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凍結口座の払戻し手続~亡親の遺産を早く払い戻す手順

竹内豊行政書士
相続で凍結されてしまった預金口座の払戻し手続の手順を一挙公開します(写真:アフロ)

親が死亡した後に、親の預金口座から葬儀代や入院費用を工面しようとしてATMで引き出そうとしたら預金が下ろせなくなってしまう場合があります。これを一般に「預金の凍結」といいます。

預金が凍結されてしまうと預金口座からの払戻しはもちろんのこと、入出金もできなくなります。

預金の凍結について詳しくは、「相続で『預金凍結』なぜ起きる?~亡親の預金を下ろしたらすべきこと」をご覧ください。

口座が凍結されたままではいつまで経っても遺産を取得できません。そこで今回は、相続で凍結された預金口座の払戻し手続の手順をご紹介します。

口座を凍結から解除するためには

相続で凍結されてしまった口座から払戻しを受けるには、一定の手続きを行う必要があります。

銀行に「相続届」を請求する

まず、預金口座を凍結した銀行に相続手続に必要な書類を請求します。この書類は一般に「相続届」と呼ばれています。「相続届」は銀行によってその内容が異なります。

銀行の窓口で配布するところもあれば後日、銀行の相続部門から郵送で送られてくる場合もあります。

なお、窓口は通常どの支店でも受付けますが、口座を開設した支店でないと手続きを受け付けない銀行もあります。まずは口座を開設している支店に電話をして確認してみることをお勧めします。

相続人の範囲を確定する

次に、被相続人の相続人はだれなのかを確定します。そのためには、被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本を市区町村役場に請求して取得します。請求方法は直接市区町村役場の窓口に行くか郵送で請求するかのいずれかです。また、相続人の戸籍謄本も合わせて取得します。

この戸籍の収集がとても面倒で厄介です。1か月程度で終われば御の字です。相続関係が複雑な場合は、2か月程度かかってしまうことも珍しくありません。

なお、銀行に対して「死亡した父親の相続人は母と私と姉の3人です」と言うだけでは手続は一向に進みません。公的文書である戸籍謄本で証明する必要があるのです。

遺産分割協議を行う

相続人全員で凍結された口座をだれが取得するかを協議して決めます。取得する方法は、全てを1人が取得してもよいし、「妻が2分の1、その他を子どもたちが均等に分け合う」というように割合で決めても構いません。

なお、協議は相続人全員が参加をして全員が合意をしなければ成立しません。1人でも反対したらダメです。このように多数決で決めることができないのが遺産分割協議の大変なところです。

一部分割も有

通常は、全ての遺産をだれがどれだけ取得するかを一編に行います。しかし、遺産がいくつもあって一度に全てを決めることが困難な場合は、「取り急ぎ、A銀行の預金だけ先に遺産分けしましょう」といったように、一部の遺産を分けることもできます。このことを「一部分割」と言います。なお、一部分割でも当然相続人全員の合意は必要です。

「遺産分割協議書」と「相続届」に署名・押印する

遺産分割協議が成立したらその内容を「遺産分割協議書」にまとめます。その遺産分割協議書に、合意の証として相続人全員が署名をして印を押します。押印は「印鑑登録証明書」を提出の上「実印」で行います。

その際に、先に銀行で入手した「相続届」にも相続人全員が署名・押印するのかポイントです。そうすれば、一度で署名・押印が済むので払戻しまでの日数を短縮することができます。

銀行で手続きを行う

相続人の代表者の方が、必要書類を調えて銀行で手続きをします。一般に必要な書類は次の通りです。

・相続人を証する戸籍謄本一式

・遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印があるもの)

・相続届(相続人全員の署名・押印があるもの)

・相続人全員の印鑑登録証明書

・通帳

・キャッシュカード

・自分(銀行を訪れる相続人)の実印

・自分の身分証明書(運転免許証、パスポートなど写真付きのもの)

訪問した銀行で、払戻しに関係する書類に署名・押印して手続きを行います。

所定口座に払戻しされる

通常、書類の不備等の問題がなければ銀行で受付をしてから1週間前後で凍結された口座の預金が相続人の所定の口座に払戻しされます。

以上で払戻しの手続が完了します。

一般の方がスムーズに手続きを行ったとしても、遺産分割協議から払戻し完了まで2か月程度はどうしてもかかってしまいます。

相続法改正で「仮払い制度」を新設

そうすると、被相続人(死亡者)の葬儀費用の支払や医療費の支払などに困るという事態が起きてしまうことがあります。

そこで、今年7月に民法を改正して、これらの資金需要に簡易かつ迅速に対応できるよう、家事事件手続法及び民法に規定を設けて、預貯金債権の仮払い等を得られるようにしました。

詳しくは、「相続がガラッと変わる!その2~葬儀費用が引き出せる『仮払い制度』新設」をご覧ください。

遺言があれば手続きは楽にできる

以上ご覧いただきましたが、遺産分割協議が成立しないと凍結された口座は一向に解除されません。

もし、「自分が亡くなったら遺産分割協議は難航するな」と思われる方は、遺言を残すことをお勧めします。遺言を残せば遺産分割協議を行わずして遺産を引き継がせることができるからです。

「遺言を残そうかな」とお思いの方は、来年の1月13日から自筆証書遺言が作成しやすくなります。詳しくは、「相続がガラッと変わる!その1~遺言書の『保管制度』を新設」をご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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