【次の育成の星は】ソフトバンク支配下残り4枠、昇格キップに手が届きそうな「7選手」
大黒柱ギータが長期離脱……。福岡ソフトバンクホークスに突如訪れた危機を救う活躍を見せたのは、育成枠から緊急支配下昇格を果たした佐藤直樹外野手だった。
柳田悠岐外野手が5月31日の試合中に右脚を負傷。その後右半腱様筋損傷との診断で全治はおよそ4か月と発表された。小久保裕紀監督は試合中のあいだに佐藤直を1軍に呼ぶべく、球団に翌日までに支配下登録を行うようにお願いをしたという。
佐藤直は2軍遠征先の関西に居たが、その日の夜に“吉報”をもらうと翌日の6月1日は朝5時台の始発の新幹線に乗って帰福。そのまま記者会見、試合前練習、デーゲームに臨む強行軍にもかかわらず1番センターでスタメン出場した。すると走攻守に大活躍。見事チームの勝利に貢献して、お立ち台に上がってヒーローインタビューも受けた。
「24時間前は鳴尾浜球場にいたと思います。こんな未来はもちろん想像していなかった」
本人もびっくり。野球人生を自らの力で大きく切り拓いたといえる一日となった。
育成三銃士がチームに活気
柳田離脱という苦境の中、5月31日~6月2日に行われた広島東洋カープとの3連戦を全勝。ソフトバンクはここまで50試合33勝15敗2分、貯金18をつくり、2位・千葉ロッテマリーンズを5ゲーム差も引き離してパ・リーグ首位を独走している。
チーム打率もチーム本塁打数も、チーム防御率もすべてリーグ1位。圧倒的な強さは一目瞭然だが、数字に表れない部分もある。
川村友斗外野手、緒方理貢外野手、仲田慶介内野手の存在は大きい。今春のキャンプ時点では育成選手だった彼ら3人の必死な姿はチームに活気をもたらした。同じ若手はもちろん、主力たちの目の色も変わるほど彼らには影響力があった。“育成三銃士”はシーズン開幕前に支配下登録を勝ちとり、開幕から現時点まで1軍の戦力として存在感を示し続けている。
4名昇格で支配下66名。上限まで4枠
川村、緒方、仲田、そして佐藤直。
今季はこれまでに4選手が育成枠から支配下登録を勝ちとっている。それでも、現時点のソフトバンクの支配下登録選手の数は66名で、上限まで残り4枠空いている状態だ。
今季のソフトバンクは支配下登録選手の枠に“余裕を持たせた”運用を行った。昨年までは真逆で育成選手たちのモチベーションはかなり低下していた。それが改善された今季、背番号3桁の選手たちの躍動ぶりが近年よりも目立っている。
4軍制を敷く巨大組織のソフトバンク。4選手が支配下登録を果たしたが、現時点でまだ53人の育成選手が在籍している。その中から次の「昇格キップ」に近そうな6選手を紹介しよう。
ウエスタン投手2冠左腕に、杉内2世も
現在ウエスタン・リーグで特に目立つ成績を残している左腕がいる。7試合に登板して4勝1敗、防御率1.07。さらに42投球回で与四球8の好内容。防御率と勝率の投手2冠に立っているのが、背番号167・前田純投手だ。
今季2年目の24歳(今日6月4日が誕生日)。沖縄県出身で日本文理大学から2022年育成ドラフト10位で入団した。身長187cmの長身ながら入団時の体重は83kgと線が細かったため1年目は3軍を主戦場に実戦経験を重ねた。今年1月、チームの先輩で同じ左腕の和田毅投手の自主トレに志願参加。トレーニングのやり方とその意味を教わったという。
「筋トレの仕方もそうですが、体幹部分の鍛え方とか、走るときでも腹圧を意識するとか。それを教わってトレーニングをして、ピッチングに生きてきたと思います。もともと肩に力が入っちゃうタイプで、投げ終わりには肩が痛んだりしていました。だけど体幹部分を意識することで、肩に力が入らず肘も走るようになった。最後の押し込みも強い。疲れも出ないです。自分でも手応えが全然違います」
