Yahoo!ニュース

パチンコ業界が、カジノ解禁へ向け「地固め」を進めている?

木曽崇国際カジノ研究所・所長

うーんと、何やらまたカジノ合法化に伴うパチンコ業界の動向が報道されまして、もはやワケワカラン事になっております。以下、Wedgeからの転載。

カジノ解禁へ向け「地固め」進めるパチンコ業界

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3122?page=2

[...]仮にダイナムが日本版カジノのオペレーターになったとすると、同一グループが運営する娯楽施設の片方が合法、片方がグレーゾーンという奇妙な状態となる。

1つの議論として出てくるのが「パチンコ換金合法化」である。パチンコホールにおける換金行為は違法という声も強く、限りなく「クロ」に近いグレーゾーンで営業をしているに過ぎない。これを合法化しようという動きだ。[...]

パチンコとカジノの関係論というのは非常に不思議なものでありまして、「パチンコを規制緩和したい」勢力側からは上記のように「カジノ合法化するのならば、パチンコも換金法制化をしなければならない」という主張が出てくる一方で、「パチンコを規制したい」勢力側からは「カジノを合法化するならば、パチンコの換金を禁止しなければならない」という主張が出てくる。すなわち「カジノ合法化」という同一の事象に対して、親パチ派、嫌パチ派の両方から全く正反対の意見が出てくるのです。

一方で、純粋にカジノ業界にコミットしている私のような立場からすれば、その主張が「換金法制化しろ」にせよ「禁止しろ」にせよ、あたかもカジノ合法化の条件かのようにパチンコ法制論を語られること自体が非常に迷惑な話。彼らは己の従来からの主張を、「カジノ合法化」というある意味「旬」なテーマに引っ掛けて無理やりにでも通そうとしているだけであって、そういう意味ではどちらの立場の方々もハッキリ言ってナンセンス以外のナニモノでもありません。

そもそも、我が国の刑法は賭博を明確に禁じている一方で、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではない」という例外規定を設けて居ます。パチンコは、まさにこの「一時の娯楽…」規定に基づいて我が国に存在し、その範囲が風営法という別の法律の中で定められています。

(賭博)

第185条

賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

パチンコの規制緩和を目指している親パチ派の主張は、この「一時の娯楽…」の範囲を広げようとしているのであり、一方でその規制強化を主張する者は、現在解釈されている「一時の娯楽…」の範囲を狭めようとしている。どちらの主張も、本来はカジノとは全く関係のない刑法の解釈論議なのであって、いちいちそれをカジノにヒモ付けて語る必要はどこにもない。

そもそも、これから日本にカジノが誕生するか否かに関わらず、パチンコはこれまで我が国に存在してきたし、これからも存在して行くワケですから、パチンコの是非論はパチンコの範囲だけで語ってくれ。すなわち我々の立場からしてみれば、親パチ派に対しても嫌パチ派に対しても「いちいちコッチを見んな」という話で有ります。

一方、我が国のカジノの合法化は、現在我が国に存在する公営競技等と同様に「公の行なう正当行為」として我が国に新しい賭博種を認めるべきかどうかというお話です。その論拠は、刑法185条の定める例外規定ではなく、刑法第35条にあります。

(正当行為)

第35条

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

我が国の公営競技、そしてこれから合法化されるかもしれないカジノは、刑法185条の例外規定である「一時の娯楽…」にはあたらない純然たる「賭博」です。しかし、わが国においてはそれが「公益性を持った主体により、公共性を持って運営がなされる」という条件をもって、刑法第35条に定める「法令行為、および正当業務行為」の一環として合法とされています。逆に言えば、カジノ制度論においてまずもって語るべきは「我が国におけるカジノは、その他の公営賭博と同様に『公益性』を担保した形で合法化しうるか?」という点であって、元々、法的な論拠が全く違うところにあるパチンコを同質的に語ったところで制度上は全く意味をなさないのです。ということで、繰り返しになりますが、親パチ派に対しても嫌パチ派に対しても「いちいちコッチを見んな」ということ。

ただ、このような制度の原理原則に沿った論議を混ぜっ返そうとする輩は実はカジノ業界側にも存在していまして、現行制度上、「公益性を持った主体によって運営されるもの」、すなわち「公の独占業務」として規定されてきた我が国の賭博制度の中で、なぜか「カジノだけは民営を認めるべき」などという主張を声高らかに行なっている人達も存在しているというのは、以前ブログにも書いたお話。(詳細は下記参照)

カジノ合法化論と共に、何やらパチンコ新法の話が蠢きだした

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7996814.html

そういう意味では、現在のような「明後日の方向」に向った論議は、ある面で業界側の「身から出たサビ」なのかなぁなどとも思うところであります。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

木曽崇の最近の記事