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木根尚登 ソロ30周年「“なんかいいね”と言ってもらえる曲を作り続けてきたつもり」【後編】

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/平野タカシ

【前編】から続く。

小説はフィクション、歌詞はノンフィクション――「やっぱり自分の中に残っていくのは、本当にあった出来事」

『キネコレ ~NAOTO KINE SONGS COLLECTION~』(12月24日発売)
『キネコレ ~NAOTO KINE SONGS COLLECTION~』(12月24日発売)

――木根さんは小説家、文筆家としてこれまで30作以上発表しています。フィクションの世界を描くことが多いと思いますが、「泣かないで」を始め、歌詞は自分を投影したリアリティがあるものが多いですよね。

木根 歌詞は色々なことをイメージしていると、架空のことを書けなくて。でも自分の人生ってそんなに色々あるものではないから、そうすると、ある時から人の恋愛話を歌にすることがすごく多くなってきて。もちろんフィクションもあるけど、やっぱり自分の中に残っていくのは、本当にあった出来事が一番大きくて。それは今も変わらないです。だから他のアーティストの曲をプロデュースするときは「詞は書いてね」って言います。自分が通った小学校が70周年の時、曲を書いて欲しいと子供達から手紙をもらって、その時もみんなに「言葉をちょうだい」って言って“寒い体育館”とか“夏休みの宿題”とか、たくさん言葉をもらって構成して「未来は僕らを待っている」という曲を作りました。言葉って、やっぱり生きていた方がいいなって。そこに共感を生んだりする波動のようなのがあると思っていて、そこへのこだわりはあります。

「いつもちょっと引いてしまうというか、思い切り向かえない弱さというか…それが全てに影響しているのかも(笑)」

――あれだけ本を書かれているのに、なぜ歌詞はあまり書かないんだろうって、1リスナーとしてずっと思っていました。

木根 本当ですよね。小室みつ子さんにも「木根ちゃん、もう自分で書けば?」って言われました(笑)。そんな時は「いや、俺TMだから、みつ子ちゃんの方がいいよ」みたいなことを言っていたような気がします(笑)。全てが“クセ”のような気がします。いつもちょっと引いてしまうというか、ワッて思い切り行けない弱さというか…(笑)。歌詞をどれだけ褒められてもね「いやいや、僕の詞なんか」っていつも思っていました。もっとすごい歌詞を書く人たくさんいるし。でもその“クセ”がダメなんでしょうね。

「曲を書くことには自信がある。でも僕が職業作家にはなれないなと思ったのは、プレッシャーに弱いところ(笑)」

写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

――楽曲はこれまでに1000曲以上書かれています。

木根 曲を作ることに関してだけはすごく自信があって。小室さんが僕をバンドに誘った最大の理由はそこだと思います。「僕と木根で曲を書けば」って言っていたぐらいで、ギターがいいとは言っていなかった(笑)。だからそこはずっと自信はあったけど、やっぱり詞と歌に関しては自信がなかったし、当時のプロデューサーにも「自分のアルバムなんだから、書ける範囲でいいから、詞は自分で書いたら?」って言われていました。僕が職業作家にはなれないなと思ったのは、プレッシャーに弱いところなんです(笑)。例えばTMで『シティーハンター』のテーマソングの「Get Wild」をやった時は、小室さんの書き下ろしで、僕だったら「えっ!『シティーハンター』?そんないいところで流れちゃうの?えー、どうしよう」ってなって、書けないと思います。(笑)。

――それは当時そうだったけど、今はそうじゃないよ、という話ではないんですか?(笑)

木根 今もそうです(笑)。だから僕は、もうそういうことを一切考えないで書くようにしていて。映画『ぼくらの七日間戦争』の挿入歌の「GIRLFRIEND」も、小室さんから 「一番いいシーンで流れるから書いて」って言われて、ピアノだけがある狭いスタジオに、10時間以上籠って書きました。だからそういうのが嫌なんですよ(笑)。何もプレッシャーがなければ、3~4分で書けます。小室さんに向けた手紙にしようと思って書いた「春を待つ」なんて、歌とメロディがそのまま下りてきてすぐできたし、自分の中で自由に書かせてもらうと「ああ、いい曲できた」と思うことが多いけど、「これ、主題歌決まったから」って聞くと「無理」ってなっちゃうんです(笑)。

「自分の曲も人に提供する楽曲も、目指すのは“いい曲”ということだけ」

Photo/平野タカシ
Photo/平野タカシ

――意外です。制約の中で自由に楽しむ方がいいというクリエイターもいますよね。ゼロから書けって言われた方が困るという。

木根 よく「自分用と他のアーティストのために書く曲は曲の作り方が違うんですか?」って聞かれることがあって、意外と使いわけていないんですよ。“いい曲”ということしか頭になくて、それが速い曲でもバラードでも、いいか悪いかだけです。すごく漠然としているけど、かっこいいとかではなく「いいね。いい曲だね」って言われるメロディのものを常に目指しています。