また、前田純は中部商業高校出身で山川穂高内野手の後輩になるのだが、高校時代3年間はずっとベンチ外だった。そこから育成とはいえプロ入りしたのも驚きだが、支配下登録されて大活躍すれば多くの子供たちに夢を与えられる存在になるのではなかろうか。
安定感を示している左腕がもう1人、背番号140・三浦瑞樹投手だ。
ウエスタンでの防御率1.22は前田純に次ぐリーグ2位の好成績で、こちらも44回1/3で10与四球と制球力の良さが光る。東北福祉大から2021年育成ドラフト4位で入団。1年目から光るものを見せており、かつての左腕エース杉内俊哉に似た雰囲気を持つ。負けん気に強さも受け継いでいるように感じる。
野手にはスケールの大きな育鷹が豊富
野手はすでに4選手が昇格しており支配下入りを掴むのは容易ではないが、楽しみな素材が多い。
右の長距離砲という特色をもつのが背番号121・石塚綜一郎捕手だ。
2019年育成ドラフト1位で黒沢尻工業高校から入団。昨季は3・4軍戦主体の非公式戦で22本塁打と一発を量産し、5年目を迎えた今季はウエスタン公式戦でここまで17試合、打率.310、3本塁打、11打点、出塁率.487の好成績を記録している。なにより、今春のキャンプでは若手の中で最も練習量が多かった選手として球団関係者からも名前が挙がっており、その姿勢も素晴らしい。
同じ育成5年目になる背番号130・勝連大稀内野手もチャンスがあるかもしれない。
ウエスタンでは14試合、打率.231、0本塁打、2打点、1盗塁、出塁率.276と目立った成績は残せていないものの、今季非公式戦では30試合、打率.341、0本塁打、16打点、4盗塁、出塁率.427をマークしている。もともと守備力に定評があり。一方で打撃が課題と言われ続けていたが今季は向上が見られる。現在、ソフトバンクの二遊間は牧原大成内野手、三森大貴内野手が戦線離脱しており戦力が不足している。2年目のイヒネ・イツア内野手が2軍戦のレギュラー格で出場を続けているものの1軍で戦うにはまだ早そうだ。戦力層に厚みを持たせる意味で勝連に白羽の矢が立っても不思議ではない。
また、2軍公式戦では殆ど出番がないものの3・4軍を主戦場に確かな結果を残している若鷹たちもいる。
大卒3年目左打者の背番号150・山本恵大外野手は非公式戦で46試合、打率.432、2本塁打、27打点、4盗塁、出塁率.541の成績。
さらに大卒2年目右打者の背番号166・重松凱人外野手は60試合、打率.330、9本塁打、46打点、22盗塁、出塁率.388とスケールの大きさを感じさせる成績を残している。
また、城島健司球団会長付特別アドバイザー兼シニアコーディネーターが「スケールの大きさ」に着目しているのが高卒2年目の背番号171・盛島稜大捕手だ。
身長187cm、体重104kgの恵まれた体格。非公式戦では41試合、打率.345、3本塁打、27打点、1盗塁、出塁率.393と、20歳捕手としてはかなり期待できる数字を残している。城島氏に「彼には将来的にはメジャーでキャッチャーをやれるぐらいのスケールのでかいキャッチャーになってほしいなと、そういう期待をもっています」と言わせるバケモノ級の好素材。早急な支配下昇格は難しいかもしれないが、今のうちに名前を覚えておいて損はなさそうだ。
今季中の支配下登録期限は7月いっぱい。上記の7選手を含む53名の“育鷹”たちの中で吉報をつかむのは誰になるだろうか。
(※写真はすべて筆者撮影)