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濃い味のベタが好き?劇場版『TOKYO MER』女性監督が仕込んだ“お約束”

武井保之ライター, 編集者
劇場版『TOKYO MER』で映画初監督を務めたTBSの松木彩さん(著者撮影)

 邦画実写が好調だった上半期映画シーン。なかでも、近年は低迷ぎみだった連続ドラマを映画化するドラマ映画から大ヒットが生まれたことが特徴的だ。

 そんな今年上半期で、実写興収1位になったのは、TBS日曜劇場から映画化された劇場版『TOKYO MER~走る緊急救命室~』。ここ最近のドラマ映画は10~20億円ほどのヒットになっているなか、44億円を突破した。本作は何が違ったのか。

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 本作を鑑賞すると、観客を作品の世界観に無理やりにでも引きずり込み、有無を言わせず楽しませる圧倒的な作品力があることがわかる。2時間8分を通してサバイバルアクションシーンがてんこ盛り。一難去ったかと思えばまたすぐに次の危機的状況が待っている。

 ド派手な映像演出を含めたサバイバルアクションの連続は、暑苦しく感じてしまいそうであるし、一歩引いて客観的に見れば笑ってしまいそうな作りでもあるのだが、なぜか引き込まれてしまう。爆発的にカロリーの高い食事が病みつきになる中毒性があるのと近い感覚かもしれない。

 劇中で、MERチーフドクターの喜多見幸太(鈴木亮平)からMER医療着を渡されるMER推進部統括官・医系技官の音羽尚(賀来賢人)の「現場には行きません」という言葉は、最後の最後に現場に現れるフリであり、大災害の救助が終了したときの危機管理対策室の清川標(工藤美桜)の「死者は、ゼロです!」は締めのお約束になっている。

 ドラマから見ていた視聴者は、そんなベタを待っている。そこから生じる高揚感とカタルシスを欲していて、それを楽しみたいから劇場版でも映画館に足を運ぶ。

 そして、期待通りにそれが得られるから満足度は高いし、もう一度体験したくなる。一方、制作側もそれを承知でテレビドラマ以上の濃さで期待に応えている。そんなエンターテインメントとして成立しているのが本作だ。

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コントにならないエンタメとリアルのバランス

 ドラマからチーフディレクターを務めたTBSの松木彩監督(36)は、プライベートで映画館に10回ほど通い、応援上映にも2回ほど行っている。

「お客さんのリアクションを感じられるのが嬉しくて。ここで反応するんだとか肌でわかるのが勉強になりました。応援上映もこっそり行きましたが、感動しました(笑)。音羽が序盤で現場には行かないっていうシーンで、お客さんから『どうせ行くんだろ』『行きたいくせに』って声があがるんです。みなさんがどう観てくださっているかがダイレクトに伝わって、もっとくださいって(笑)」(松木さん)

 それが長いだけのコントにならないのは、ベタなサバイバルアクションのエンターテインメント性、それとは対照的なリアリティのある医療シーンをちりばめたストーリー設計、主人公はいかにもなヒーローではなく身近で等身大の誠実な医師という秀逸なバランスがあるから。

 そして、連続ドラマを通して築き上げた視聴者との信頼関係があるからこそ、ベタな“フリおち”や“お約束”が中毒性のあるフックになり、作品のおもしろさにつながるとともに多くのファンを劇場に向かわせた。そこには、制作側による計算以上の効果が表れていることも想像できる。

二郎系ラーメンと言われる濃い味付けの映画

 想定以上のヒット規模になった背景には、松木さんによる濃すぎるようにも感じる“味付け”が、いまの観客の好みに合ったことも一因としてあるかもしれない。

「黒岩勉さんの脚本に調味料を入れまくって、私が好きな濃い味付けにしていきました。光栄にも二郎系ラーメンと言われたこともありました(笑)。各セクションのスタッフさんも私が思っている以上のものを提示してくださって。私の指針に対して“上乗せましまし”で応えてくれました(笑)」

 松木さんは2011年TBS入社の若きヒットメーカーだが、社内では「TBSでいちばんのラッキー野郎と言われています(笑)」と謙虚。ヒット創出のメソッドを聞くと「そんなのないです。私が教えてほしい(笑)」としながら、「どんな作品でもワクワクするポイントを作ることは忘れたくない」と演出のポリシーを語る。

 現在は7月期火曜ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(7/11スタート 毎週火よる10時)のサブディレクターを務める松木さんに、演出家としての自身を振り返ってもらった。

「入社したときはラブコメをやりたかったんです。でもいままでほとんどやらないまま。作品として見るのが好きなのは、80〜90年代のバキバキのアクション映画みたいなの。好きなものと向いてるものは違うかもしれませんけど、『TOKYO MER』のように好きなものを詰め込むことは今後も忘れないようにしたいです」

 松木さんがチーフディレクターを務めるラブコメが待ち遠しくなる。

【関連リンク】

7月期火曜ドラマ『18/40~ふたりなら夢も恋も~』公式サイト

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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