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なぜ「アバター」続編が大コケし「タイタニック」リマスターがヒットしたのか

武井保之ライター, 編集者
2023年3月7日現在 BOX OFFICE MOJOデータより著者作成

 2023年の洋画興行で興味深い動向が見られた。ジェームズ・キャメロン監督の最新作であり、3D映画の金字塔となる大ヒット作の続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が期待を大きく下回る結果になり、同じくキャメロン監督の25年前の名作をリマスターした『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』の2週間限定上映が想定以上のヒットになったのだ。その背景を、新著『アメリカ映画に明日はあるか』(ハモニカブックス)で日本の洋画興行を考察する映画ジャーナリストの大高宏雄氏に聞いた。

『アバター』続編が日本では大ヒットしなかったワケ

 昨年12月16日に公開され、正月映画の目玉だった『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。2009年公開の前作『アバター』は世界歴代興収1位となり、日本でも興収156億円の大ヒットとなっていた。その続編となる今作には、3D映画ブームのきっかけを作った当時の数字には及ばないまでも、そのブランド知名度とキャメロン監督最新作への期待から100億円がひとつの目安として見込まれていた。しかし、フタを開けてみると、前作の3分の1にもとどかない42億円台にとどまっている。

 ただし、今作は世界的には大成功しているヒット作だ。2023年2月時点で『タイタニック』を抜いて世界歴代興収3位にランクインしている。それだけ日本映画市場が特殊ということであり、近年の洋画不振を象徴する興行になった。

日本映画製作者連盟 発表資料および『アメリカ映画に明日はあるか』(著・大高宏雄/発行・ハモニカブックス)より著者作成
日本映画製作者連盟 発表資料および『アメリカ映画に明日はあるか』(著・大高宏雄/発行・ハモニカブックス)より著者作成

 なぜ『アバター』続編は日本で大ヒットしなかったのか。大高氏は著書にて「意外というより、予想どおりの展開といったほうが近い」とし、苦戦の要因を考察する。

「前作は3D映画が増えてきた当時、その映像の威力で興行に馬力がかかり、日を追うごとにぐんぐん興収を伸ばした。しかし今回は事情が違う。3Dがどこまで進化しようと3D映像には変わりない。いわば手の内が見えている。そこには3D映像に込められた話の展開の斬新さや感動的な要素が欠かせない」(『アメリカ映画に明日はあるか』より抜粋)

 作品を取り巻く環境と時代背景に言及したうえで、鑑賞後に感じた作品性の課題を次のように指摘する。

「大いなる見せ場になるであろう色彩鮮やかな海底シーンは見事だった。引き込まれそうなシーンも数しれない。しかし、3D映像を見せ込もうとするあまり、話の展開が停滞する。余分にも見える部分を抑えて、全体の軸足をより奥深い話の構築の方に絞り込む選択はなかったか。映像の技術力を高度化させ、新たな映画体験を実現しようが、それだけではこぼれ落ちるものがある」(同上)

映画館で観たいと思わせる総合芸術としての『タイタニック』の魅力

 一方、同じジェームズ・キャメロン監督の25年前の不朽の名作を3Dリマスターした『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』は、わずか2週間の限定上映(2月10日から)にもかかわらず、興収10億円を超えるスマッシュヒット。上映館はどこも大勢の観客でにぎわった。

 その興収も『アバター』続編の4分の1はすごいこと。もし継続上映されていたら抜いていたかもしれない。キャメロン監督による両作だが、興行は対象的な結果になった。

 3Dリマスター『タイタニック』がそれほどまでに観客を呼び寄せた理由を大高氏は「テレビやブルーレイ・DVDなどで観たことはあるけど映画館で観たい、と思わせる総合芸術としての映画の魅力があり、若い世代を含めて映画館で初めて観る人たちが劇場に足を向けた」と語る。

「『タイタニック』は、ラブストーリーもあればハラハラドキドキのサスペンス要素もあり、デザスタームービーとしてのスペクタクルCG映像もある。それが3時間16分の上映時間で融合し、総合芸術たる映画の真髄を見事なまでに体現している。まさに心を揺さぶる要素が詰め込まれた映画だから、映画館で観たくなるのは必然だろう」

日本人が洋画に求める共感と感情移入体験

 この2作の作品性の違いは、いまの日本市場で求められる洋画の傾向を明確に示している。日本人の洋画ファンは、ストーリーを重視し、人間ドラマに感情移入して映画を楽しむ人が多い。映画のジャンルの嗜好は人それぞれだが、根底にある人間ドラマに共感して、自分の身に迫るものとして楽しめるかが重要になる。

 それに加えて大事なのは、ストーリー性に新しさがあるか。昨年の洋画興行では、ハリウッド大作のシリーズ続編が軒並み興収を前作より落としたなか、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はアップさせた。その要因は明らか。そこに観客を驚かせる新機軸があったからだ。かつてジェームズ・キャメロン監督は『ターミネーター2』(1991年)でそれをやり、前作から興収を飛躍的に伸ばしている。

 洋画に限らず邦画にも通ずるかもしれないが、いまの目の肥えた観客に同じことを繰り返しても振り向かれない。新しさのなかに驚きや感動といった感情を動かす何かがない限り通用しない。そんな時勢にあることが、これらの象徴的な興行からうかがい知れるだろう。

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最新の興行動向を発信する大高宏雄氏ツイッター

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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