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小室哲哉インタビュー・前編『シティーハンター』とリンクした今年を回想。新名曲「Angie」制作秘話

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

40周年に向け動き出したTM NETWORKと、映画『シティーハンター』がリンク。新たなにオープニングテーマを手がける。

Photo/Kazuyuki Sanada
Photo/Kazuyuki Sanada

2024年に40周年を迎えるTM NETWORK。アニバーサリーイヤーに突入した2023年は『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』(以下、映画『シティーハンター』) と共に駆け抜けたといっても過言ではない。メディアミックスの真骨頂というべき全国ツアー『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~DEVOTION~』は映画の公開と並行して開催され、“街”をテーマにファンが開場時から『シティーハンター』とリンクする世界観に没入できるような演出にした。

11月30日に東京国際フォーラムホールAでのファイナル公演を終えたばかりの小室哲哉にインタビューし、今年のTM NETWORKと映画『シティーハンター』とのリンクから生まれた、新たなプロダクツが放った“熱”と、自身のクリエイティブを振り返ってもらった。さらに来年のTM NETWORK(以下TM)の40周年の展望を聞かせてもらった。

「オープニング曲『Whatever Comes』は明るくて、対になる『Get Wild』と同じくらい熱量が高いものを目指した」

「昨年の12月に映画『シティーハンター』製作委員会から、『来年映画あります、エンディングに『Get Wild』を使わせていただきます、ついてはオープニングテーマもやっていただけないでしょうか』というお話をいただいたので、一年間ずっと『シティーハンター』と走ってきたという感じです」。

『シティーハンター』といえば「Get Wild」というイメージができあがっている中で、新たにオープニングテーマのオファー。「Whatever Comes」は冒頭のギターサウンドがまさに飛び込んで来て、壮大な空気で物語へといざなってくれる。「Get Wild」と対になるわけだが、どんな思いを込めて作ったのだろうか。

「僕のソロデビューシングル『RUNNING TO HORIZON』(89年)が、アニメ『シティーハンター3』のオープニングテーマになっていて、製作委員会の方からは『今でもあれ以上はまっているオープニングはないと思っています』ということを言っていただけて。その上でTMとして新たなオープニングテーマを、ということだったので、心地いいプレッシャーのようなものはありましたけど、すぐにイメージが浮かんできました。あまり色々なことに囚われず自由な発想で、でも映画は後半がドラマティックになるので、オープニングは明るくて、対になる『Get Wild』と同じくらい熱量が高いものを目指しました。零号試写で観た時、キターっていう感じというか、物語が始まる感じが伝わってきました」。

「『シティーハンター』は細かい更新というか進化のようなものがところどころに入っていて、それが普遍性に繋がる」

9月8日に公開された『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』は大ヒット記録。それにしても1985年『週刊少年ジャンプ』(集英社)での連載からスタートしたこの物語は、全く色褪せないどころか瑞々しさを感じさせてくれる。その際たるものが「Get Wild」でもある。

「多分、コンテンツとしてキャラが濃いというか、今だったらIPというのかもしれないけど、キャラが濃ければ濃いほど、時空を超えて存在しうるのかなという気がします。それは石ノ森章太郎さんや手塚治虫さんが描くキャラクターもそうです。今も明確に存在しています。『シティーハンター』も、例えばスマホでも電話ボックスに入って電話をかけていても、どんなガジェットを使って移動しても、何をしようが受け入れられる。冴羽瞭さんの場合は、乗っているミニクーパーが変わっていても変わってなくてもいいけど、でもミニクーパーはやっぱり何気に新しい型になっていたり、そういう細かい更新というか進化のようなものがところどころに入っていて、それが普遍性に繋がると思います。あとは髪型とかファッション、カルチャーも10年サイクルぐらいで一周するので、そのタイミングさえ間違わなければ全然古く感じない。多少アジャストすればいいだけです。『Get Wild』もよくもったと思うし、音色とか構成、歌詞はやっぱり80年代を感じるよねって言われることもありますけど、ほとんどの人が違和感を感じていないというのはびっくりです」。

