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『RIZIN.34』で皇治に敗れた梅野源治が「判定は間違っている」──ジャッジに忖度はあったのか?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
3ラウンドの9分間、激しく打ち合った梅野(左)と皇治(写真:RIZIN FF)

「梅野の怒り」と「皇治の認識」

「ジャッジはもっと勉強した方がいい。スポーツとしての格闘技なのに、チケットが何枚売れたかの集客力を(判定に)反映させてしまうと発展しない。勝ったのは明らかに自分。そのことは闘った本人同士が一番よくわかっている。なのに、ちゃんとした判定が下されなかったことが悔しい」

試合直後にインタビュースペースで梅野源治は、語気を強めてそう話した。

3月20日、丸善インテックアリーナ大阪『RIZIN.34』セミファイナル、キックボクシングルールで皇治(TEAM ONE)と梅野源治(PHOENIX)が対戦。ふたりは約9カ月前の『RIZIN.29』でグローブを交えるも、この時は開始早々の皇治のバッティングによりノーコンテストとなっている。因縁の再戦は、フルラウンドの攻防の末、2-0の判定で皇治が勝利。だが、この採点に梅野は納得がいかなかったようだ。

「これは、セコンドとも一致していることですが、30-28、もしくは29-28で自分が勝ったと思います。相手にクリーンヒットは許さず、自分は返しでクリーンヒットさせ続けた。僕が感じたことを試合後に彼(皇治)も(リング上で)伝えてきた」

試合後、インタビュースペースで「判定は間違っている」とメディアに話した梅野源治(写真:SLAM JAM)
試合後、インタビュースペースで「判定は間違っている」とメディアに話した梅野源治(写真:SLAM JAM)

さらに、こう続けた。

「皇治選手にはまったく怒りはないし、対戦してくれて感謝している。でもジャッジは今後、人を裁く仕事をしていくなら学ぶべき。選手が毎日どれだけの努力してきたかをわかっていない。あんな判定をされると、俺が向き合ってきたものはこんなものだったのかと感じ悲しい」

その直後、皇治がメディアのインタビューに応じた。

「冬眠明けで寝ぼけているので、これくらい(の試合内容)で勘弁してください」

開口一番そう話し、勝利に上機嫌の皇治だったが、梅野の発言を伝え聞くと一瞬顔色を変える。

「言わせてあげてください。何でも言ってくれたらいいですよ。(リング上で梅野に)『(バッティングで)迷惑をかけて悪かった』と謝り、自分は尊敬している人しか挑発しないと伝えただけです。

誰がどう見てもわかるじゃないですか。あれ(3ラウンドに梅野が後方に崩れたシーン)はダウンでしょ!そんなことをムエタイ王者が言ってたら自分の価値を下げますよ」

「判定はおかしい」に皇治も同意したかのように梅野は話していたが、そうではなかったようだ。

「勝ったのは俺。あれ(3ラウンドに右のパンチで梅野の体勢が後方に崩れたシーン)はダウンでしょ」と対戦相手の判定への不服を笑い飛ばした皇治(写真:SLAM JAM)
「勝ったのは俺。あれ(3ラウンドに右のパンチで梅野の体勢が後方に崩れたシーン)はダウンでしょ」と対戦相手の判定への不服を笑い飛ばした皇治(写真:SLAM JAM)

実質ドローファイト

さて、この試合のジャッジに地元ファイターであり、観客動員力のある皇治に対する忖度はあったのか?

それはないだろう。

RIZINにおいて、主催者とは独立した形で審判団は配置されている。つまり、ジャッジに対して主催者サイドが口を挟むことはできない。審判団が興行収入を考慮する必要はなく、彼らは競技としての闘いを裁くことに誇りを持っている、忖度があったとは考え難い。

この試合、すべてのラウンドを通していずれかが決定的なアドバンテージを有したわけではない。

梅野が蹴りを中心に攻め、皇治はパンチを多用。一進一退の攻防が続く。梅野の攻撃が的確にヒットしているシーンも多々ある。しかし、決定的にラウンドを制すには至っていない。互いに相手を圧倒できぬまま終了のゴングが打ち鳴らされている。

2-0判定の詳細は、次の通り。

30-29で皇治(ジャッジ/豊島孝尚)

30-29で皇治(ジャッジ/吉田元貴)

29-29でドロー(ジャッジ/長瀨達郎)

判定結果が読み上げられる間から「それは違うだろう」と言わんばかりの表情を浮かべた梅野は、レフェリーが皇治の手を上げる横で茫然と立ち尽くす(写真:RIZIN FF)
判定結果が読み上げられる間から「それは違うだろう」と言わんばかりの表情を浮かべた梅野は、レフェリーが皇治の手を上げる横で茫然と立ち尽くす(写真:RIZIN FF)

試合映像を何度も見直してみた。

私のジャッジは29-29。

見返した後も、会場でノートに記したものと同じだった。

1ラウンドは梅野、2ラウンド10-10、最終の3ラウンドは皇治。

ただ、各ラウンドともに両者に決め手がない。もっと広域的に見たならば30-30でも良いように思う。この一戦、皇治が勝者となったが実質ドローファイトだ。

『ゴング格闘技』の記者時代から数えて35年以上、キックボクシングのリングを見続けてきた。その間にタイで暮らし、ルンピニー、ラジャダムナン両スタジアムで取材もした。ムエタイとキックボクシングの判定基準は明らかに異なるし、日本国内においても団体によってジャッジの見方が違う。もっといえば、同じ団体でもジャッジそれぞれの視点があり物議を醸すこともある。

私はドローとジャッジするが、見方次第ではいずれに勝利が転がり込んでも不思議ではない試合内容だった。決定的な優劣がなかったということだ。

今後も判定を巡ってのトラブルは生じるだろう。つい、6月の那須川天心と武尊の試合のことを考えてしまう。「世紀の一戦」、両雄が他者の介入を排して完全決着をつけたいならば、やはりジャッジ不要の「無制限ラウンド」での闘いしかないように思う。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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