短期免許で来日中のオシェア騎手が、日本の競馬、騎手、そして武豊について語る
今年はついにドバイWCを優勝
現在、短期免許で来日中の騎手、タイグ・オシェア。UAEの不動のリーディングジョッキーである彼が生まれたのは1982年2月1日だから現在42歳。南アイルランドの競馬とは無縁の家庭で、両親と4人の兄に1人の姉、そして1人の妹の計7人きょうだいという大家族の中、育てられた。
「大きょうだいだったけど、馬に興味を持ったのは僕だけでした。初めて乗ったのは13歳の時。何度も落とされて、どうすれば上手く乗れるようになるのか、じっくり観察するところから始めました」
そんないわば素人だった彼が1988年には騎手免許を取得。2001年にはアラブ首長国連邦に活躍の場を移すと、その後、リーディングを獲得するまでに躍進。その陰には並々ならぬ努力と苦労があったであろう事は想像に難くない。
ちなみに今春にはドバイワールドC(GⅠ)をローレルリバーで優勝し、タズではドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ)も勝利。UAEでは3シーズン連続12度目のリーディングの座を掌中に収めた。オシェアは言う。
「ローレルリバーは最初に乗った時から自分が今まで乗って来たどの馬よりも素晴らしいと感じました。ドバイワールドCは初めての2000メートルだったけど、自信があったので、あのぶっち切りの完勝劇も自分にとっては何も驚きではありませんでした」
日本の競馬、そして武豊について語る
こうして日本にやって来て、1ヵ月以上が過ぎた。プライベートに関しては「お寿司とステーキが美味しい」という彼は、日本の競馬の印象に関して次のように語る。
「調整ルームのシステム等、驚かされた事も多いですけど、JRAのやり方はとてもシステマティックで、他国も見習うべき点が多いと思います」
5月26日には日本ダービー(GⅠ)が行われた東京競馬場の雰囲気も肌で感じ、衝撃を受けたと言う。
「ダービーの直前のレースに騎乗して、ファンの多さと今まで味わった事のない雰囲気に圧倒されました。ドバイワールドCデーも興奮はするけど、それとはまた違う独特の雰囲気で、自分にとっては素晴らしく良い体験になりました。残念ながらダービーには騎乗馬がいなかったのでジョッキールームのモニターでの観戦になったけど、画面越しにも皆の興奮ぶりが分かったので、いつかは乗ってみたいと感じました」
また、ジョッキーについては次のように続ける。
「クリストフ(ルメール)はフランスから来てこれだけ活躍して、勿論、凄いんだけど、日本人ジョッキーも皆、上手ですね」
そう切り出した後、続けた。
「マサミ(松岡正海)は彼がアイルランド に来た時に会っていた事もあり、非常にフレンドリーに話しかけてくれます。彼はファニーで人間性も良いし、ジョッキーとしても一流の技術を持っていますね」
そして、先述した通り他の日本の騎手の技術面に関しても「素晴らしい」と目を見開いて続ける。
「どの国にも一定数の上手なジョッキーはいます。でも、日本はそういう上手なジョッキーが多いです。また、同時にどの国にもあまり褒められない騎乗を毎回するというジョッキーも多くいるモノですが、日本にはそういうジョッキーがほとんどいません。皆が高いレベルでレースをしているので、とても安心して乗れます」
そして、何よりもやはり“あの人”は別格だと力説する。
武豊だ。
「ユタカタケ(武豊)は日本の、いや、世界のレジェンドであり、私にとってもヒーローです。彼と一緒のレースに乗れるだけでも日本に来た甲斐があるというモノです。残りの滞在期間も僅かになってきましたが、1レースでも多くレジェンドと乗りたいし、日本の競馬に乗りたいです」
「今回の来日は学ぶ事ばかり」と言うUAEのリーディングジョッキー。残すところ3週間のラストスパートに期待したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)