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RIZINバンタム級新王者・朝倉海が明かした「勝因」と堀口恭司との再戦に固執する理由

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
RIZINバンタム級王者のベルトを腰に巻いた朝倉海(写真:RIZIN FF)

「積極的に」かつ「冷静に」

「チャンピオンになれたこともですが、勝てたことが素直に嬉しい。昨年の大晦日に(マネル・)ケイプに負けて、ここでまた負けたら終わりだなと思っていましたから、ひと安心です。大晦日のことが本当に悔しくて必死に練習しました。やってきたことは、間違いではなかった」

試合の直後、朝倉海は明るい表情でそう話した。

8月10日、横浜みなとみらい・ぴあアリーナMMで開催された『RIZIN.23』で朝倉は、扇久保博正に完勝(1ラウンド4分31秒、レフェリーストップによるTKO勝ち)。第3代RIZINバンタム級チャンピオンの座に就いた。

得意の打撃で攻め込んだ朝倉が、序盤から試合のペースを握った。(写真:RIZIN FF)
得意の打撃で攻め込んだ朝倉が、序盤から試合のペースを握った。(写真:RIZIN FF)

試合は一方的な展開となった。

朝倉が得意な打撃で攻め込み、4分過ぎにアッパーカットをクリーンヒットさせる。ぐらついた扇久保に対してすかさずヒザ蹴りを見舞い、その後、サッカーボールキック。勝負ありと判断したレフェリーが試合をストップした。

「作戦通りに試合は進みました。僕の方がリーチが長い。だから僕のパンチだけ当たって扇久保選手のは届かない距離を意識して作ったんです。テイクダウンを取られない自信もありました。パーソナルでフィジカルのトレーニング指導も受け、大晦日の時とは比べものにならないほどパワーもつけてきましたから」

そう話した後、朝倉は続ける。

「扇久保選手の過去の試合映像を観て研究もしました。

その中で、下を向くクセがあることもわかったんです。だから、アッパーとヒザ蹴りは狙っていて、それがズバリ当たりました」

「大晦日に負けて自分の弱かった部分が、よくわかりました。それを消すために練習場所を変えて、練習量も増やし、兄貴と一緒に練習する時間も多く持ちました。

 試合中、セコンドの声(兄・未来の声)もハッキリと聴こえました。その通りに動いて勝てたんです」

ケイプ戦と比して、今回の朝倉は落ち着いて試合を進めていた。

敗北を喫した大晦日、朝倉はケイプの勢いに飲み込まれまいとして「攻めダルマ」と化し冷静さを失っていたように思う。そのため、相手の動きを見定められずに被弾したのではなかったか。

その教訓を、朝倉は活かした。

扇久保戦でも、1ラウンド前半に攻め込みたくなる局面はあった。

だが、セコンドの声にしっかりと耳を傾けて距離を保つことを守り、攻め入るべきチャンスを待ったのだ。

「積極的に」かつ「冷静に」──。

一つの悔しい負けを経て朝倉は、フィジカル、メンタルの両面で進化を遂げていたのである。

1ラウンド終盤に一気に畳みかける朝倉。4分31秒、レフェリーが試合を止めた。(写真:RIZIN FF)
1ラウンド終盤に一気に畳みかける朝倉。4分31秒、レフェリーが試合を止めた。(写真:RIZIN FF)

大晦日に堀口恭司と再戦へ

「僕と堀口さんの試合を実現させてください!」

試合に勝ち腰にベルトを巻いた朝倉は、リング上でそう叫んだ。

ちょっと不思議な感じもする。

朝倉は一年前、名古屋での『RIZIN.20』で堀口恭司にKOで勝っているのだ。

負けた堀口がリマッチを要求するならわかるが、なぜ勝った朝倉が再戦に固執するのか。

おそらくは、連勝することで実力を証明したいから。

「まぐれ」

朝倉が堀口に勝ったことを、そう見ているファンも少なくない。

「不意の一撃を喰ってしまい堀口は負けた。でも実力的には堀口が上。もう一度闘えば、朝倉は勝てないだろう」

そんな声が根強くあるのだ。

これを払拭しないわけにはいかない。

扇久保に完勝した朝倉は、その先に堀口恭司との再戦、さらには世界の強豪との対戦を見据える。(写真:RIZIN FF)
扇久保に完勝した朝倉は、その先に堀口恭司との再戦、さらには世界の強豪との対戦を見据える。(写真:RIZIN FF)

また、堀口に対するリスペクトも感じられる。

昨年の夏まで、圧倒的な強さで「RIZIN」を引っ張ってきたのは堀口だった。そんな目標でもあった彼が再戦を望んでいる。ならば、受けないという選択肢はない。「堀口に連勝する」という高い山を越えることで真の「RIZINのエース」になろうとしているのだ。

さらには、世界の強豪と互角に渡り合うために。

「堀口さんと自分がもう一度闘うことを、みんなが望んでいると思う。お互いに万全のコンディションで試合がしたい。その舞台は大晦日が一番いい」

右ヒザ前十字靭帯断裂と半月板損傷に見舞われた堀口は、昨年11月に手術を行った。その際の診断では全治10カ月。順調に回復しており大晦日には間に合う見込みだ。また朝倉も今回の試合で、ほとんどダメージを受けていない。

今年の大晦日、大一番が実現することだろう。

それまでに平穏な日常が戻り、超満員の観衆が集えれば最高なのだが。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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