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朝倉未来が「前回よりも楽」と語った斎藤裕との再戦の行方──。大晦日『RIZIN.33』注目試合予想

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
昨年11月『RIZIN.25』朝倉未来vs.斎藤裕(写真:RIZIN FF)

互いに苦汁をなめた一年

「前回よりも気持ちは、だいぶ楽です。この前は、試合映像があんまりなくて、どんな選手かよく分からなかったんですよ。でも一回手を合わせ、またその後の試合も観ているので(斎藤の)実態をだいたい掴めていますから。勝つ自信があります」(朝倉未来)

「(10月の朝倉未来vs.萩原京平を放送席から)生で観たのは収穫でした。映像で観るのと生で観るのは、まったく違いますから。息遣いも聞こえて、カラダの張りも分かりました。神経戦になることも覚悟しているし、勝つための準備もできています」(斎藤裕)

12月21日午前に朝倉未来(トライフォース赤坂)、翌22日午後には斎藤裕(パラエストラ小岩)の練習が僅かな時間だがリモートで公開され、その後、両者ともに自信に満ちた口調でそう話した。

大晦日決戦『RIZIN.33』が目前に迫っている。

まだ、全対戦カード発表には至っていないが、15試合が決まっており、その中でも多大な注目を集めているのが、朝倉と斎藤のリマッチだ。

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

昨年11月、大阪城ホール『RIZIN.25』で両雄は、初代RIZINフェザー級王座をかけて対決。試合は白熱のクロスファイトに。判定で斎藤が勝利を収めたが、「朝倉が勝っていたのでは…」との声も多く上がるなど内容的には決着つかずのドローファイトだった。

あれから約1年1カ月。この間に両者には、さまざまなことがあった。

朝倉に勝ちRIZINフェザー級王座に就いた斎藤だったが、試合での肉体的ダメージは大きく、その年の大晦日決戦のリングには上がれず。今年6月、東京ドーム『RIZIN.28』でヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)に2-1の判定で辛勝するも、10月、横浜での『RIZIN.31』で伏兵・牛久絢太郎(K-Clann)にまさかのTKO負け。斎藤は初防衛戦で王座を失っている。

一方の朝倉は、昨年大晦日に弥益ドミネーター聡志(team SOS)との再起戦でKO勝利を飾るも、6月の東京ドーム大会のメインエベントでクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)に絞め落とされてしまった。その後、10月の『RIZIN LANDMARK』で萩原京平(SMOKER GYM)に判定完勝を収めている。

ふたりにとって2021年は、屈辱的な敗北を味わった年となった。

そして現状のコンディションも決してベストではない。

斎藤は、牛久戦で跳びヒザ蹴りを喰らい、右眼上をパックリと割られたばかりだ。

対する朝倉は、先月23日のAbema TV『1000万円企画』で素人と喧嘩対決をした際に左ヒザを負傷している。

それでも両雄は、大晦日のリングに上がることを決めた。「ここが勝負だ!」との思いが互いに強くあったからだろう。

アマチュアの競技者であれば、そんな無理をする必要はない。だが、プロであるならば、日本格闘技界がもっとも盛り上がる大晦日のリングを避けるわけにはいかなかったのだ。さらにイージーな相手を選ばず、勝負論のある苛烈な闘いに身を浸す決意をした。心意気や良しだ。

「ただで帰れるとは思っていない」

さて、この一戦を制するのはどっちだ?

「お互いに、この1年間で変わっていると思うので展開がどうなるかはわからない。ただ以前と比べて、フィジカルも打撃の威力も増している。そこを見せつけて1ラウンドKOで勝ちたい」

そう朝倉は、自信を滲ませる。

「絶対に勝つ、1ラウンドで倒したい」と公開練習後に話した朝倉未来(写真:RIZIN FF)
「絶対に勝つ、1ラウンドで倒したい」と公開練習後に話した朝倉未来(写真:RIZIN FF)

「どちらが自分の展開に持っていけるか、主導権を取れるかの勝負。自分の闘いをやるだけですよ。絶対に勝ちたい」

斎藤も、決戦に向けて迷いなしだ。

また斉藤は「打撃戦になるか? 寝技の攻防になるか?」との質問にこう答えた。

「打撃戦になりそうな気がする」

私も、そう思う。スタンドの攻防で互いに一歩も引かないだろう。もし、タックルを不完全な状態で仕掛けて潰されたならば、それが体力の消耗を伴う致命傷になりかねない。両者ともに、そのことを熟知している。打撃戦必至だ。

「この1年間で技術的にも精神的にも成長できた。大晦日のリングですべてを出し切りたい」と決意を口にした斎藤裕(写真:RIZIN FF)
「この1年間で技術的にも精神的にも成長できた。大晦日のリングですべてを出し切りたい」と決意を口にした斎藤裕(写真:RIZIN FF)

「戦略云々だけじゃなくて、気合いで上回った方が勝つ」

朝倉は、そうも言った。

これにも同意だ。展開が、どうなるかは読み切れない。実力も互角と見る。ならば、気持ちの勝負となろう。

朝倉は、RIZIN8連勝を阻止された「浪速の屈辱的な夜」を忘れていない。以降、トレーニングに真摯に取り組み、格闘技との向き合い方を変えて今日までやってきた。対する斎藤も連敗は許されない。牛久に敗れ、朝倉にリベンジされたとなれば、ここまで築いてきたものすべてを失う。ともに、スマートな闘い方など捨て「気持ちの勝負」を覚悟している。

いずれが勝つかは予想し難い。

それでも、ただでは済まない試合になることは間違いない。

試合を終えて正月は、どう過ごすか?

この問いに両者は、次のように答えている。

「今回の試合にかけている。ただで帰れるとは思っていないから予定は入れていない」(朝倉)

「病院で過ごしているかもしれませんね。決めていません」(斎藤)

大晦日の熱きリング、覚悟ある闘いの行方を注視したい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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