――そこは、昔から変わらないところですか。

木根 変わらない。他の人に曲を提供する時も共通しているのは「いい」か「悪い」かで、「何かわからないけどいいね」って言われるものだけを、ずっと作り続けてきたつもりです。だから小室さんのように、次から次へとその人に合った曲を僕は書けないです。

――『キネコレ』にも「さくらの花の咲くころに」を始め、渡辺美里さんへの提供曲が何曲か収録されていますが、美里さんをイメージするというより、とにかく誰が聴いても「いい」と思えるものを、という思いで書かれたのでしょうか。

木根 美里さんの場合は、どんなに難しい曲でも歌ってくれるという安心感がまずありました。そういう意味で“制約”がない。だから思う存分書ける。でもいざセルフカバーしてみると、もう難しくて(笑)。

2021年氷川きよしのポップスアルバムをプロデュース&楽曲提供

写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

――歌が圧倒的にうまい人というと、木根さんは2021年に氷川きよしさんのポップスアルバム第2弾『You are you』で楽曲提供とプロデュースを手がけています。

木根 本人から歌詞が送られてきて、久々に詞先で曲を書きました。氷川さんのあふれる思いが歌詞になってどんどん送られてきて、それに曲を付ける楽しい制作でした。僕が好きなフォークソングはほとんどが詞先でしたから。

――木根さんの「RESET」もカバーしていました。

木根 「RESET」は歌詞を気にってくれたようで、僕の歌とは全然違う世界観ができあがりました。僕の歌はシンガー・ソングライターの歌だけど、氷川さんのは「歌」でした。TMの「SEVEN DAYS WAR」もカバーしてくれて、やはり歌詞<SevenDayWar 戦うよ><誰かと争うのではなく 自分をみつけたいだけ>というところがぐっときたみたいでした。

「ずっと脚本を書いてみたいと思っていました」

――ソロで30年、グループで40年、これからやってみたいことを教えて下さい。

木根 実は脚本を書いてみたいとはずっと思っていました。以前劇団を作ったりもしました。でもその時は脚本家も入れて、自分はセリフも少ないちょい役で出て、ちょっと音楽をやってという、楽なほう楽なほうに行ってしまいました(笑)。でも脚本は書いてみたい。昔からお笑いが好きなので、犬の散歩中に勝手に漫才の台本を考えてたりして、自分で笑っちゃうときもあります(笑)。お笑い芸人の友達がたくさんいるので、自分が書いたものをお笑いの人達にやってもらおうかなって真剣に考えたこともありますが、いざそれをちゃんと前に進めようとすると、面倒くさくなってしまって(笑)。

「いい部分は変えずに、弱い部分にも自信を持って(笑)、これからも音楽を作り続けたい」

――先に進まないんですね。

木根 途中で「さっき面白かったのが面白くなくなったらどうしよう」って不安になったり、あと本を書いた時に本当に辛くて「もう嫌だ」って何回思ったかわからない経験があるので(笑)。編曲も「自分でできるでしょ」って言われるけど、でも面倒くさい(笑)。本当にダメな男になったのかなって思います。人生の後半に近づいているけど、もっとマメというか、音楽でも書く方でも、全部自分でやらないと気が済まないというタイプの人間だったら、ずいぶん人生が変わったんだろうなって思います。でも今作詞・作曲、ライヴも一生懸命頑張っています(笑)。

――お話を聞いていて、木根さんが書く歌詞やメロディは、もちろん強い部分もあると思いますが、その“弱さ”が優しさとなって、共感できる人が多いのかもしれないと思いました。そこは変わらないで欲しいです。

木根 嬉しいです。根本的にはいい部分は変えずに、弱い部分にも自信を持って(笑)。

『木根尚登弾き語りツアー2023“ウィンナートーンの風に吹かれて”』

4月23日(日)宮城・仙台 LIVE DOME STARDUST

4月29日(土)北海道・函館 あうん堂ホール

4月30日(日)北海道・札幌 くう

5月13日(土)愛媛・OWL

5月14日(日)香川・燦庫

5月20日(土)福岡・ROOMS

5月21日(日)熊本・ぺいあのPLUS

5月27日(土)大阪・ドルチェ・アートホールOsaka

5月28日(日)兵庫・神戸煉倉庫 K-wave

6月10日(土)埼玉・フェリーチェ音楽ホール

6月17日(土)愛知・ドルチェ・アートホールNagoya

6月18日(日)京都・SILVER WINGS

6月24日(土)石川・金沢21世紀美術館シアター21

7月14日(金)東京・三鷹市芸術化センター風のホール

otonano 木根尚登スペシャルサイト

木根尚登オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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