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JUJU “男の涙”がテーマのカバー作『俺のRequest』は「この2020年だからできた作品」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ
『俺のRequest』(10月21日発売)
『俺のRequest』(10月21日発売)

JUJUがライフワークとしている邦楽カヴァーアルバム『Request』シリーズ。その第4弾、男性アーティストの名曲ばかりをカヴァーした『俺のRequest』が10月21日に発売され、好調だ。これまでもシングルのカップリングで男性アーティストの曲をカヴァーしてきたが、今回は、40枚目のシングル「奏(かなで) / LA・LA・LA LOVE SONG」(9月30日)を始め、日本の音楽シーンを牽引する音楽プロデューサーと共に、新録で新たに名曲達と向き合い、14曲を収録。今なぜ“男歌”だったのかをJUJUにインタビューした。

「男泣き、男の涙って美しいよね、というスタッフとの会話がきっかけで生まれた作品ですが、今年ファンの方と“繋がる”ために必要な14曲でした」

「4月に『YOUR STORY』というベスト盤をリリースしたのですが、新型コロナウィルスの影響もあり、予定していたアリーナツアーも延期になってしまい、どこかで皆さんと繋がることができたらという思いが日に日に強くなっていき、色々と考えました。オリジナルアルバムというよりも、このタイミングで皆さんにも聴きやすいと思ってもらえそうで、知っている曲だからこそ、なるほどって思えて、皆さんと繋がることができる手段として『俺のRequest』を作ろうと思いました」。

4月に発売したベスト盤『YOUR STORY』は、各ランキングで1位を獲得し、ロングヒットになっている。9月からスタートする予定だった「YOUR STORY」ツアーは開催見合わせとなってしまったが、7月21日には「MAKE IT DELICIOUS」と題し、恒例のBLUE NOTE TOKYOでのライヴを、無観客有料生配信ライヴとして開催し、さらに10月10日JUJUの日には“あなたの心を震わせた「俺のリクエスト」”をテーマに、3年ぶりにカヴァーライヴ「ジュジュ苑」を、同じく無観客有料配信ライヴという形で行い、ファン同様、JUJUも応援してくれるファンとの“繋がり”を求めた。その中心に存在するのがカヴァーアルバム『俺のRequest』だ。

10月10日duo MUSIC EXCHANGE
10月10日duo MUSIC EXCHANGE

「今回の裏テーマというか、14曲に共通してることがあるとしたら、“男の涙”でした。『笑えれば』(ウルフルズ)のどこに涙があるんですかっていわれそうですけど(笑)、笑うためには泣かないと笑えないし、泣いたからこそ笑うことの大切さがわかります。『小さな恋のうた』(MONGOL800)の、こんなにそばにいる大切な人に気付けたことの嬉しさや、そばにいる事に気付けた嬉しさだったり、夢だったら醒めないでって思う、見つけたものを失いたくないというすがるような気持ちには、涙すると思います。別れた歌だったら、そこには悲しい涙もあったり、とにかく色々な涙があって、今回のアルバムを企画した時にスタッフと話していたのは、男泣きって本当にいいよねっていうことでした。男性ってあんまり泣き顔を見せたくない、泣いてるところを見られたくないという思いが強いかもしれませんが、でもその涙って美しいよねという話をずっとしていました。『Request』シリーズを好きでいて下さるファンの方からも『男性アーティストのカヴァーアルバム作らないんですか』というメッセージをいただいて、いつかやりたいと思っていましたし、今までシングルのカップリングとして収録してきた男性アーティストのカヴァーもあるので、それにプラス新録曲を多くしました。これは最初のフラッシュアイディアで実現しなかったのですが、今回の収録曲一曲1人の俳優さんの泣き顔で、MUSIC VIDEO(MV)を作りたかったんです。この曲はこの人の泣き顔が観たいって妄想もしました(笑)。でも泣くことって本当に大切だと思うし、大人の毎日は忙しいけど、涙っていうのは心の汗だから絶対流したほうがよくて、そう思って今までオリジナル作品も作ってきました。忙しい日々の中でも、映画を2時間観る時間はないけど、5~6分のMVだったら観れると思うから、そこで泣いて欲しいとか、そういうのをテーマにこれまでもやってきました。特に今回の14曲は、本当にこの2020年だからこそ私が欲しかった言葉たちがギュッとつまっているなって改めて思いました」。

「男性の目線から見た景色というのは、私は今まで知ったかぶりをしていたんだなって思うくらい、目から鱗の連続だった」

当たり前のことが当たり前ではなくなった2020年。誰もが見えない未来に不安を募らせ、希望を見つけたいという思いばかりが膨らみ、それでも不安は消えない毎日の中で、音楽が、その言葉が、一縷の望みにつながっているのは間違いない。そんな中で今回のレコーディングに臨んだJUJUも、時代を創ってきた名曲達に対して新たな発見や感動があったという。

