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相続がガラッと変わる!その2~葬儀費用が引き出せる「仮払い制度」新設

竹内豊行政書士
相続法改正で、遺産の預貯金の「仮払い」を受けられるようになりました。(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年の7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下「相続法」といいます)が成立しました(同年7月13日公布)。

相続法の改正は、配偶者の相続分を3分の1から2分の1に引き上げた昭和55年の改正以来、実に約40年振りです。

その間、実質的に大きな見直しはされてきませんでした。しかし、その間に社会の高齢化が進展し、相続開始時における配偶者の年齢も相対的に高齢化しているため、「残された配偶者」(主に夫に先立たれた妻)の保護の必要性が高まっていました。

今回の相続法の見直しは、このような社会経済情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の生活に配慮する等の観点から、配偶者の居住の権利を保護するための方策等が盛り込まれています。このほかにも、遺言の利用を促進し、相続をめぐる紛争を防止する等の観点から、自筆証書遺言の方式を緩和するなど,多岐にわたる改正項目が盛り込まれています。

今回の相続法の改正は、まさに「大改正」と言ってよいものです(法改正の概要は法務省ホームページをご覧ください)。

そこで、「相続がガラッと変わる!」と題して、改正で注意しておきたい点をご紹介します。

今回は、前回の「遺言が変わる。ここに注意!」に続き、預貯金債権の「仮払い制度」について見てみましょう。

判例変更で相続人単独で預金の払い戻しができなくなってしまった

平成28年12月の最高裁判所において、「共同相続された預貯金債権は遺産分割の対象となり、遺産分割までの間は、相続人単独での払戻しは原則としてできない」ということになりました。

これは、「法定相続分に応じて自動的に配分する」としていた従来の最高裁判例を変更するものです。

葬儀費用などの火急の支払に困ることも

もっとも、そうすると、亡くなった方(被相続人)の葬儀費用や医療費等の火急の支払などに困るという事態が起きるということも予想されます。

一般財団法人日本消費者協会の調査によると、葬儀にかかる費用の総額は約196万円となっています。

相続法改正で「仮払い制度」を新設

そこで、これらの資金需要に簡易かつ迅速に対応できるよう、家事事件手続法及び民法に規定を設けて、預貯金債権の仮払い等を得られるようにしました。

また、一定の範囲の貯金等については、裁判所の判断を経ることなく金融機関の窓口において、自身が被相続人の相続人であること、そして、その相続分の割合を示した上で、預貯金の払戻しを得られるようにするという規律を設けました。

ここに注意!「仮払い制度」

では、仮払い制度の注意事項をご紹介します。

1.仮払いの限度額

具体的には、相続開始時の貯金債権の額の3分の1に当該払戻しを求める相続人の相続分を乗じた額になります。

例えば、預貯金が600万円で、相続分が2分の1の配偶者については、100万円となるが、この額については、他の共同相続人の同意を得ることなく、単独で払戻しを得られるようになります。

なお、他の共同相続人の利益を害することがないよう、必要最低限の払戻しに限定するという観点から、被相続人が同一の金融機関に複数の口座を有している場合には、払戻しを得られる金額について、法務省令でその上限額を定めることにするとなっています。

2.仮払い制度の施行期日

仮払い制度の施行期日は、公布の日の平成30年7月13日から1年以内です。なお、施行日は別途政令で指定されます。したがって、施行日以前に銀行に遺産の過払いを請求しても受け付けてくれません。ご注意ください。

なお、仮払い制度については、法務省ホームページも合わせてご覧ください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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