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なぜ鈴木千裕は金原正徳を圧倒できたのか?試合後に明かされた「勝因」と強さの秘密。『RIZIN.46』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
王座初防衛を果たしリング上で絶叫する鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

観る者を驚愕させた圧勝劇

「有明に稲妻を落としてやったぜ! 言ったよな、1ラウンドKOするって。有言実行! これでまた絶対王者に一歩近づけました。『日本のRIZIN』を俺が『世界のRIZIN』に変えます。みんな、俺の夢について来い!」

リング上で鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)が絶叫した。

4月29日、東京・有明アリーナ『RIZIN.46』フェザー級タイトルマッチで、金原正徳(リバーサルジム立川ALPHA)に僅か268秒でTKO勝利した直後のことである。

戦前は「MMAファイターとしての完成度が高い金原が優位」との声が多く聞かれた。グラウンドの展開に持ち込んで金原がフィニッシュする、あるいは試合をコントロールし続け判定で勝つとの予想が主流。

鈴木をサブミッションで秒殺したクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)に金原は勝利している。その点も含めての見方だった。

だが結果は、鈴木の完勝。

金原にグラウンドに持ち込む機会を鈴木は与えなかった。スタンドでの打撃戦に持ち込み、ガードの上からでもお構いなしにエネルギッシュにパンチを振るっていく。稲妻ラッシュで追い込んで倒し、最後はパウンドでフィニッシュ。観る者を驚愕させる圧勝劇で、鈴木がRIZINフェザー級王座初防衛を果たした。

得意の打撃戦に持ち込み金原正徳(右)を圧倒した鈴木千裕(写真:RIZIN FF)
得意の打撃戦に持ち込み金原正徳(右)を圧倒した鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

試合直後のシャンパンファイト、再び腰にベルトを巻いた鈴木千裕は喜びを爆発させた(写真:RIZIN FF)
試合直後のシャンパンファイト、再び腰にベルトを巻いた鈴木千裕は喜びを爆発させた(写真:RIZIN FF)

「キーポイントは3つありました」

さて、鈴木陣営のプランとは、どのようなものだったのか?

試合後に鈴木は、こう明かしている。

「キーポイントは3つありました。1つ目がカーフキック、2つ目は左ボディ。そして3つ目が腕(ひしぎ)十字(固め)を狙われた時にいかに対処するか」

スタンドで見合った際、鈴木は幾度もカーフ(脹脛)を狙ってローキックを繰り出していた。これで相手の出足を止めた後に強烈な左ボディをヒットさせる。

「あの時に『効かせた』とわかりました。(金原の)目つきが変わったので。そこが勝負所でしたね」

ここから鈴木は一気にラッシュをかけた。

パウンドを見舞う際、下から金原に腕十字を狙われたがここも巧く対処。勢いを止めることなく攻め、勝ち切っている。

コーチの塩田”GoZo”歩氏と立てたプランがズバリ嵌ったわけだ。

闘いを振り返る鈴木千裕(左)と塩田”GoZo”歩氏。試合後のインタビュースペースにて(写真:藤村ノゾミ)
闘いを振り返る鈴木千裕(左)と塩田”GoZo”歩氏。試合後のインタビュースペースにて(写真:藤村ノゾミ)

常識破りの「思い切りの良さ」

作戦通りに試合を運べたことが今回の勝因だが、私は鈴木のここ3試合の強さの要因は「思い切りの良さ」にこそあると思う。

鈴木は、左ボディで効かせた後に躊躇なくラッシュをかけた。だが、まだ1ラウンド目。3ラウンド計15分間を闘い抜くことを考えればスタミナ維持も気になるところ。だから優位な場面でもラウンドの残り時間を見て、一気に攻め込むことを控える選手も少なくない。

だが鈴木は違う。

「ここぞ!」の場面では、ラウンドの残り時間を気にせずに迷いなくラッシュをかける。

(明日のことなんか知らねえよ!いまやるかやらないか、それがすべてだ!)

そう言わんばかりに。

退路を断った漢の強さが彼にはある。

昨年7月『超RIZIN.2』でのパトリシオ・ピットブル(Bellatorフェザー級王者/ブラジル)戦でも、打撃とタックルを恐れることなく前に出たことで、右フックをヒットさせKO勝利に結びつけることができた。

ベルト奪取を果たした敵地バクーでのヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)戦の勝利も「ラッキーだった」の一言で片付けられるものではない。

開始早々にタックルを決められ、グラウンドの展開に持ち込まれた時点で誰もが「万事休す」と思った。それでも鈴木は諦めることなく、この状況から脱出できると信じ両脚を振り回して抗った。その結果、踵を頭部にぶち当てケラモフを失神に追い込んだのだ。強い気持ちが勝利を呼び込んだのである。

強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだ。

鈴木の強さの秘密は、自分を信じ抜く強靭なメンタルと常識破りの「思い切りの良さ」にこそある。

「天下無双の稲妻ボーイ」の快進撃は何処まで続くのか─。

鈴木の次戦は6月23日、東京・国立代々木競技場第二体育館『KNOCK OUT』のリング。”レジェンド”五味隆典(東林間ラスカルジム)とボクシングルールで拳を交える。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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