらえません。毎日膨大な数の音楽が生まれ、聴かれて、そこで埋もれない音楽を作り続けるしかない」。

稀代のメロディメーカーが考える“普遍性”とは

「Get Wild」を始めとして、TMの楽曲、他のアーティストに提供した小室哲哉が作る音楽は、圧倒的な“普遍性”を湛えていると思うが、いつも何十年先も聴いてもらえる曲を、という意識で曲作りに臨んでいるのだろうか?稀代のメロディメーカーが考える普遍性とは?

「どの曲にも普遍性を求めるのではなく、曲の役目としての理想は、その音が聴こえてくると、その時代の風景や空気がパッと浮かんでくること。だからよくも悪くも流行り歌、その年を代表するような役目の曲だなこれは、という曲があってもいいんです。『Get Wild』は、あらゆる人の心象風景みたいのものを描いたタイプの曲とは違って、聴いた人がそれぞれの感じ方、受け止め方をする曲だと思うので、だから色々な人の日常に入り込めているのではないでしょうか」。

「otonano」TM NETWORKスペシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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