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「東京五輪の再延期はできない」は本当なのか?IOCに対し開催国として、もっと強気な姿勢を!

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
2019年6月に完成したIOC本部「オリンピックハウス」。建設費は約160億円(写真:ロイター/アフロ)

「もちろんイエスだ!」

この言葉を聞いた時、さすがにゾッとした。冷酷さを感じた。

5月21日にオンラインで開かれた東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪と表記)合同会議後の記者会見。

「緊急事態宣言下であってもオリンピックを東京で開催するのか?」とのメディアからの問いに対し、IOC(国際オリンピック委員会)副会長であり調整委員長のジョン・ダウリング・コーツ氏が躊躇なくそう答えたのだ。

今年2月、インタビュー取材をした際にJOC理事の山口香氏は言った。

「IOCは、開催国である日本の立場に寄り添うという発想が希薄だ」と。

その通りである、いやそれ以上だ。

「日本国民の安全な生活など知ったことじゃない。五輪が開かれればそれでいいんだ!」

コーツ氏の言葉は、そんな風に私の耳に響いた。

35年余りスポーツの現場を取材してきた。1996年のアトランタ大会以降、五輪にも幾度も訪れた。アスリートたちが五輪にかける想いも私なりに理解してきたつもりでいる。だから、東京大会も開催して欲しいと願ってきた。

だが、考えが変わった。

この状況下で東京五輪の開催に賛成か?

そう問われて「もちろんイエスだ!」と答えることは、私には到底できない。

各世論調査によると、東京五輪の中止・延期を日本国民の6~8割が求めている。そんな中で「人権尊守、人類共生、世界平和」を謳うイベントをIOCから押し付けられる形で無理に開催し何の意味があるのだろうか。開催国の国民に歓迎されない五輪、他国からも中止を求める声が多数を占める五輪…これほど滑稽で悲しいものはない。

東京五輪は、中止すべきか、開催すべきか。

私の考えは、いずれでもない。

再延期。その望みをまだ捨てていない。やはり1年後、2022年に開催することが最良だと思う。

いま日本は、他国に後れながらも、ようやくワクチン接種が進み始めている。65歳以上の高齢者に対してのワクチン接種が7月中に完了するかどうかはわからないが、さすがに来年の春には希望する日本人のほとんどが抗体を得ることができるだろう。そうなれば、新型コロナウィルス感染拡大は抑えられる。

五輪開催は、その後で良いではないか。

「再延期」は、まだ可能だ

「東京五輪の再延期はあり得ない」

IOC最古参委員のディック・パウンド氏は、5月18日に改めてそう話した。だが本当にそうなのだろうか?

開催経費のさらなる負担増、北京で開催される冬季大会と重なることなどを延期ができない理由として挙げている。

このほかにも、ビッグイベントとの兼ね合いもある。2022年には『FIFAワールドカップ』(サッカー世界選手権)がカタールで開催される。また、『世界陸上』が夏の時期に米国オレゴン州で開かれる。これらと重なることを避けたいのだろう。

そしてIOCは、コロナウィルス感染拡大が収まらなくても五輪を開催するつもりでいる。大会後に日本が危機的状況に陥る可能性が高いにもかかわらず、根拠なく「安心安全」を口にし続けるのだ。

IOCがそこまで開催にこだわる理由、それは改めて記すまでもなく「マネー」。

五輪におけるテレビ等の放映権料は、開催国ではなくIOCに入る仕組みになっている。

米国大手テレビ局NBCと結んだ契約により東京五輪を開催することで、IOCには約15億ドル(約1635億円)の収益がもたらされる。このほか世界各国のテレビ局からも放映権料を得るわけだから、その額は途方もない。これをIOCは、いち早く確保したいのだ。

4年に1度開催される夏季五輪の放映権料がIOCの主収入。よって東京五輪が中止となれば、これまでのように優雅な運営ができなくなってしまう。スイスに拠点を置くNGO(非政府組織)、NPO(非営利団体)というのがIOCの位置づけだが、実態は五輪ブランドを売る興行組織なのである。

嘉納治五郎氏が東京大会を開催しようとした頃の五輪には、確固たる理念があった。スポーツを通しての「世界平和」「人類の共生」。それは、嘉納氏が柔道に込めた想い「精力善用」「自他共栄」と重なるものだった。それから時を経て現在の五輪は、掲げた理念を隠れ蓑にした利益最優先の興行へと姿を変えている。

そろそろ、カミングアウトする時期だろう。IOCは「スポーツ界を牛耳ろうとする興行団体」に過ぎないことを。

少し話がそれた。本題に戻そう。

IOCは、自らの利権のために何としても今年、東京五輪を開催しようとしている。これを思いとどまらせ、再延期に持ち込むにはどうすればよいのか。

一つ方法が残されている。それは開催国・日本と開催都市の東京が「中止にする」とIOCを揺さぶることだ。

「五輪の開催・中止を決めるのはIOC、その権利は開催都市・東京にはない」

そう当然のことのように言われているが、これはウソである。

東京は、五輪開催権を返上することができる。そうすれば五輪は中止になるのだ。

「そんなことをしたら莫大な違約金を東京、あるいは日本が支払わねばならなくなる」

そう思い込んでいる向きもあるが、これもまたウソだ。そんな契約条項は存在しない。

開催権を返上した場合、IOCが損害賠償を東京都に求める可能性はゼロではない。だが、果たして、そんなことができるだろうか。国際世論が許さない。

もし、IOCが損害賠償を訴えたならば、今後、五輪開催地に立候補する都市は激減することだろう。そのリスクを狡猾なIOCが負うはずがないのだ。

「大会の再延期を求める。受け入れられない場合は開催権を返上する」

東京は、そう強気にIOCに迫る必要がある。いまや利権を最優先する組織と化したIOCは、「中止になるよりは…」との考えから再延期を受け入れざるを得なくなるだろう。

時間が迫っていることは関係ない。考えようによっては、時間はまだ十分にある。東京、組織委員会、日本政府は強気に、そしてIOCを上回る狡猾さで、国民のために英断を下すべきだ。その結果、東京五輪が中止に至るとしても──。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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