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イスラエルが対イラン攻撃を実施??

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:アフロ)

 2024年4月19日、イランのイスファハン空港やその周辺で爆発音が聞かれたとの報道が出回った。イランでもイスファハン、テヘラン、シーラーズなどの諸空港での発着が一時停止した。イスラエル軍筋やアメリカの高官筋は報道機関に対し、これをイスラエルからのイランへの攻撃と述べているようで、4月13日のイランによるイスラエルへの攻撃に対する「報復」の一部なり全部なりが始まったと受け止められている。ただし、攻撃の規模がどの程度のものなのか、攻撃によりどこにどのような被害が出たのか、現時点では状況の全貌は不明だ。また、イラン側からは、飛来した小型の無人機3機を撃墜した、イスファハン周辺に立地する同国の核開発関連施設には攻撃が及んでいないなどの情報も出ており、機微な施設に被害が出て事態がさらに激化するとの心配もある。

 本邦を含む各国がイスラエルに「自制」を呼びかける中(注:ここまでイスラエルが行ってきた挑発的な暗殺や攻撃については一切とがめだてしていない)、イスラエルが「報復」としてとる行動としては、イラン領に対する大規模攻撃、イラン領に対する象徴的な攻撃+サイバー攻撃、サイバー攻撃のみという3つの可能性に加え、シリアをはじめとする「イラン国外の対象」への大規模攻撃が予想されてきた。実際、イスファハン空港周辺での爆発音についての報道とほぼ同時に、シリア南部の複数箇所やイラクでも爆撃があったとの報道が出回っている。13日のイランからの攻撃の際には、イラクやシリアやヨルダンに設置されたアメリカ軍の施設が監視や迎撃に使用されたうえ、ヨルダン軍もイスラエルを防衛するためにミサイル・無人機の迎撃に参加したそうだ。イスラエルからイランを攻撃する場合も、レバノン、ヨルダン、シリア、イラクのようにイスラエルとイランの間に立地する諸国の領域を侵犯して攻撃が実行される可能性が高い。そのため、イランとしても「抵抗の枢軸」として提携するレバノンのヒズブッラー、シリアの正規軍や「イランの民兵」と呼ばれる諸派、イラクの親イラン勢力などを通じて敵方を監視・抑止する体制を構築することはある意味当然だ。このため、イスラエルとイランが航空戦力・ミサイル類を用いて交戦する場合、両国の間にある諸国はその意志や能力とは無関係にイスラエルとイランによって領域が蹂躙されることになる。国際社会や報道機関は、両国の交戦やそれにまつわる外交動向に夢中になるあまり、両国の交戦が第三国の領域を蹂躙したり、第三国が交戦の舞台となったりすることについて気にも留めていない。「自制」要請や個々の行動への非難をするのなら、交戦に巻き込まれる諸国のことも考慮した振る舞いが必要なのではないだろうか。

 ともあれ、現下の最大の関心事は、今後イスラエルとイランとの対峙がどのように推移するかだ。イスラエルからの攻撃がサイバー攻撃なども含む多種多様なものならば、現時点で報じられている爆発音云々だけでは判断できない被害が出ることも考えられる。イラン側の機微な施設が攻撃されたり、隠しようのないほどの大損害が生じたりしてイランが何か対応せざるを得ない状況に追い込まれた場合、交戦が繰り返され情勢が一段と悪化することが懸念される。一方、どのような種類の攻撃であれその範囲・強度・質が「たいしたことない」と判断される程度のものなら、各当事者が今回の応酬はひとまず収束という方向に向かうこともありうる。13日の攻撃については、イスラエルの報道機関からも99%を迎撃した失敗させたというイスラエルの公式発表とは異なり「迎撃率は8割強、しかも軽微だがイスラエルの核施設の建物も損傷した可能性がある」との分析が出ているので、13日の攻撃の結果やそこに込められたメッセージをイスラエルがどのように認識・解釈しているのかも今後を展望する焦点となろう。また、13日のイランからの攻撃を通じ、迎撃ミサイルの世界的不足や、迎撃のためにかかる費用や手間が攻撃の10倍にも達するとの現実も明らかになっているため、今般の紛争の当事者でなくとも「安価な兵器の大量発射を反復するほうが勝ち」と分析する者が出ないとも限らないのは世界的な懸念事項だろう。

 第5次中東戦争、あるいは第3次世界大戦のような大戦争へと拡大することや、中東からの資源供給が滞ることも危惧されるのかもしれない。しかし、繰り返し指摘してきたとおり、全面対決では勝つ見込みがないイランや「抵抗の枢軸」陣営の諸当事者は紛争を「既存のルール」内で制御することに腐心しており、こうした振る舞いが変わるとすれば、その前にダマスカスのイラン領事館爆破(4月1日)をはるかに上回る挑発なり攻撃なりが起きるだろう。また、資源の供給国にとって、紛争を有利に運ぶために供給量を操作するという選択肢は一見とても魅力的だが、これは中長期的に大規模な顧客離れを招くことが必定の行為だ。つまり、イランが天然資源の供給や流通を妨げるような局面は、同国が中長期的な利益を度外視するほどの壊滅的状況だといえるだろう。ただし、こうした判断によって状況を楽観してよいということではなく、事態はちょっとした誤解は判断ミスによって簡単に激化しうる。事態悪化を防ぐための呼びかけや働きかけをする諸国・諸機関にも、事態を広範囲の国際紛争と認識し、より真剣に行動することが求められるだろう。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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