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『らんまん』最終話の余韻に水を差した?次作『ブギウギ』予告 諸刃の剣となる既定路線宣伝

武井保之ライター, 編集者
NHK朝ドラ108作目『らんまん』公式サイトより

 朝ドラ『らんまん』が9月29日に最終話を迎え、SNSやネットニュースには称賛の声が溢れた。とくに最終週に入ってからの構成はすばらしく、ラスト2話はドラマが描いてきた万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)の半生の物語を美しく締めくくった。令和朝ドラの名作であり、後世に語り継がれるであろう2話にかけた終幕だったが、残念なこともあった。その余韻に浸る間もなく流れた次作『ブギウギ』の予告映像だ。

 ラストシーンの余韻に浸りつつ、『あさイチ』の博多華丸・大吉さんと鈴木奈穂子アナの感想トークに「そうだよね」と相づちを打ちながら、「でもここもよかった」「こう感じた」などテレビに向かって話しかけるのが、朝ドラファンにとっての“朝ドラ受け”までを含めるパッケージとなった楽しみ方だろう。

 とくにあの最終話のこれ以上なく美しく幕を閉じたラストだっただけに、本編と直結した予告は残念だった。朝ドラ受けのあとに華丸大吉さんの振りがあって予告に入るほうがよっぽど自然であり、視聴者の関心もスムーズに移行できたのではないだろうか。

 これまでの朝ドラ最終話でも同様にラストシーンのあとに次作予告は入っていた。ただ、それが気にならなかった。次作予告があり、「来週から楽しみだね」で終わった作品もある。しかし、『らんまん』でのあのタイミングはそうならない。ラストシーンからつながるようにはじまった予告は、余韻に浸る気まんまんだった視聴者のフラストレーションになってしまった。

視聴者の“ドラマの楽しみ”は本編だけではない

『らんまん』最終話のラストは、万太郎と寿恵子が人生をかけた植物図鑑をついに完成させ、そこに2人の名が刻まれることで生涯を終えても寄り添いあうことを示すかのように抱き合う姿から、万太郎が山で植物採集をするシーンに移る。おそらくこれは寿恵子が亡くなったあとのことだろう。

 そして、寿恵子の声が聞こえて万太郎が振り返ると、かつて2人が出会った頃に山で植物を探す若かりし姿に変わっている。ここからは、万太郎が人生を終える瞬間の回想かもしれない。ラストカットの未知なる新種の植物を探す万太郎の好奇心溢れる表情に込められた思いは、最終週のはじめに映し出された2人の亡き後の千鶴(松坂慶子)と藤平紀子(宮崎あおい)に受け継がれていく。

 そんなラストシーンからの『ブギウギ』予告だった。

 何が言いたいかというと、昨今の視聴者にとって、ドラマはドラマのなかだけで完結しているわけではない。直近では『VIVANT』(TBS系)の視聴者参加型の謎解き考察もそうだが、放送プラスその周辺情報を巻き込んだ視聴者それぞれの楽しみ方がある。朝ドラの場合は、その要素が朝ドラ受けになるファンが多いことだろう。

 そういう状況のなか、ドラマの宣伝まわりにおいても従来通りといった既定路線の踏襲は、いまの時代に通用しない。むしろ視聴者の思いや期待を裏切るネガティブプロモーションになってしまう場合があることを念頭に置く必要がある。予告を差し込むポイントひとつが諸刃の剣であり、ドラマごとの緻密な戦略が求められている。

 映像作品は総合芸術であり、プロデューサーから脚本家、演出家、出演者、技術スタッフ、公式サイトやSNS発信を含めた宣伝プロモーション担当者まで、チーム全体の力が噛み合って運が味方したときにこそヒット作、名作が生まれる。

 そんなことを思わせるほど『らんまん』はすばらしいドラマだったし、『ブギウギ』も楽しみにしている。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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