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イスラーム過激派の食卓:トルキスタン・イスラーム党はのんびり暮らす

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 イスラーム教徒(ムスリム)にとっての断食月(ラマダーン)が明け、目下ムスリムは断食明け祝祭期間中だ。当然、イスラーム過激派諸派もラマダーン中の戦果を誇るとともに、彼らが清く正しく美しくラマダーンとその後の祝祭を過ごしていることを広報しなくてはならない。しかし、今期のラマダーンについてのイスラーム過激派の動きは全般的に「極めて悪い」と評していいものだ。というのも、イスラーム過激派諸派の活動が例年になく低調だった昨期よりも一段と低調だったからだ。これは、最近戦果発表の体制が多少改善したかに見える「イスラーム国」も同様で、3月末のモスクワでの襲撃事件とその後の当局・報道機関の不用意な大騒ぎを考慮しても動きが「極めて悪い」との評価は変わらない。「イスラーム国」のラマダーンのショボさについては別稿で論じることにしよう。

 そんな中、例年通りラマダーン明けの祝祭の模様を広報してくれたのが、本来の敵である中国共産党との戦いをすっかり放棄してシリアの占拠地でのんびり暮らすトルキスタン・イスラーム党だ。同派は、昨期のラマダーンでも震災被害に苦しむシリア人民のことも、中国共産党に迫害されている(と同派が主張する)ウイグルの人民のことも一顧だにせずに自分たちの「楽しい」ラマダーンについての動画や画像を発信したが、今期も周囲の状況があまり目に入っていないかのような広報を続けた。写真1はハマ県の郊外部、写真2と3はラタキア県の郊外部のものとされているが、いずれもコンクリート造りの住宅風の一室での光景で、しかも料理はどこか他所の調理施設で用意して配送されたかのようにトレイに盛り付けられている。昨期に続き、同党の兵站機能がそれなりに整備されていることをうかがわせる光景だ。

写真1:2024年4月11日付トルキスタン・イスラーム党
写真1:2024年4月11日付トルキスタン・イスラーム党

写真2:2024年4月11日付トルキスタン・イスラーム党
写真2:2024年4月11日付トルキスタン・イスラーム党

写真3:2024年4月11日付トルキスタン・イスラーム党
写真3:2024年4月11日付トルキスタン・イスラーム党

 さらに興味深いのは、写真2に写し出されている肉まんか水餃子のようにも見える料理だ。これは、恐らくウイグル料理のマンタの一種であろう。シリアで暮らすトルキスタン・イスラーム党の食生活が、地元のアラブやムスリムのそれとは異なるものである点は幾度か指摘したが、彼らは現在もシリア人民とは異なる食生活を営んでいるようだ。また、一般のシリア人民はラマダーン中も、ラマダーン明けの祝祭もまともに楽しめないような生活水準の悪化に見舞われているのだが、トルキスタン・イスラーム党の構成員やその家族に関する画像群は彼らがそうした環境とはだいぶ隔絶したシリア暮らしを楽しんでいることを示している。

 トルキスタン・イスラーム党は、シャーム解放機構(シリアにおけるアル=カーイダ)の占拠地の一角で、シャーム解放機構の統制を受けつつ暮らしている。実は、このシャーム解放機構の占拠地は、これまでにない異常事態の下で今期のラマダーンとラマダーン明けの祝祭を迎えている。というのも、数カ月前からイドリブを中心とするシャーム解放機構の占拠地では、同派の治安機関による恣意的な逮捕・収監や拷問に対する住民の抗議行動が扇動され、抗議行動が続くにつれてその参加者たちはシャーム解放機構のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者の打倒を要求するまでになった(詳しくはこちら)。そして、抗議行動の最中、シャーム解放機構内での対立や人間関係の悪化から失脚し、一時逮捕・収監されていた同派の創業の一員であり「元ナンバー2」だった人物が不可解な爆破攻撃により「暗殺」/「粛清」される事件まで発生した(詳しくはこちら)。要するに、「悪の独裁政権」から解放されたはずの「反体制派」の占拠地の統治は、アル=カーイダを母体とするイスラーム過激派(=シャーム解放機構)に独占され、さらにそのイスラーム過激派の内部でもなんだか不透明な勢力争いや粛清が起きているという状態なのだ。しかも、そのシャーム解放機構に対する抗議行動を扇動しているのは、当初の「革命」運動の運営に失敗し、イスラーム過激派にあらゆる権益と政治的発言権を奪われた「元革命家」の市民たちだ。彼らが、相変わらず「敵方に暴力的弾圧を選択させる」ことを目的とした挑発的な抗議行動という、かつて失敗した戦術を繰り返しているところもなんだか嘆かわしいことだ。ともかく、シャーム解放機構の占拠地で起きていることは、非国家武装主体の統治や政治的振る舞いが、「かつては非難し、打倒しようとしていた圧政者の統治や振る舞いの真似事に終わりがちだ」という、非国家武装主体に関する既存の知見の集積に類似の事例を追加するだけのものに過ぎない。

 現在のシャーム解放機構の占拠地の情勢には、トルキスタン・イスラーム党をはじめ、同地に入植した外国起源のイスラーム過激派も「それなりに」苦慮しているようで、3月にはトルキスタン・イスラーム党を筆頭に、ウズベキスタン、カフカス、マグリブ、イラン、タジキスタン、アルバニアなどの外国勢10派と外国人のイスラーム過激派法学者11人の連名で「革命の成果保持」や「団結」を呼びかける声明を発表している。「革命の成果」がシャーム解放機構の圧政であり、それに「市民」が抗議している実態を直視できず、「革命の成果」としての自分たちの安住の地を守ろうとするなんだか情けない声明だ。今般のラマダーン明けの祝祭の食卓の模様がシリアやシリア人民を取り巻く現実から遊離しているように見えてならないのは、同党が現実に対しはっきりと発言できない遠慮や配慮の中で生きていることか、現実をちゃんと認識できない同党の無能さに起因するのだろうか。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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