「Get Wild」も更新し続けている

「Get Wild」については時代に則した音を、ソニー・ミュージックエンタテインメントがその度に作り上げ、それが進化に繋がっているという。

「ソニーさんがアナログテープからいち早くデジタルデータ化してくれました。その後は音像をどれだけ今の音にするか、音圧を時代が求めるものにきめ細かく計算して作ったり、そういうテクノロジーの進化のためにいい素材、題材になっているという側面もこの曲にはあります。ソニーさんの技術が大きいです」。

こだま兼嗣総監督を唸らせた「Angie」は「ピアノ練習曲を弾くように、指が動くまま15分ぐらいでできました」

「Whatever Comes」「Get Wild」という物語の始まりと終わりを飾る曲に注目が集まるのは当然だが、今回小室が劇中歌として書いたTMの最新曲となる「Angie」が大きな話題になっている。短い英語詞が乗ったこのシンプルで深い曲は、映画製作サイドから「最後の発注だった」(小室)という。こだま兼嗣総監督をして「今回、クライマックスでかかる曲があまりに素晴らしい。映像に音を付けたとき、思わず拍手して声を上げてしまったぐらい。こんなことは50年やってきて初めて」といわしめたこの名曲はいかにして生まれたのだろうか。

「7音しか使っていない、僕にしては珍しくシンプルな曲で、ピアノの練習曲を弾く感じでできてしまいました。本当に指が動くままに、ワンフレーズ作ったというか。15分ぐらいでできたと思います。ザ・フーの「See Me, Feel Me」という曲が浮かんできて、ピンク・フロイド「Us And Them」やクイーンの曲もなぜか頭に浮かんできて、それをオマージュした歌詞になっています。こだま総監督からの言葉は本当に光栄で嬉しかったです。やっぱり何十年もアニメーターとして携わっている方がそう言って下さって、改めて音楽の役割、存在に気付いてくれたということが、すごく嬉しかったです」。

アニメは音楽との総合芸術

最重要シーンで、登場人物が表情だけで感情を表すシーンに「Angie」が流れる。画と音楽が一体化し、アニメーションにおいて音楽を重要視しているこだま総監督を唸らせたこのシーンは、大きな感動を連れてくる。

「アニメの盲点というか。アニメは日本が世界に誇る最高のカルチャーになっていると思いますが、観ている人に登場人物の表情だけで、感情を読み取らせるシーンにおいては、音楽の有無だけではなく、どんな音楽を付けるかに細心の注意を払わないと、何を言いたいのかがきちんと伝わらなくて、一気にトーンダウンしてしまう可能性があると思います。だからアニメは総合エンターテインメントなんだなって改めて思いました。サントラって“劇伴”っていうくらいなので、プライオリティでいうと音楽は映像や画より少し下の位置付け、というのが多くの人の意識なのかもしれませんが、そうじゃなくて、総合芸術だからより大きな感動を作ることができると思います」。

「まだまだ教授(坂本龍一)には及びませんが、『戦場のメリークリスマス』のような、短いパッセージで耳に残るというものを『Angie』という曲で表現できた気がしています」

「Angie」(12月6日配信)/写真提供 ソニー・ミュージックレーベルズ
「Angie」(12月6日配信)/写真提供 ソニー・ミュージックレーベルズ

新機軸とでもいうべき「Angie」という曲を書けた時、小室はある音楽家のことが頭に浮かび、思いを新たにしたという。

「今年を振り返った時、やっぱり尊敬する教授(坂本龍一)が3月に亡くなったことが、僕にとっては大きな出来事でした。サントラを始め様々な音楽を創造した、類まれなる音楽家は生前、まだまだやり残したことや、やりたかったこと、見てみたかったことがたくさんあるとおっしゃっていて。その言葉が頭から離れなくて、僕はまだ恵まれているんだなと思いながら制作をしていたので、教授が後押ししてくれような感覚があるんです。今しかできないことは、全身全霊で今やらないとダメだよということを伝えてくれていたような気がします。まだまだ教授には及びませんが、『戦場のメリークリスマス』のような、短いパッセージで耳に残るというものを『Angie』という曲で表現できた気がしています」。

写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

「僕は教授とそう遠くはない仕事をしていると思っていますが、その先にいらっしゃった方なので、背中を追いかけることができなくなってしまいました。でも僕の背中を見ている人もいると思うので、その責任感を胸に音楽を作り続けなければと改めて思いました」。

後編】に続く

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音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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