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那須川天心との世紀の一戦に「武尊優位」の雰囲気が漂い始めた理由──。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
2・27K-1東京体育館大会で軍司泰斗と激しく打ち合う武尊(左)(写真:K-1)

充実のエキシビションマッチ

「6月、那須川天心選手と僕は人生をかけて闘います。2人で最高の試合をして、必ず僕が勝って『K-1最高』をリング上で叫びたい。その時、みんなで一緒に叫んでもらえたら嬉しいです。6月まで命がけでやり抜きます!」

2月27日、東京体育館『K-1 WORLD GP 2022 JAPAN』のセミファイナルで、軍司泰斗(K-1フェザー級王者/K-1ジム総本部チームペガサス)とエキシビションマッチを行った直後、マイクを手にした武尊(K-1スーパー・フェザー級王者/K-1ジム相模大野クレスト)はファンに、そうメッセージを送った。

武尊が最後に試合をしたのは昨年3月(レオナ・ぺタスに2ラウンドKO勝ちで王座防衛)で、実に11カ月ぶりのリング。当初、武尊は公式試合を望んだが、那須川天心とのスーパーファイトを控えていることもありエキシビションマッチに落ち着いた。

4分間(2分×2ラウンド)、グローブは通常の試合よりもかなり大きめの14オンス、レガース着用。

「ケガはさせられない」

K-1サイドの配慮が色濃く感じられるレギュレーションだった。

セミファイナルで4分間のエキシビションマッチを闘い終え互いに充実感に溢れた表情を見せた武尊(左)と軍司(写真:K-1)
セミファイナルで4分間のエキシビションマッチを闘い終え互いに充実感に溢れた表情を見せた武尊(左)と軍司(写真:K-1)

それでも両者は激しく打ち合う。4分間の攻防を終えた後、武尊は爽やかな笑みを浮かべていた。

「まず、闘ってくれた軍司選手に感謝します。これからのK-1を引っ張っていく選手と、こういう機会が持てて良かった。

コンディション作りを今回は試しました。減量とリカバリーの両面で試合の時と同じようにカラダを仕上げた。朝、量った時点で61.75キロ。動ける状態をキープしつつ体重を落とさなきゃいけない、そこが一番難しいですね。やってみて課題も見えました」

「体重を落としたこともあって、ローやミドルなどのスピードが上がっていることは実感しています。あとは、天心選手にどう攻撃を当てていくかを、もっと詰めていきたいと思う。もちろんサウスポー対策もやっていて手応えを掴んでいます」

11カ月ぶりのリングインは、大きな収穫があったようだ。

エキシビションマッチを終えインタビュースペースでメディアからの質問に答える武尊(写真:SLAM JAM)
エキシビションマッチを終えインタビュースペースでメディアからの質問に答える武尊(写真:SLAM JAM)

武尊に風が吹き始めた

さて、決戦まで3カ月余りとなったが、ここに来て武尊に風が吹き始めたと感じる。それは、私だけではないだろう。

那須川天心vs.武尊は、長きにわたりファンから求められてきた珠玉のカードだ。にもかかわらず、「結局は実現しないだろう」とも思われていた。その間、もし闘えば「天心が勝つ」とイメージしていた者が圧倒的に多かったように思う。武尊が、あるいはK-1サイドが、天心から逃げているとの雰囲気が漂っていたからだ。

だがいま、イメージが大きく変わっている。

「武尊が勝つ」と予想するファンが急増しているのだ。

その理由は何か?

風向きが変わったのは、昨年のクリスマスイブに東京ドームホテルでの記者会見で対戦が発表された直後だろう。

「絶対に(那須川天心との試合を)実現させる」

昨年、武尊はそう言い続けてきた。

しかし、発表はなかなかされない。

天心は、すでにプロボクシング転向を表明していた。彼の心は、次なるステージに移っていて武尊と闘うことに執着していなかった。だから「世紀の一戦は実現しない」とファンも諦めかけていたのだ。

実現に向け、「攻める武尊」と「受け身の天心」──。

そんな最中の電撃発表。ファンは武尊の、この一戦にかける強い執念に心を動かされた。

理由は、もう一つある。

対戦発表記者会見の席上で武尊が放った言葉だ。

「完全決着をつけたい。判定はいらない。無制限ラウンドで(KO決着がつくまで)闘おう」

「よし、やってやるよ!」と天心は応えなかった。

この時、武尊の決意が観る者の心に響いたのではないか。

通常なら、キックボクシングの試合形式は3分×3ラウンド。互いに慎重になれば、9分間では決着がつかない可能性が高い。その場合、引き分け、もしくは僅差の判定でいずれかが勝者となり、一方は敗者になる。そんな曖昧な結末を「負けたら引退」を覚悟している武尊は望んでいない、完全決着をつけたいのだ。

試合の正式な日時と場所は、まだ発表されていない。おそらく、3月早々に記者会見が開かれ、そこで全貌が明らかになるだろう。

気になるのは、やはりラウンド形式か。

個人的には、完全決着に導く「無制限ラウンド」での闘いが世紀の一戦には相応しいように思う。観る者を、さらに熱くさせてくれる決定を待ちたい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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