広島:宿泊税を巡る県と市の「財源バトル」が勃発
さて、引き続き宿泊税に関する論議ですが、広島県で宿泊税導入を目指している湯崎県知事によるコメントが報道されました。以下。NHK News Wbeより転載:
コロナ禍も開け、観光需要が復活したことで、またぞろ宿泊税導入論議が全国自治体で巻き起こっていますが、先の投稿でも述べた通り「宿泊税より地元割」を主張する私にとってはとても違和感のある論議が続いております。
【参考】観光税よりも「観光二重価格」を採用すべきこれだけの理由
https://twitter.com/takashikiso/status/1787241395138461905
第一に、コロナ禍が開け、また観光需要が戻ってきて京都など一部で「オーバーツーリズム」が主張されるようになり、何となく観光客らから徴税することに正当性があるかのように語られ始めましたが、やっと開けたばかりのコロナ禍は元より、2013年の尖閣諸島問題による中国人観光客の激減、震災の度に起こる観光の「自粛ムード」の蔓延など、観光需要は常に社会環境によって増減します。観光客の来訪(厳密には宿泊)に対して課税を行う宿泊税は、その賦課自体が需要を「押し下げる」効果を持つものであり、例えば前出の様に観光需要が社会的環境によって激減する局面においては、その賦課を停止することが必要となります。しかし、今回広島県の湯崎知事が構想している様に、例えば「宿泊税を通じ県内全域の周遊促進などを図る」などというような特定政策の推進を行うとした場合、有事の際に環境に合わせながら宿泊税の徴収を停止することができるのでしょうか?「行はよいよい、帰りは怖い」ではないですが、税の賦課というのは基本的に「一度徴取し始めると、それを放棄することが難しい」というのが行政の世界であり、宿泊税も一旦取られ始めると、先のコロナ禍の様な事態が発生したとしても、絶対に行政はその徴取を取り下げることがないものとなるという前提で論議を行う必要があります。
また、正直この宿泊税の創設論議というのは県と各市町村の競争意識がそれを助長している部分がありまして、例えば広島県のお隣の島根県では、県の観光の中心地である松江市が宿泊税の導入論で先行し、一方で島根県知事がそこに慎重論をもって牽制を行う形になっています。県が宿泊税論議を牽引し、市が慎重姿勢を見せる広島の事例とは「真逆」の構図になっているわけですが、要はこれは県と市で宿泊税をどちらが先に、どの程度の割合で財源化するかという「見えない競争」が水面下で起こっており、論議に先行した主体を論議に送れた主体が牽制するという関係が都道府県と市町村の間で発生しているということ。この様な状況は2019年に宿泊税を創設した福岡県と福岡市の間においても発生しています。
要はこの人達、宿泊税をどちらがより有利にせしめるかという自治体間の「財源バトル」をしているに過ぎないわけで、もはやオーバーツーリズムの解消だの何だのと言う話は「名目」でしかなく、どこかに飛んで行ってしまっているわけであります。そうでもなきゃ、オーバーツーリズムの一番の当事者である広島市が宿泊税慎重論を打ち、一方で当事者でもない県側がそれを推進するなんていう意味不明な逆転現象なんて起きない。
ということで、先に執筆した論説でも述べた通り、宿泊税は様々な機能的欠陥がある施策であり、どう考えても観光二重価格と「地元割」の導入を優先して考えるべきというのが私の主張であります。
【参考】観光税よりも「観光二重価格」を採用すべきこれだけの理由