「今回男性曲ばかりというのはありつつも、改めて歌ってみると男性の目線から見た景色というのは、私は今まで知ったかぶりをしていたんだなって思うくらい、目から鱗の連続でした。今まで何百回と聴いてきたし、歌ったこともあるし、でもその曲のことを全然わかっていなかったんだなって気づきました。この曲は本当はこういうことだったんだなとか、レコーディングしながら浮かんでくる人とか、思い出すことが、想像していなかったことばかりで、実はこの曲のこと今までわかってなかったんだなって。“私”であって“俺”の目線がなかったことに気づかされることがたくさんありました。「くるみ」(Mr.Children)は符割りを寸分狂わないように歌うと、歌詞の説得力の増し方が100倍増しくらいでした。サビは原曲の当てはめ方でなくても歌えることは歌えますが、<希望の数だけ失望は増える それでも明日に胸は震える>という部分は、歌い方によってグイグイ迫ってくる感じがすごくわかりました。ディレクターと「ミスチルの凄さって、これか!」って感動していました。女性は今回のJUJUバージョンを女性キーで、元気がない時こそこの曲を歌うと、あんなに真理をついた曲ってないと感じると思います。レコーディングの最初の頃に『奏(かなで)』(スキマスイッチ)を歌ったのですが、その時、私も含めてスタッフ全員が『「奏(かなで)」ってこんな曲だっけ?』って思いました。名曲だと思ってずっと聴いて、歌ってきましたが、繋がることの大切さというものが、まるで鬼気迫るような感じで伝わってくる歌になって。この曲についてスキマスイッチ大橋さんから『自分のパフォーマンスも含め今までで一番切なく聴こえました』というありがたいコメントをいただいたのですが、それは私の歌だからというよりも、全ての人のものの見方や感じ方がシフトしている中でできあがった『奏(かなで)』だからだと思っています。大橋さんの感じ方もそうかもしれないし、松浦(晃久)さんのアレンジも今だからああいうアレンジになったかもしれません」。

「新録曲は、ファンの方からのリクエストプラス、関わりのある方の曲ということを大切にしました」

「初めてカラオケで歌った時に、歌ってなんて楽しいんだろうって思って、その原点を大事にしたくて、カヴァーを大切にしている」と、先日の「ジュジュ苑」オンラインライヴでも語っていたJUJU。原曲とそれを歌うアーティストへのリスペクトと深い愛情を胸に『Request』シリーズを続けている。

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「とにかくオリジナルの世界観を邪魔しないように、ということをいつも考えて歌っています。だから新しい解釈の曲にしよう、この曲に新たな意味を持たせようという思いでカヴァーするわけではなく、純粋にその曲が好きで好きで仕方がないということと、小さい頃みんなが知っている曲を人前で歌った時のあの楽しさが、今も忘れられないというシンプルな思いなんです。そこにはオリジナル曲とそれを歌われているアーティストへのリスペクトしかないです。今回14曲選ぶにあたっては、新録するものについては、ファンの方からのリクエストプラス、関わりのある方の曲ということをすごく大切にしたくて、それでいうと、今回唯一これまで直接の関わりがなかったのが、中西保志さんで「最後の雨」でした。これはファン投票の第1位で、絶対に歌いたいと思いました。新録で最初にレコーディングしたのは、ニューヨークで初めてお会いして、アルバム『DELICIOUS ~JUJU's JAZZ 3rd Dish~』でデュエットさせていただいたり、兄さんと呼ばせていただいている久保田利伸さんの『LA・LA・LA LOVE SONG』でした。この曲に背中を押してもらってアルバムの制作がスタートしました。レーベルメイトでもあるフジファブリックの「手紙」は、初めて聴いた時に号泣した曲です。平井堅さんの曲は絶対に入れたくて『瞳をとじて』と『even if』両方を歌ってみました。でも今の私は「even if」の方が寄り添えると思いました。この曲はニューヨークにいる時に友達から聴かされた初めての平井さんの曲で、そういう意味で平井さんとの出会いの曲です。冨田恵一さんのアレンジが素晴らしくて、主人公が、『脳内ポイズンベリー』という脳の中で複数人でめくるめく会議が繰り広げられるというマンガがあるのですが、そういう感じの、まるで鬱蒼とした森の中をぐるぐる彷徨っているイメージで、その世界観を見事に表現してくれました」。

