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なぜ朝倉未来は「30歳で引退」を撤回したのか?7・30『超RIZIN.2』でケラモフと闘う2つの理由

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
7・30『超RIZIN.2』でケラモフと闘う朝倉未来(写真:RIZIN FF)

「やっぱり格闘技が好きだ」

「30歳で現役を引退する」

そう話していた朝倉未来(トライフォース赤坂)が、前言を撤回した。今年7月15日に31歳の誕生日を迎えるが、その後も闘い続ける決意をしたようだ。

4月29日、東京・国立代々木競技場第一体育館『RIZIN LANDMARK 5』のメインエベントで牛久絢太郎(K-Clann)を圧倒、約1年5カ月ぶりのMMA(総合格闘技)復帰戦を勝利で飾った朝倉は試合後にこう言った。

「 RIZINで7連勝した頃、自分の中に責任感が生じた。だからギリギリのオファーで、望んでいない試合にも出場してきました。でも試合間隔が空いた約1年半の間に『やっぱり格闘技が好きだ』と再認識できた。

納得のいく試合をしたい。何カ月も準備をして闘い、勝者がすべてを持っていく。いいですよね。環境が整ったいま、もっと夢を追いかけたい」

4月29日、東京・国立代々木競技場第一体育館『RIZIN LANDMARK 5』のメインエベントで牛久絢太郎(右)に判定勝ちを収めた朝倉未来(写真:RIZIN FF)
4月29日、東京・国立代々木競技場第一体育館『RIZIN LANDMARK 5』のメインエベントで牛久絢太郎(右)に判定勝ちを収めた朝倉未来(写真:RIZIN FF)

闘いに対しての熱い気持ちに、いま彼は満たされている。あと何年かはわからないが納得がいくまで闘い続けるつもりだ。

以前、朝倉に尋ねたことがある。

「なぜ、30歳で引退と決めたのか」と。

当時、28歳だった彼は答えた。

「30歳で引退しないとずっと続けちゃうので区切りをつけたい。格闘技が好きだから。他にもいっぱいやりたいことがあるし。やめたら二度とリングには上がらない。解説の仕事もしない。近くにいると、また闘いたくなっちゃいますから」

だがその後、一昨年6月に東京ドーム『RIZIN.28』でクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)と対戦し絞め落とされて敗れた。以降、彼は再戦を求め続けている。クレベルにリベンジを果たすまではやめられない、との思いが強くあるのだろう。だから「30歳で引退」の人生設計を変更することにしたのだ。

そして、31歳の誕生日の15日後に朝倉は、RIZINのリングに上がる。

「地味に強い」ケラモフ

5月27日の夕刻、東京・新宿の東急歌舞伎町タワー前でRIZINが公開記者会見を行い「夏のビッグイベント」開催を発表した。

『超(スーパー)RIZIN.2』(7月30日、さいたまスーパーアリーナ)─。

これは米国の格闘技団体『Bellator(ベラトール)』とのコラボイベント。第1部はケージでベラトールの闘い、第2部では戦場をリングに変えRIZINの試合が繰り広げられる。

そのRIZINパートに朝倉未来が参戦、ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)と対峙することとなった。

記者会見で健闘を誓い合ったヴガール・ケラモフ(左)と朝倉未来。この試合の勝者が年内にRIZINフェザー級王座に挑む可能性が高い(写真:RIZIN FF)
記者会見で健闘を誓い合ったヴガール・ケラモフ(左)と朝倉未来。この試合の勝者が年内にRIZINフェザー級王座に挑む可能性が高い(写真:RIZIN FF)

ケラモフは朝倉と同じ1992年生まれ。

柔道、サンボ等を経験した後に総合格闘家に転身、戦績18勝(14KO&一本)4敗を誇る。フィジカルの強さには定評があり、KOもしくはサブミッションを決められて敗れたことは一度もない。RIZINのリングにも、これまでに5度上がっておりレコードは次の通りだ。

〇vs.カイル・アグォン(米国)【判定、3-0】

●vs.斎藤裕(パラエストラ小岩)【判定、1-2】

〇vs.中島太一(ロータス世田谷)【前三角締め、1ラウンド2分】

〇vs.山本空良(パワーオブドリーム)【判定、3-0】

〇vs.堀江圭功(ALLIANCE)【リアネイキッドチョーク、2ラウンド3分21秒】

斎藤には『RIZIN.28』で敗れているが、スプリットデシジョンが示す通り実質ドローファイトだった。

闘い模様は決して派手ではないが、フィジカル、メンタルともに強く寝技での「決めの強さ」も有している。ケラモフがRIZINフェザー級トップクラスのひとりであることは間違いない。

知名度はそれほど高くはないが「地味に強い」。多くの選手が闘うことを避けたがるタイプのファイターである。

「俺は敢えて険しい道を往く」

そんなケラモフを、朝倉は敢えて対戦相手に指名した。

その理由を会見で、こう話している。

「元(RIZINフェザー級)チャンピオンの斎藤選手、牛久(絢太郎/K-Clann)選手に勝った。本当なら、すぐに(王者の)クレベルと再戦がしたい。でもクレベルは中堅選手を相手にして遊んでいる。ならば、俺は敢えて険しい道を往こうと思う。ケラモフを倒し、そのうえで王座に挑戦したい。(この選択は)クレベルへのメッセージです」

『超RIZIN.2』でケラモフを破り、大晦日のリングでクレベルに挑戦。これが朝倉が描くプランだ。実際、朝倉がケラモフに勝てば、そのストーリーは遂行されよう。

だが私は、朝倉がケラモフとの闘いに挑む理由は、もう一つあるように思う。

それは、平本蓮との決別をしたいからである。

平本は、これまでことあるごとにツイッターで朝倉を挑発し続けてきた。

これに対して朝倉は「誹謗中傷が過ぎる」と告訴をちらつかせ、自らのツイッターアカウントを閉じた経緯もある。

朝倉は、クレベルと再戦したい。だが、ファンは因縁のある平本との対戦を望む。戦績的に格下の平本と闘ったところで朝倉には何のメリットもない。おそらく「もう、うんざり」の心境なのだろう。

(俺は、平本と同じレベルにはいないんだよ!)

ケラモフとの闘いを選んだのには、そんな思いもあったように感じる。

ケラモフを破り、さらにクレベルを倒したなら悲願達成。ここで朝倉は現役引退をするつもりなのか。いや、さらなる野望を抱く可能性もある。それは世界進出─。

だがまずは、『超RIZIN.2』で勝てるか否か、ケラモフ戦が苛烈な闘いになることは間違いない。

「30歳で引退」を撤回した朝倉未来の志高きファイティングロードを、今年の夏は熱く見守りたい。

〈7・30『超RIZIN.2』主要対戦カード〉

上記のカードを含め全14~15試合が行われる予定。他の対戦カードは後日、発表される(提供:RIZIN FF)
上記のカードを含め全14~15試合が行われる予定。他の対戦カードは後日、発表される(提供:RIZIN FF)

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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