恐怖の遺言書~遺言トラブル・ワースト5とその防止策

遺言書が原因で「争族」になってしまうことがりあります。(写真:アフロ)

改正相続法が今月7月1日に本格スタートしました(詳しくは、相続がガラッと変わった!「改正相続法」令和元年7月1日本格スタート~「知りません」では済まされない。をご参照ください)。

改正相続法の目玉の一つに自筆証書遺言の方式緩和があます。これは、今まで全文の自書を要求していた自筆証書遺言の方式を緩和して、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいとしたものです(詳しくは、この遺言書は無効です!~改正相続法の落とし穴をご参照ください)。

この方式緩和によって遺言の普及が期待されています。一方、遺言書をめぐる紛争の増加も懸念されます。

そこで、今回は遺言をめぐるよくあるトラブルを5つご紹介します。その上で、トラブルを阻止する対策を伝授します。

遺言をめぐるトラブル ワースト5

遺言をめぐるよくあるトラブルは次の5つです。

ワースト1~判断能力が衰えたときに残す

遺言を残す条件に遺言能力を備えていることがあります(民法961条)。遺言能力とは、自分が残した遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識できる意思能力のことを言います。つまり、遺言を残す時に、自分が残した遺言によって自分の死後にどのようなことが起きるのか理解できることが必要になります。

そのため、認知症等で判断能力が衰えた時に残すと、たとえ法律上問題がない形式の遺言書であっても、遺言者の死後に、相続人の中から、「この遺言書を残した時には既に父は認知症で判断能力が衰えていた。だからこの遺言書は無効だ!」といったような意見が出て、遺言の有効・無効をめぐる争いになってしまうことがあります。

ワースト2~表現があいまい

たとえば、遺言に「甲土地を長男にまかせる」と書かれていたらどうでしょうか。長男にその土地を管理させるのか、それとも承継させるのか判断に迷います。

また、「あいちゃんに乙銀行の預金を遺贈する」と書かれていたらどうでしょう。遺言者はあいちゃんを特定できても、第三者はあいちゃんはだれなのかわかりません。

このようなあいまいな表現は法的判断を困難にしてしまうので遺言執行(=遺言の内容を実現すること)を困難にしてしまいます。

ワースト3~遺言執行者が書かれていない

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他の遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民法1012条)。つまり、遺言の内容を実現するための総責任者といえます。そして、遺言執行者は、遺言で指定できます(民法1006条1項)。

遺言執行者が遺言で指定されていると、遺言執行がとてもスムーズに進みます。一方、指定されていないと預貯金の払戻しをするときに、銀行から銀行所定の書類に相続人全員の署名押印を求められるなど遺言執行が滞ってしまうことがあります。

ワースト4~財産を遺すはずの人が先に死亡

遺言書で財産を残すと記した人が、遺言者より先に死亡してしまった場合は、その人に残すはずだった遺産は、遺産分割の対象となってしまいます。つまり、相続人の間の協議(=遺産分割協議)で、その遺産をだれがどれだけ引き継ぐのかを決めることになります。遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員が参加して、全員が合意しなければなりません。遺言書は、そもそも遺産分割協議の成立が困難なことが予想される場合に作成されることが多いので、その遺産の承継をめぐって相続人の間で紛糾が起きる可能性が高くなります。

ワースト5~紛失・未発見

遺言は、遺言者の死亡のときから効力が生じます(民法985条1項)。そのため、一般的に遺言を残してから遺言が効力を発生するまでは一定期間あります。遺言書を残してから死亡するまでの間に紛失してしまったり、死後に発見されずに相続人の間で遺産分割されてしまうこともあります。また、遺産分割された後で遺言書がひょっこり出てきて、遺産分割のやり直しなど相続を混乱に陥れることもあります(遺言書を見つけ出す方法については、知っておきたい「親」の相続~親の「遺言書」を見つけ出す方法をご参照ください)。

遺言をめぐるトラブル対策

以上の5つのトラブルを阻止する対策をご紹介します。

対策1~心身ともに元気な時に残す

遺言能力をめぐる争いを起こさないためには、心身ともに元気な時に遺言を残すことが一番です。もし、不安があるなら自筆証書遺言ではなく公正証書遺言にしましょう。

自筆証書遺言は遺言者が一人で作成できます。一方、公正証書遺言は、公証人と証人2人以上の立会いの下で作成します。そのため遺言能力をめぐる紛争が比較的起きにくいのです。ただし、公証人が「(遺言者に)遺言能力が認められない」と判断すれば、公正証書遺言を残すことはできません。

対策2~解釈の余地がない表現にする

相続人に財産を遺す場合は、「○○(残す人の氏名)に、甲土地を相続させる」、相続人以外の人に財産を遺す場合は、「○○(残す人の氏名)に、甲土地を遺贈する」と書きましょう。

また、財産を承継させる人の氏名は通称名などにしないで本名を書きましょう。

対策3~遺言執行者を必ず指定する

遺言執行者に○○を指定する」といったように、遺言書に遺言執行者を必ず書きましょう。遺言執行者の職務はとても重いものです。そのため、心身ともに健康で責任感があり、しかも自分より年下の人を選びましょう。遺言執行者が遺言者より先に死亡してしまうこともあるからです。

なお、遺言執行者は未成年者と破産者を除けば就任できます(民法1009条)。したがって、財産を残す人(たとえば、相続人の内のだれか)を指定することもできます(遺言執行者について詳しくは、相続がガラッと変わる!その7~遺言執行者の権限の明確化をご参照ください)。

対策4~予備的遺言を記載する

不動産など重要な財産には、万一財産を承継させようとした人が先に死亡してしまった場合に備えて、「甲土地を長男の○○に相続させる。万一、○○が遺言者より先に死亡した場合は、○○の長男□□に相続させる」といったように予備的遺言を付しておきます(予備的遺言について詳しくは、遺言書の落し穴~子どもが先に死んだらどうなるをご参照ください)。

対策5~遺言執行者に託す

自筆証書遺言を残したら、タイミングを見て遺言執行者に遺言書を託しましょう。

なお、平成30年7月6日、法務局における遺言書の保管等に関する法律(=遺言書保管法)が成立しました。この法律によって、今まで自己責任で保管しなければならなかった自筆証書遺言を法務局において保管できるようになります。ただし、遺言書保管法の施行期日は、来年の令和2年7月10日です。施行前には、法務局に対して遺言書の保管を申請することはできませんのでご注意ください(詳しくは、ガラッと変わった相続法 ここに注意!vol.2~自筆証書遺言の保管制度をご参照ください)。

ご覧いただいたように、遺言書は「残せばいい」というものではありません。

亡くなった後に「こんな遺言書なら残してくれなかった方がましだった」と遺言書が「争族」の火種にならないように、遺言を残す場合は慎重に残しましょう。