日本を代表するアレンジャー陣が豪華競演

このアルバムは、原曲を歌うアーティストはもちろん、アレンジャー陣の名前を見るだけでもワクワクしてくる。松浦晃久、島田昌典、亀田誠治、UTA、川口大輔、冨田恵一、Kan Sano、本間昭光、武部聡志……アレンジャーの祭典のような贅沢な一枚でもある。

「サザンオールスターズの『YaYa(あの時代を忘れない)』は、今回武部(聡志)さんがアレンジしてくださって、なぜかニューヨーク時代のことを思い出しました。今回のレコーディングでは一曲一曲色々な人や事を思い出しました。「Ya Ya~」はこの人を思い出しながら歌うんだろなってなんとなく頭の中で思い描いていたら、全然違う、ニューヨーク時代18年分の思い出が走馬灯のように流れてきて。ニューヨークに住んでいた時、仲間と現地のカラオケバーに行くと、みんなサザンばかり歌っていて、それを思い出してサビのところが泣けてしまって、レコーディングを一回止めました。でも<いつの日にかまた>というところは、心の中では笑顔なんです。会おうと思えばまた会えるのに、その思い出が出てきてビックリしました。「エイリアンズ」は本当に難しい曲なんですが、それ以上にいい曲で、人生で初めて“ひと聴き惚れ”したのがキリンジの堀込泰之さんの声でした。この曲が入っている『3』というアルバムはCDなんですけど、擦り切れるほど聴きました。島田昌典さんにアレンジしていただいた『One more time, One more chance』(山崎まさよし)はずっと大好きな曲で、いつかレコーディングしたいと思っていて、ようやく念願が叶いました。私はチームJUJUの中で、“歌うこと”が役目だと思っているので、それ以外は全てスタッフに任せているのですが、今回『アイ』(秦基博)については、自分の中で音のイメージがすごく浮かんできて、アレンジャーの本間(昭光)さんに『心がクシュっとなる切なさが欲しいんです。雪山で、吹雪いているのに晴れ間が見えた時の、あの泣ける感じってあるじゃないですか…あと、笑ってるのに涙が出る時のような切なさが欲しいんです』って、抽象的なイメージをむちゃ振りしました(笑)。こんなこと初めてで、でも本当にイメージ通りの音に仕上げてくださって、感謝しています」。

「『言葉にできない』は小田さんんへの私からのラブレター」

アルバムのラストは「言葉にできない」(オフコース)だ。オンラインライヴ「ジュジュ苑」のオープニングナンバーも同じくオフコースの「YES-NO」と、JUJUのオフコース、小田和正を慕う気持ちが歌からも伝わってくる。「言葉にできない」は歌い出しのブレスの部分から歌に引き込まれてしまう、圧巻の表現力が切なさを運んでくる。小田はこの曲に寄せたコメントの中で「歌っている時どんな情景が浮かんでいたのでしょうか」と語っている。

「私にとってのこの『言葉にできない』は、小田さんへのラブレターです。2009年に初めて『クリスマスの約束』(TBS系)に呼んでいただいて、イベントやライヴでも何度も共演させていただいて、その時この曲を一緒に歌わせていただく機会があって、<あなたに会えて 本当によかった うれしくてうれしくて 言葉にできない>の部分は必ず『お前が歌え』って言われるんです。だからその時は必ず小田さんの目をしっかり見て歌っています。どんな別れがあったとしても、その出会いがあってよかったって思えることに尽きると、日ごろから思っているので、悲しみも喜びも含めて言葉にできないという気持ちを歌っているこの曲を、アルバムの最後に置きました」。

「心残りを思い出させてくれるのも音楽だし、心残りを癒してくれるのも音楽、残った気持ちをその人に届けてくれようとするのも音楽」

2020年という年だからこそできあがった一枚、JUJU自身にとっても“必要だった”作品だったのかもしれない。今だからこそ必要とされている強くて温かな言葉と、そして聴き慣れたメロディが、ファンとJUJUの間を柔らかく、しかし“確か”に繋ぐ。

10月10日duo MUSIC EXCHANGE
10月10日duo MUSIC EXCHANGE

「先日の『ジュジュ苑』でも話しましたが、誰かに対してとか、何かに対しての思いを100%言葉で伝えることって、絶対できないっていうか、絶対100%の言葉なんてないし、だから人がいなくなり、ものがなくなった時に心残りという思いが生まれてきます。でもその心残りを思い出させてくれるのも音楽だし、心残りを癒してくれるのも音楽だし、残った気持ちをその人に届けてくれようとするのも音楽だと思います。それは今年に入ってからもそうだし、私の人生の中でずっとそう思っているし、特に今回のアルバムに入っている曲たちは、そういう思いの曲が多いです。だから『ジュジュ苑』もこのアルバムも、今年でなければできないこと、作れないものだなって思います」。

JUJU オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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