2021年6月7日、「アフガニスタンイスラーム首長国」(=ターリバーンのこと)は声明を発表し、これまで通訳や警備員などとして外国部隊に協力してきた者たちに(身の安全を懸念して)出国(=逃亡)しないよう呼びかけた。いわく、「過去20年間、多数のアフガン人が騙され、通訳、警備員などの名目で占領軍の側に立って時間を過ごしてきた。その占領軍が退去する状況の中、これらアフガン人たちが懸念し、出国を望んでいる」のだが、「これらの者たちは過去の行いを後悔し、宗教と祖国への裏切りの道を将来選ばないようにすべきではあるが、どれもこの国から逃亡する必要はない」との由である。また、声明は「我々は、これらの者たちが直接敵の戦列に立っていた時は敵とみなしたが、彼らが敵の戦列を離れ、普通のアフガン人として通常の生活を選んだのならば彼らとの間に何の問題もない。彼らも何も恐れなくてよい」と主張した。

 このような声明が出回る原因は、現在アフガンで進んでいるアメリカをはじめとする外国軍の撤退により、これまで外国軍と仲良くしていたアフガン人の間で自分たちの身の安全が直ちに脅かされるとの懸念が広がっていることだろう。実際、アメリカの国防省や軍がこのような人々を退去させる計画を検討しているとの報道もある。今般の声明は、このようなアフガン内外の動きに対応し、ターリバーンが今後のアフガンを「穏当に」支配する意志や能力があると誇示するためのものだろう。

 しかしながら、現実の問題としてアメリカをはじめとする外国軍に協力したアフガン人の立場に立てば、このような声明は信用が置けないし、外国軍の撤退後に残される現在のアフガン政府が自分たちの身の安全や生活水準を保障することなど到底できないと考えるであろうことも無理のない話に見える。ターリバーンは、アメリカとの間で「ドーハ合意」がまとまるまでの間、毎年春期攻勢を実施し、その都度どのような対象とどのように攻撃するのかを具体的に提示して敵方を脅迫してきた。それを毎年観察していると、2014年の攻勢では外国軍だけでなく、外交団とその車列、通訳を含む外国軍と共に働く者も列挙する攻撃的な態度だったものが、年を経るにつれて援助団体を実質的に攻撃対象から外したり、アフガン政府・軍の末端の構成員を自派の側に寝返らせることを目標とするようになったりと、態度が変化してきた。

 つまり、ターリバーンの論理に立てば、外国軍への協力者やアフガン政府の末端の構成員は、明確な離反表明やターリバーンへの投降があれば「見逃してやる」ということになる。このような態度は、支配地域を軍事的に制圧する一方、「統治者」として制圧下の人民にサービスを提供する機能を国際機関やNGOに丸投げするであろうターリバーンにとって、外国の機関とコネや協働の経験がある者を生かしておく意味があることを示す。また、現実の問題として、アフガンの軍・治安部隊・官公庁で働く要員は数十万人に上っており、その家族まで含めると関係者は膨大な人数となる。これらをみんな懲罰・粛清するというのは現実的ではない。一方、外国軍への協力者やアフガン政府の末端の構成員にとっては、ターリバーンの状況判断次第でいつでも過去の経歴を追及されたり、何かの脅迫やゆすりの対象にされたりする恐れはいつまでも払拭できないことになる。

 となると、問題は現在のアフガン政府は外国軍がいなくなってしまった後は「たいして役に立たない」と考えるアフガン人がかなり多数いるようだ、という点にある。アフガンの現体制については、軍や治安部隊だけでなく官公庁に至るまで、本邦を含む多数の国々が長期間多大な労力と財力を投じて育成に取り組んできた。それが、当のアフガン人からまるで評価されていない可能性が高いという重要な問題なのだ。上述のアメリカで検討されているアフガン人の保護計画の対象者はせいぜい数千人、アメリカの協力者としてアメリカ行きの査証を申請している者も数万人ということらしいので、本当の意味で「占領者とその傀儡」に与したとして将来の身の安全を心配しなくてはいけない者たちの数には到底及んではいない。そのような者たちが恐慌状態に陥り、短期間のうちに逃亡や職場放棄を起こして現在のアフガンの政府が崩壊する、というのが最悪中の最悪の可能性となるだろう。そして、本当にそんなことが起きた日には、長年アフガン政府を支援してきた本邦と関係機関も何かの形で釈明や反省の意思表示をしなくてはならなくなるだろう。