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イラク:水問題は天候のせいだけじゃない

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 近年、イラクでは主要な水源であるチグリス川、ユーフラテス川の流量が減少し、水不足や水質の悪化、環境悪化などの問題が顕在化している。これらの問題の原因として過去数年の降水量の不足も重要だろうが、実のところ、イラクの川上に位置するトルコやイランでの人口増加と水需要の増加、内外の原因に適切に対処できないイラク政府、そしてイラクの社会にも重大な問題があることも忘れてはならない。この問題について、『ナハール』(キリスト教徒資本のレバノン紙)はAFPを基に要旨以下の通り報じた

 それによると、下水からの漏出、河川への医療廃棄物の投棄などで水質汚染が「悲劇的に」進んでいるそうだ。国連の統計では、イラクの人口約4300万人のうち飲用に適した水の供給を受けているのは半分に過ぎない。河川の流量の減少に伴い、水質汚染問題も深刻化している。イラクの水資源省によると、水質汚染の原因の多くは政府の機関が原因となっている。例えば、チグリス川、ユーフラテス川沿いの諸地方自治体では下水を最低限の処理もせずに河川に放流している。また、流域の病院の大半は、医療廃棄物や排水を直接河川に投棄している。さらに、石油化学産業、発電所、農業施設なども水質汚染の原因となっている。水資源相はこれについて、政府は処理施設を通じて排水しない事業を認可しないとの通達を出して汚染に対処しようとしていると説明した。

 国連機関の専門家によると、イラクでは排水の処理施設も、法制度も、(排水や水質汚染に対する)一般の意識も不十分で、これが水質汚染の主な原因だ。首都のバグダードでも下水の処理のために能力が不十分な施設が2カ所あるだけで、その結果産業や家庭からでる排水の3分の2が処理されずに河川に放出されているそうだ。イラクの建設・住宅省は、上下水道の整備や水質検査の強化など3カ年計画で対処する方針で、UNICEFもバグダードの大規模公立病院での下水処理場建設に協力した。

 しかし、水質汚染問題についても、水不足と同様に事態がより深刻なのは南部の諸県だ。イラク人の多くは、家庭に供給される水道は飲用や料理に適さないので、そのための水を購入している。かつて、当局は水質汚染を軽減するためにダムなどから河川への放水量を増やすなどの対策をとっていたが、近年は貯水量の減少でそれもできなくなった。地元の環境問題活動家は、水質汚染問題の軽減では環境法規(とその適用活動の)活性化、違反者の問責、あるべき水利用についてのイラク国民への啓発が役立つと指摘した。イラク政府も啓発活動を強化して個人の行動を変えようと努めているそうだ。一方で、この活動家は医療施設への監督強化や下水処理施設設置の義務付けも進められていることから、2024年には医療分野の活動から生じる水質汚染が無くなるよう期待すると表明した。

 これまでの実績を見る限り、水不足や環境問題への対応でイラク政府が期待されるような成果を上げられるかは心許ない。しかし、重要な点はイラクでの水不足や水質汚染の原因を干ばつや気候変動だけに帰していては、問題は解決しそうもないということだ。イラクでも、過去数十年で人口が著しく増加しているが、政策や個人の行動がそうした変化に対応しているのかも大いに心配だ。イラクの水問題について考える際は、「とある事情」によって本邦も縁が深い地域(=イラク南部)が重大な影響を受けている地域であり、この点について無関心でいることは「とある事情」で現地と様々な縁ができたはずの多くの機関や個人にとって望ましくない態度だ。また、天候や近隣諸国とイラクとの外交交渉で個々のイラク人や本邦の個人・法人ができることはまずないが、啓発や比較的小規模な事業の積み重ねを通じて事態改善に貢献する余地はありそうなものだ。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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