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志高きRIZINのエース・那須川天心のボクサー転向の刻は近づいている。だがその前にどうしても武尊戦を

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
皇治に判定完勝。戦績を36戦全勝とした那須川天心(写真:RIZIN FF)

36戦全勝、キック界孤高の存在に

「試合前に(パフォーマンスをして、煽って)盛り上げていくことも必要だとわかっています。でも、それが一番大切ではないんです。強さを求めることが格闘技の本質。なのに(皇治が)最後まで立っていたら凄いとか、そういうのもちょっと違うんじゃないかなと思って今回はイライラしたこともありました。格闘技の本質を忘れてほしくないんです」

試合後、那須川天心は少々語気を強めて、そんな風に話していた。

9月27日、さいたまスーパーアリーナで開催された『RIZIN.24』で天心は皇治を相手に判定勝利を収めた。

3ラウンドを通して攻め続けての完勝である。

なのに「なんだよ。天心、倒せないのか」「倒されなかった皇治は凄いな」となる。

加えて、戦前の皇治の人を小馬鹿にしたような度重なる挑発も、決して心地よいものではなかっただろう。

「違うだろう」

そう言いたくなる気持ちはよくわかる。

天心は、アスリートとしてリングに上がっているのであり、「皇治劇場」の登場人物ではない。

(なめんなよ)との思いを強く抱き皇治戦を闘い抜いた。

序盤から最後まで試合は天心のペースで進んだ。皇治に何もさせず3-0の判定完勝を収める(写真:RIZIN FF)
序盤から最後まで試合は天心のペースで進んだ。皇治に何もさせず3-0の判定完勝を収める(写真:RIZIN FF)

だがこれは裏を返せば、誰もが「天心と皇治の実力差」を認めていた証でもある。

皇治に勝利した天心のキックボクシング戦績は、36戦36勝(27KO)。

勝利を積み重ねる過程で、彼は孤高の存在となった。

K-1で活躍する武尊との頂上対決が望まれて久しい。だが団体間の壁は厚く、いまだ実現のメドは立っていない。海外から強豪選手を招聘しようにもコロナ禍で、それもままならない。ライバル視できる選手がいない状況が続いているのだ。

ライバル不在。

ならばと天心は、一つのテーマを掲げる。それは「相手は誰でもいいから、常にリング上で圧倒的な力の差を見せつけて勝つ」こと。

実際に昨年、今年とそれを貫いてきた。

だが、そろそろモチベーションの維持が難しいところに来ている。

皇治との闘いを終えて、天心も、それを痛感しているのではないか。

最終ラウンドには、ドロップキックまで繰り出した。泥臭く打ち合うことを望む「皇治劇場」には一切つき合わず、自らのスタイルを貫いた天心(写真:RIZIN FF)
最終ラウンドには、ドロップキックまで繰り出した。泥臭く打ち合うことを望む「皇治劇場」には一切つき合わず、自らのスタイルを貫いた天心(写真:RIZIN FF)

プロボクサー転向の先に見据える夢

「キックボクシングでは、あと10(戦)も闘いませんよ」

そんな天心のコメントが、『RIZIN.24』の予告番組(フジテレビ)で流された。

プロボクシングへの転向を匂わせる言葉が、その後に続く。

おそらくは、練習の合間に何の気なしに話したのだろう。しかし、それが大きくフィーチャーされてしまい天心も焦った。

だから、皇治戦直後の共同インタビューで、そのことに触れられると「あまりそこは掘り下げないでください。時期が来たら会見を開いて発表しますから」と質問を遮った。

1年先、2年先、3年先になるのか時期はわからない。ただ、プロボクシングに挑戦することを彼は以前から考えていた。自らの格闘家としての成長を遂げるために。

すでに元帝拳ジムのチーフトレーナーで、現在は用賀ジムを主宰する葛西裕一氏からボクシングの指導を受けている。

勿論、目指すは世界チャンピオンだ。ポテンシャルは十分にあるだろう。

皇治に勝利した直後、ファンに向けメッセージを発する天心。次戦は、11月1日・エディオンアリーナ大阪『RISE』のリングで裕樹を迎え撃つ(写真:RIZIN FF)
皇治に勝利した直後、ファンに向けメッセージを発する天心。次戦は、11月1日・エディオンアリーナ大阪『RISE』のリングで裕樹を迎え撃つ(写真:RIZIN FF)

さらにその先に夢は広がる。

ボクシングの世界チャンピオンになったうえで、UFC(総合格闘技)の同級王者と拳を交えたいのだ。

実現すれば、「メイウェザーvs.マクレガー」級のスーパーファイトとなる。

目指すは格闘技界の「世界制覇」。

22歳の神童の未来は、可能性に満ちている。

ただ、その前に互いが求めながら実現していないカード、「那須川天心vs.武尊」がどうしても観たい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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