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JUJU “肚を括った”今年「カッコ悪いのが私。どれだけ転んでも立ち上がって、前に進んでいきたい」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

夕暮れ時の砂浜で「奏(かなで)」を歌いながら感じたこと

男性アーティストカバーアルバム『俺のRequest』(10月21日発売)
男性アーティストカバーアルバム『俺のRequest』(10月21日発売)

JUJUの40枚目のシングルとしてリリースされ、男性アーティストの名曲をカヴァーしたアルバム『俺のRequest』(10月21日)にも収録されている、スキマスイッチの「奏(かなで)」のMUSIC VIDEO(MV)にこんなシーンがある。

夕暮れ時の砂浜で「奏(かなで)」を歌っている彼女を映し出しているが、3分過ぎから約30秒間音が消え、アカペラになる。トレードマークであるハットもハイヒールも身に着けていないJUJUが、波打ち際で海と空に向かって、まさに剥き出しになった歌をぶつけているようだ。波の音と共にその歌が心の奥深くまで伝わってきて、熱いものが込みあげてくる。離れていく、大切な人へ贈る歌がコロナ禍で、誰もが“距離を取る日常”を送る中で、歌うほうも聴くほうも違う感じ方、捉え方になっているような気がする――JUJUはこの歌を、夕暮れ時の海でどう感じ、歌っていたのだろうか。そしてコロナ禍の中でシンガーとして大きく変わった気持ち、そして改めて決意したこととは?

「できあがりを観て、本当に驚きました。(牧鉄馬)監督から今回のテーマは街に住んでいる女性が色々あって一人で海に来て、誰もいない砂浜で思い切り歌って自分を曝け出して、スッキリする、そんな画を撮りたいと言われました。でも生の歌声は使わないと聞いていたので、音が抜かれてアカペラになっているのを観てビックリしました。一発撮りの緊張感もありましたし、私自身海に来たのは今年初めてだったし、一人でぼーっと砂浜にいると、だんだん泣けてきて。でも一切使わないので安心して歌ってくださいって言われていたので歌ったら、そのままの声を使われていて。こんな騙し討ちにあったことないけど、でもみなさんからのコメントを読んでいるといい騙し討ちにあったなって思いました(笑)」。

「時間がないということに気づかされた。だから毎日ちゃんと生きなければいけない、無駄にできないということを色濃く感じた年だった」

STAY HOME期間中に色々なことを考え、ものの見方や根本的な考え方が大きく変わってきた。

「世界中の人が、根本的に自分の生活や生きるということ自体について、考えなければいけない年になりました。今まで当たり前だったことが全然当たり前ではなくなって。私は毎年クリスマスには、自宅で大きいモミの木に飾りつけをするのが恒例で、モミの木の香りをクリスマスまで楽しむのがクリスマススピリットだと思っていて、それを後何回楽しめるんだろうって毎年思ってきました。きっと数えられるくらいしかないなって思うと、時間がないということに気づかされます。だからちゃんと毎日生きなければいけないし、無駄にできないなって。特に今年はそれを色濃く感じる年でした。コロナも含め、色々なことがあって、そういうことを考えていたら全てのものの見方が変わってきたというか。だからこそ「奏(かなで)」の中にも、今まで見えていなかったメッセージが見えたのかもしれないし、繋がることの大切さがより伝わってきました」。

「歌うことに自信を失くし、テレビに出るのもライヴもやめようと思った。でもカッコ悪い自分を見せていけばいいと肚を括ったら、不安が消えた」

生活の“変化”、周りで起こる様々なことに、JUJUの心は少しずつ疲弊していった。そしてその異変は突然襲ってきた。7月、緊急事態宣言解除後に初めて出演した生放送の歌番組で、本番直前に想像以上の緊張感からくる大きな不安に苛まれ、納得のいく歌を歌えず、落ち込んだ。

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「きちんと準備をして自信を持って本番に臨んだのですが、直前に今まで感じたことがない緊張感を感じて。歌うことは歌いましたが“やっちゃった感”の方が強く残って、自信をなくしてしまいました。その時は、これからまだまだ歌番組もオンラインライヴも控えているし、もうやらない方が、出ない方がいいんじゃないかとまで思ってしまいました。スタッフと何回も話をして、そこまで辛い状態なら、出ないという選択肢もあるという話も出ました。でも私がどんなチョイスをしても、チームは100%味方だからと言ってもらえて、この場合逃げる逃げないという言い方が合っているかどうかはわかりませんが、ここで一回逃げてしまったら、一生逃げ続ける人生になると思いました。この時、昔プロデューサーから言われた『自分を裏切るのは自分だけだ』という言葉を思い出しました。私はこの16年間歌番組、特に生放送でカッコよく歌えたかというとそんなことはなくて、でも心のどこかでカッコよく歌いたいと思っている自分がいて。これから先どうなるかはわからないけど、でも『あの人やらかしてもへこたれないよね』って思われる人になりたいって思いました。へこたれずに何があってもチャンスをいただける限りは、人前に出てくる私を見て、勇気をもらったと思ってくれる人がいたらいいなって肚を括ったら、不安がなくなりました。カッコ悪いのが私だなって。今までの人生の中でも、カッコつけないことを心に決めて生きてきて、でもデビューした頃はやっぱりカッコつけたいという気持ちが大きくて、だから誰にも歌が届かなくて。それで、全然リリースがなかった2年の間にカッコつける気力もないくらいに疲れ果てて、というところからJUJUという歌手が生まれてきたと思っています。だからダメなところもたくさんあるけど、17周年を迎えさせていただいている今、何を今更取り繕おうとしているんだろうって思ってしまいました。そのせいで私は自分の首を締めてるし、でも、どれだけ転んでも立ち上がる人でいたいと思えて、転んで諦める人にはなりたくないけど、転んですみませんって言いながら、前に進む人でありたいと思います」。

