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アフガニスタン:アフガン政府はターリバーンの眼中になし

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 2021年8月3日、アフガニスタンの首都カブールで国防相代行宅が襲撃される事件が発生した。「アフガニスタン・イスラーム首長国」(=ターリバーンのこと)は、報道官であるザビーフッラー・ムジャーヒド名義でこの事件を自派の作戦によるものであると発表した。発表によると、この作戦は「殉教志願者部隊の殉教者志願者複数が重火器、軽火器、自動車爆弾を用いて実行したもので、襲撃の間(攻撃対象の)邸宅では重要な会合が開催されていた」とのことである。また、ターリバーンの発表は今般の作戦を、「カブール政権(=アフガン政府のこと)の重要なサークル、要人に対するこの殉教攻撃は、カブール政権要人らが命令を出したアフガン各地での民間人に対する諸般の攻撃に対する反撃における報復の始まりである」と位置付けた。その上で、「イスラーム首長国は今後占領者である敵と内部の敵からなる不正をなす者に対し沈黙せず、全力で対峙する」と主張した。

 このような攻撃や脅迫は、ターリバーンとアメリカとの間の「ドーハ合意」でアフガン人同士の対話を通じた和平の実現が謳われたことに反すると見えるかもしれない。しかしながら、ターリバーンにとってアフガン政府など和平や権力分有を話し合う対象ではなく、外国軍の庇護がなければ早晩消え去る存在と認識されている模様である。アフガン人同士の対話なるものが入り口論(アフガニスタンを「イスラーム統治」するとはどういうことかというそもそも論や、双方の交渉団に女性や「少数派」のものがどれだけ含まれているかなどの手続き論)からろくに進んでいないことに鑑みれば、ターリバーン、そしてアメリカにとっても対話が成果を上げないうちに軍事情勢がターリバーンの勝勢へと一気に傾くことは想定済みだったのかもしれない。現に、アメリカ政府は現在のアフガン政府が外国軍の撤退後、外国軍に協力したり、彼らの下で働いたりしていたアフガン人の身の安全を保障できないと判断している

 現在のアフガン政府をどう評価するのか、といったターリバーン現状認識や関心事項については、個別の「犯行声明」とやらや要人の発言、取材者・調査者しか情報の全貌を知りえない個別インタビューのようなものだけではなく、ターリバーンが日々発信する広報製作物を長期間観察することによって分析・判断すべきである。特に、ターリバーンは月間の機関誌(アラビア語)を刊行しており、その目次を眺めているだけでもそこそこの情報量になる。興味深いことに、その機関誌の最新号には「アシュラフ・ガニー(=現在のアフガンの大統領)の運命」と題する論考が掲載されており、外国軍が撤退した後に残されるアフガン政府の運命を、1989年にソ連軍が撤退した後のナジーブッラー政権のそれとの比較の観点で論じている。論考は、ナジーブッラー政権はソ連軍が撤退した1989年2月から1992年4月までの3年間持ちこたえたが、現在のアフガン政府はそうはならなそうだと主張している。ちなみに、政権崩壊後国連に保護されていたナジーブッラー氏は、1996年9月にターリバーンが処刑している。論考は、ナジーブッラー政権と現在のガニー政権とを比較し、以下の通りの主張を展開した。

*ナジーブッラー政権は、ソ連軍が撤退した時点で各州の州都を支配するのみだったが、ガニー政権よりは強力だった。なぜなら、ナジーブッラー政権の国防・治安の高官たちは、イデオロギー面で政権に対して忠実だったが、ガニー政権には高官にも軍にも政権を守る思想信条的な結びつきがない。

*ナジーブッラー政権の敵対者たち(=ムジャーヒドゥーン)は複数の党派や指導者の下で分裂していたが、ガニー政権の敵対者であるターリバーンは単一の指導部の下で一体のものである。

*外国軍の撤退期限である9月11日を前に、アフガン領の多くと高速道路はガニー政権の統制外となった。外国軍が完全撤退したのちは、郡を陥落させる作戦の代わりに州を陥落させる作戦が始まるだろう。

*ガニー政権は、ターリバーンという外敵によって脅かされているだけでなく、政権内の分裂と政権の構成員間の信頼の欠如にも脅かされている。また、同政権の腐敗は、政権の名声を落とし、政権の支援者たちが支援を継続することに絶望する状態を招いている。

*ターリバーンは、国土の85%を制圧し、多数の軍事車両・物資を奪取し、数百カ所の基地を制圧した。現在ターリバーンは、アメリカが装備を与えたアフガン軍45万に対抗可能である。

*アシュラフ・ガニーの治世が長くなろうが短くなろうが、同人が妻とともに国外に脱出することができるか、あるいは国内のアメリカ大使館に逃げ込まざるを得なくなるのかは定かではない。

 この論考は、機関誌上の記事ということもあり強気で扇動的なものだ。ただし、これまでターリバーンが、自派はドーハ合意を順守してアフガン人同士の対話にもまじめに応じてきたと主張してきたことと比べると、アフガン政府に対話の当事者能力がないという主張をさらに強めたものにも見える。ターリバーンとアフガン政府とが、何かの協議や交渉を通じてアフガンの将来を決める可能性は限りなく低下しているといえよう。なお、ターリバーンが発信する文書や機関誌を一生懸命読んでも、同派が言う「イスラーム統治」の末端での実践の方策や仕組みはさっぱりわからないので、将来のアフガンの「統治」が(ターリバーンの)恣意的解釈によるイスラームの実践に違反した者を棒や鞭でたたく、よりも高度なものになるかはなはだ心許ない。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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