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朝倉未来がフロイド・メイウェザーに勝つための唯一の戦法とは? 9・25『超RIZIN』展望─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
ボクシングルールで5階級制覇王者フロイド・メイウェザーに挑む朝倉未来(写真:Motoo Naka/アフロ)

「ゲーム感覚」の対峙

9月25日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN』で行われるフロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)vs.朝倉未来(トライフォース赤坂)─。

最初に記しておきたいが、これは朝倉とメイウェザーが格闘家としてどちらが強いかを決める闘いではない。

もし両雄が相手に対して「格闘家として自分の方が強い」と主張し合ったのであれば、ルールはバーリ・トゥード(反則事項を限りなくなくした何でもありの闘い、試合時間は無制限)となるのが必然だ。

そうなれば、総合格闘家の朝倉未来が勝つ可能性が極めて高いだろう。基本的な話だが、プロボクサーは拳闘でいくら強くても、組み技・寝技を用いられてはMMAファイターに勝つのは難しい。

今回のメイウェザーvs.朝倉は、決闘ではない。

ボクシング競技の枠内で試合をした時に、どちらが強いか、どちらが上手いかを競うゲーム感覚の対峙である。

敢えて「ゲーム感覚」と記すのは、メイウェザーは「打倒!朝倉未来」に燃えておらず、朝倉もまた、プロボクシングの頂点を目指しているわけではないからだ。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

朝倉未来の闘い方次第

メイウェザーはプロボクシング界における伝説のチャンピオン。スーパーフェザー(58.97キロ以下)からスーパーウェルター(69.85キロ以下)まで5階級を制覇。戦績は50戦無敗。2015年9月のアンドレ・ベルト戦を最後にトップ戦線の闘いからは退くも、その後もリングに上がり続けている。

2018年8月に、MMAファイター(UFC世界ライト級王者)、コナー・マクレガー(アイルランド)、翌2019年大晦日には『RIZIN.14』で那須川天心(TARGET/Cygames)と闘い、いずれもTKO勝ち。その後も、YouTuberとして有名なローガン・ポール(米国)、元ボクサーのドン・ムーア(米国)と勝敗無しのエキシビションマッチを行った。すでに45歳だが、コンデション調整には余念がない。

対する朝倉は30歳で、MMAプロ戦績16勝(9KO&一本)3敗1無効試合を誇るRIZINフェザー級(66キロ以下)トップクラスのファイター。だが、ボクシングキャリアは皆無、プロのライセンスも所持しておらずリングシューズを履くのも今回が初めてだ。

形式は、8オンスのグローブを着用しての3分×3ラウンドで、契約体重は70キロ以下になる模様。エキシビションなので判定による勝敗はない。しかし、KO、TKOで試合が終わることはある。

ボクシングルールの下でのキャリアに大きな開きのある二人が試合をするのだから、普通に予想をすればメイウェザーの完勝だろう。

メイウェザーは言う。

「どのような展開になるかはアサクラの気持ち一つだ。9分間を楽しみたいのであれば私は一緒にダンスを踊ろう。でも向かってくるなら、それなりの傷を負ってもらう」

つまりは、こういうことだ。

(俺の目的は、多額のギャランティを得ること。それ以上でも、それ以下でもない。ただし、本気で俺を倒しに来るなら那須川天心のように屈辱を味わってもらう)

6月13日(現地時間)、ラスベガスでの対戦発表記者会見で初めて顔を合わしたフロイド・メイウェザー(左)と朝倉未来。北米中心に世界配信されるため試合開始時間は15時前後になる(写真:RIZIN FF)
6月13日(現地時間)、ラスベガスでの対戦発表記者会見で初めて顔を合わしたフロイド・メイウェザー(左)と朝倉未来。北米中心に世界配信されるため試合開始時間は15時前後になる(写真:RIZIN FF)

開始ゴング直後に…

さて、展開はどうなるのか?

「メイウェザーが朝倉を翻弄して9分間が終わる」

それが大方の見方だろう。

だが、それではつまらない。リングサイド最前列100万円、海外にも生配信される舞台設定に不釣り合いな凡戦と評されてしまう。

おそらくは、そんな凡戦に朝倉はしないだろう。

彼は、メイウェザーと闘うことだけで満足していない。世界を引っ繰り返す野望を抱いてリングに上がるはずだ。ならば、やることは一つである。

試合開始直後の“奇襲”だろう。それしかないように思う。

もし1ラウンドの前半が過ぎて、何も起こらない静かな展開であったとすれば、もはや朝倉に勝ち目はない。時間が経過すればするほど、メイウェザーは自らのリズムを巧みに刻み試合の主導権を握っていく。勝負をかけるなら、その前しかないのだ。

ゴングが打ち鳴らされた瞬間に猛然と、且つ相手の足の動きを見据えてフェイントをかけ突っ込む。総合格闘家ならではの変則的なパンチの軌道も活かして、メイウェザーの出鼻を挫く一撃を見舞うのだ。

試合直前のグローブタッチを無視し、あるいはタッチをする振りをして不意の一撃を繰り出すのもありだろう。最大限に知恵を絞ってファーストコンタクトで相手のリズムを崩すことが不可欠だ。もし、そこで一発がヒットしたなら間を置いてはいけない。3ラウンドを闘い抜くスタミナなど度外視して一気に畳みかけるしかない。要領は、喧嘩と同じである。

これが朝倉の作戦だろう。

一世一代の大勝負だ。もしメイウェザーをKOすれば、世界が震撼する。そこに賭けて欲しい。大舞台で作戦を遂行する勇気が見たい。

「ゲーム感覚のエキシビション」ながら、それは格闘家・朝倉未来の真価が問われる一戦でもある。真の勝負師か否か、結末以上に闘い方を注視したい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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