「夏以降は歌が変わったと思う」

肚が決まれば心も決まる。肚を括った瞬間、歌そのものもガラッと変わってきたという。『俺のReuest』のレコーディング中にもそれを感じることができたという。自身はもちろん、JUJUと関係の深い音楽プロデューサー、スタッフを含め第三者が聴いても明らかなほどの、17年目の覚醒とでもいうべき“深化”だ。

「覚悟を決めた夏以降、歌を歌った瞬間に声が素直にその言葉にフィットする感覚があって。言葉で表すのは難しいのですが、レコーディングしていても今までとは違う感覚で歌と向き合うことができていて、ディレクターにも『なんか違うよね、“目的がある”感じがする』って言われます。先日音楽プロデューサーの亀田誠治さんと番組で対談をした時に、『ジュジュ苑』(10月10日)のオンラインライヴを観て下さっていて、その時の感じを『この日だけのライヴのはずなのに、まるでツアーの最終日を観ている感じがした』と言っていただけて。『俺のRequest』で『Ya Ya(あの時代を忘れない)』のアレンジをしてくださった武部聡志さんは『今の歌は、Aメロの入りのところからスッと入ってくる』とおっしゃっていて、それが“目的がある”という感じに捉えていだけていることなのかもしれません。今までの私はライヴでも歌番組でもとにかく緊張して、1番はまだ緊張がほぐれないから色々探って、2番あたりから段々落ち着いてくるし、ライヴでも2曲目までは落ち着かない感じがするけど、最近はそれがなくなって『歌が変わった』と感じてもらえるのかもしれません。確かに歌う前に、出したい音が明確に心の中にある感じはしています」。

「元々最悪なことを考えて生きていくタイプ。でも最悪なことが起こると、あとはいいことがあるとしか思わない」

“これからは時間や瞬間の共有が大切になっていく”――テレビの向こうで誰かが言っていた言葉が胸に刺さったという。それは7月21日に行った「MAKE IT DELICIOUS」(BLUE NOTE TOKYO)と、10月10日に行った「ジュジュ苑スペシャル『俺の Request』」(duo MUSIC EXCHANGE)という二つの無観客有料配信ライヴでも感じた。

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「ライヴひとつにしても、色々なことを見直す時で、それは悪い方向に考えるのではなく、新たな可能性がどんどん見えてくるということです。今まではライヴに行くこと、場所の共有ということに重きを置いていたと思いますが、これからは音が出ている瞬間瞬間を一緒に追えていくということが、大切になっていくと思います。そこにあるものを、どの瞬間だとしても、誰かとズレていたり、そこにいなくても、それを共有できる人と仲良くなっていくだろうし、それが平和だということだと思います。私は元々最悪なことを考えて生きているタイプの人間で、学生時代、シャーデーの『LOVE DELUXE』というアルバムに入っている「Bullet Proof Soul」という曲を聴いてものすごく共感して。楽しいことも長くは続かないし、何があっても終わりが来るから防弾の心を持ちなさい、という主旨の歌詞で、この考え方が基本にあって。それと逆転の発想で、すごく悪いことがあると、そのあとはいいことがあるとしか思えないので、意外と楽観的だし、それがバランスというものなんだと思います。あと何年生きているかもわからないのに、今はただの机上の空論でしかないですけどやりたいことだらけで、時間が足りないです。今年のようなこともあるし、全てのことがスムーズに進むはずもなく、それを思うと本当にできることをできる限り精一杯やる、それを積み重ねていく作業を1日もサボれないと思います。だから緊張している場合じゃないんです」。

17年目で初めて「紅白歌合戦」への出場も決まった。“歌”というものの、その先にあるものを彼女は聴かせるべく、静かに準備を進めている。聴き手はその歌に様々な想いを巡らせ、涙で心を潤し、来るべき来年への“希望”を抱くことができるはずだ。

JUJU オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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